2ページの記事です。
作品データ
作品名:プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角 Pretty in Pink (1986)
監督:ハワード・ドゥイッチ
衣装:マリリン・ヴァンス
出演者:モリー・リングウォルド/ジョン・クライヤー/アンドリュー・マッカーシー/ジェームズ・スペイダー/アニー・ポッツ
男性のファッション・アイコン『ダッキー』登場。
ダッキー・ルック1 テディ・ボーイ・ルック
- 派手な柄のボタンダウンシャツ
- 牛の頭のアクセ付きループタイ(ボロタイ)
- ブラウンのギンガムチェックのジレ
- グレージャケット。シャツの袖は二つ折りで、ジャケットの袖に丸める
- ジョン・レノン・グラス、ワイヤーリム・サングラス
- ブラウンのポークパイ・ハット
- 右腕にピンバッチ、ラペルに金の流星のようなアクセ
- 右腕に白赤ボーダーのワッペン
- 黒のルーズシルエットパンツ
- 黒黄色のソックス
- 黒コンバース
『プリティ・イン・ピンク』は、男性のための映画の一面も持ち合わせています。特に青年のための映画といえます。その理由は、ジョン・クライヤー(1965-)演じるダッキーです。1980年代の映画の中で、最高峰に位置するこのファッション・アイコン・キャラクターの提示するスタイルは、1950年代のロンドンの下町のテディ・ボーイ・スタイルでした。それは、本作のコスチューム・デザイナーのマリリン・ヴァンスにっても強烈な思い入れを残し、デザイナー自身に、ダッキーこそ最もお気に入りのキャラクターだと言わしめたのでした。
1945年に第二次世界大戦が終わり、それまでのミリタリー・テイストに対する鬱憤が発散されるかのごとく、ロンドンを中心に、エドワード7世(通称テディ)時代の優雅なファッションへと若者は傾倒していきます。その空気をいち早くかぎつけたサヴィル・ロウは、復員スーツの中に、そのテイストを取り入れました。
1950年代はじめに、アメリカのロックンロールに夢中になったロンドンの下町の青少年が、テディ(エドワード7世)・ボーイ・ルックに実を包みます。そして、すぐにイギリス全土をテディ旋風が覆い尽くします。日本においても、テディ・ボーイ・ルックは、ロカビリー・ファッションとして伝来するのでした。その根底にあるのは、ファッションと音楽の融合でした。「いかにクールに生きるのか?」二つの世界大戦が生み出した貧困と不思議な開放感(ある程度の犯罪行為は正当化された)の土壌が生み出したストリートカルチャーの原点とも言えるエネルギーに包まれていました。ストリートカルチャーの本質にあるのは、劣等感であり、それを克服しようとする葛藤が、パンチの効いた自己主張の激しいファッションを生み出すのです。
大人には出来ないことが出来る喜び。
ダッキー・ルック2 ダンシング・ルック
- ブルーのグラフチェック入りのイエロージャケット
- 赤ジャンパー、襟には黒の合皮
- その上からジレ。カラフルな涙柄
- 牛の頭のアクセ付きループタイ
- 黒パンツをロールアップ
- 赤×黄のルーズソックス
- 汚れた白のポインテッド・トウ・シューズ
- ラペルに金のアクセ
ダッキーと言えば、このダンシングシーンです。いつの時代も個性を追求する若者は同世代からバカにされるものです。でも、バカにされても自分を貫く爽快感。多数派で群れることと、少数派で群れないこと。ファッションとは、どちらのことを指すのでしょうか?
ファッションとは、いじめられるような小男がどうしようもなくカッコよく見える瞬間を生み出せる所にその力と魅力があります。それは決して長身で、ルックスのよい自惚れ屋さんからは生み出せない領域なのです。コンプレックスの伴わないファッション・アイコンなぞ、ただのマネキンに過ぎません。ダッキーの魅力は、まさにこの点にあるのです。
モテないオシャレ男のバイブル。
ダッキー・ルック3 プロム・タキシード
- ネイビーのタキシードジャケット、ショールカラー
- ウイングカラーの白シャツ
- ループタイ
- ジョン・レノン・サングラス
- 白のポインテッド・トウ・シューズ
当初、エンディングは、ダッキーとアンディが結ばれる形で終わっていました。しかし、スタジオの要求もあり、再撮影が行われます。すでに次の撮影のために、減量とヘアカットしていたアンドリュー・マッカーシーは、ウィッグをつけています。このシーンの彼の髪型の微妙さと、やせ衰えた雰囲気は、そのためなのです。
そして、結果的に、アンディとは結ばれなかったダッキーは、クリスティ・スワンソンに一目惚れされるのです。その時の、ダッキーの仕草が最高です。「まあ、かわいい男ね」と見つめてくる美少女に、まさか俺を見てんじゃないだろうと、後ろに誰かいるんだろうなと確認するキュートさ。そして、最後に観客に向かって勝利宣言!この瞬間、ダッキーは、モテないオシャレ男にとっての永遠のアイコンになったのでした。