サン ジェルマン34 オードトワレ
原名:34 boulevard Saint Germain
種類:オード・トワレ
ブランド:ディプティック
調香師:オリヴィエ・ペシュー
発表年:2011年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/18,700円、100ml/25,630円
公式ホームページ:ディプティック
ディプティック50周年を記念する香り
2006年にディプティックのクリエイティブ・ディレクターに就任したミリアム・バドーは、2008年に、大きなプロジェクトを始動させました。それは創業50周年を迎える2011年に向けて、記念フレグランスをはじめとする新ライン「サン・ジェルマン34シリーズ」を誕生させることでした。
創業50周年に相応しい香りとはどのような香りなのだろうか?ということを調香師のオリヴィエ・ペシューと打ち合わせした末に見出した結論はこうでした。それはサン・ジェルマン大通り34番地にあるディプティック本店のドアを開けた途端に感じ取れる香りを、彼が所属するジボダン社の「ヘッドスペース法」を使用してボトルに封印しようということでした。
かくして、一人の男が召喚されることになるのでした。その男の名を〝ローマ帝国のカイザー〟という名を持つローマン・カイザー(1945-)と申します。彼こそが、繊細で予測不能な香りを捕集する技術「ヘッドスペース法」を完成させた人であり、〝セントハンター〟、または〝香り泥棒〟と呼ばれる人なのです。
東南アジア産の香木アガーウッドや、ブラジルに生育する洋蘭カトレア・ルテオラ、アルプス山脈に咲く忘れな草といった、アマゾンなどの辺境の地に生息する絶滅危惧種の植物の香りを求めて探検してきたこの男にとって、パリのサン・ジェルマン大通り34番地での仕事は極めて異例のことでした。
その男の名をローマン・カイザーと呼ぶ。
腹を割って話すと、最初に私はすっかり怖気づいてしまいました。それは、フランス領ギアナの熱帯雨林の上を初めて気球で飛んだときのような、あるいはパプアニューギニアの奥地へ香りの探検に行くためにポートモレスビーに到着したときのような究極のチャレンジに直面した時に感じる感覚でした。
しかし、すぐに、このようなチャレンジは香りに対する理解をより深めるために非常に興味深いことだと考え、自信が戻ってきました。
リグーリア海岸や、東京の南500kmにある小さな島である八丈島、カリフォルニアのセコイア国立公園などで、自然界の香りの環境を研究した時の経験が蘇えり、同じアプローチで、ディプティック本店のサンジェルマン通り34番地に向き合ってみようと考えたのでした。
ローマン・カイザー
2008年3月26日、ローマン・カイザーは、ミリアム・バドーとオリヴィエ・ペシューと共に、サンジェルマン通り34番地を訪れました。
ここでローマンが完成させた「ヘッドスペース法」について軽く説明しておきましょう。不安定で繊細な揮発性の香り、なかでも採取の難しい希少な花々が発する香り成分を捕集するために、ガラスドームで花を覆い、不活性ガスで満たし、分離した香気成分をポリマーに保存し、ガスクロマトグラフィーで分析し、人工的に香りを再現していくのです。
オリヴィエが「科学者であり調香師でありアーティスト、不可能を可能にする巨匠」と呼ぶローマンは、何十年もの月日を経て蓄積された数えきれないほどの香りが絶妙に混じり合っている店内の香りを「ヘッドスペース法」で数ヶ月に渡り30種類以上捕集し、2ヵ月かけて4つに分類していきました。
- グリーンノート・・・湿ったコケ、潰されたブラックカラントの葉、日の光で乾燥したイチジクの葉
- スパイスノート・・・ダマスカスの市場で嗅ぐ事が出来そうな香辛料
- フローラルノート・・・英国庭園のフレッシュな花々
- ウッドノート・・・ミルキーで気分が休まる香油のようなリッチでエキゾチックなウッド
そして、バトンはオリヴィエ・ペシューに渡されるのでした。かくしてさらに2年の月日を費やし、店内の家具、カウンター、キリムラグ、それまで生み出された約50種のキャンドル・石鹸とフレグランスを集めた香りの万華鏡として、〝ボトルの中のディプティック〟が40種類もの香料によって生み出されたのでした。
この香りの特徴は一言で言うと、順を追って説明できない万華鏡のような香りです。
ボトルの中のディプティック
それまでディプティックに登場してきたありとあらゆる香りが集約したこの香りは、「フィロシコス」を思い出させるミルキーなイチジクと、グレープフルーツの香りからはじまります。
すぐに「ロンブル ダン ロー」を思い出させる甘酸っぱいブラックカラントと、ガルバナムをはじめとするグリーンノートがブレンドされた生き生きとした空気に包まれてゆきます。そして、クローブ、シナモン、カルダモン、ピンクペッパーといったスパイスが加わっていく中、香りは万華鏡のように、言葉の領域から感じる領域に移行してゆくのです。
やがて「ドソン」を思い出させるチューベローズを中心としたローズ、ヴァイオレットの華やかな花々の香りと、ゼラニウムとアイリスのパウダリーな香りがパチョリの中でかき混ぜられ、ドライフラワーとドライフルーツ、木片、ドライハーブが混ぜられたポプリのような芳香に包まれてゆきます。
そして、ドライダウンと共に、「タムダオ」を想起させるクリーミーなサンダルウッド×シダーとスパイス×アンバーが織り成す、ディプティックが初期に扱っていたペンハリガンのフレグランスのムードも感じさせる余韻に包まれていきます。
さらに清涼感のあるユーカリがほのかな(コーラのような)発泡性を生み出し、もう何も感じずに心地よさに身を任せ下さいと言わんばかりに〝ボトルの中のディプティック〟の渦の中に引き込んでゆきます。さぁ、森とスパイスと花々があなたの肌に語りかけるのです。
通常のフレグランス・ラインと全く違ったボトル・デザインです。黒いベークライト製のマグネット付きストッパーは、創業者のデスモンド・ノックス=リットが描いた楕円形のラベルがモチーフになっています。
ボトルの中に見えるコットンの編みひもで飾られたスプレーチューブは、メゾンが1963年に最初の生み出したキャンドルへのオマージュであり、キャンドルの芯をイメージしたものです。さらにガラス瓶の底は、ペーパーウエートを彷彿とさせるデザインになっています。
香水データ
香水名:サン ジェルマン34 オードトワレ
原名:34 boulevard Saint Germain
種類:オード・トワレ
ブランド:ディプティック
調香師:オリヴィエ・ペシュー
発表年:2011年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/18,700円、100ml/25,630円
公式ホームページ:ディプティック
トップノート:クローブ、シナモン、ナツメグ、ブラックカラント、カルダモン、フィグリーフ、ピンクペッパー、グリーンノート
ミドルノート:ゼラニウム、チューベローズ、アイリス、ターキッシュローズ、ヴァイオレット、ラベンダー
ラストノート:樹脂、ウッディノート、ユーカリ、パチョリ、アルテミシア