ドゥース アメール
原名:Douce Amere
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2000年
対象性別:ユニセックス
価格:日本未発売(75ml/€260)

甘くて苦い 溶けてくような 忘れられない香り

©Serge Lutens
悪魔のような緑の妖精を新たな解釈で表現した「ドゥース アメール」は、アブサン愛飲家の精巧な儀式を愉しく想起させる。グラスに載せた穴あきスプーンを通して、カラフェの水を角砂糖に滴らせ、それがゆっくりと溶け、アブサンのエメラルドグリーンの血と混ざり合う。極上の苦味をお楽しみあれ!
「まず苦く、次に甘く、それはもちろんアブサン。ニガヨモギが灰色なら、この二つの感覚が私の中で葛藤する…そして肌の上で和解するのだ」
セルジュ・ルタンス公式サイトより
セルジュ・ルタンスから2000年に発売された「ドゥース アメール」とは、フランス語で「甘さ(心地よさ)と苦さ」という意味です。ニガヨモギ(アブサン)の苦味に、甘いジャスミンが絡み合うフレッシュ・オリエンタルの香りは、クリストファー・シェルドレイクにより調香されました。
シェルドレイク自身が、セルジュ・ルタンスの香りの中で最も苦戦した香りだと言及しています。酔わせるアブサンからはじまり、うっとりとあなたをデコレートするエレガントなミンクのようなバニラで終わる、洗練されたグルマンの香りです。
現在この香りは、パレ・ロワイヤル本店だけで取り扱われている「レフラコンドターブル」コレクションのひとつとなっています。
緑の妖精=アブサンの〝死の天使〟伝説

アルベール・メニャン『緑色のミューズ』(1895年)

ヴィクトル・オリヴァ『アブサンを飲む男』(1901年)
飲みはじめは普通の酒と変わりない。しかし、しばらく飲み続けると、しだいにモンスターのような、おぞましいものが見えはじめる。そして、これに耐えたら、最終段階にたどり着くのです。そこでは、見たいもの、素晴らしい好奇心をそそるものが見ることができる。
オスカー・ワイルド
この緑の液体(ストレートで飲むことはまずない)に、水を混ぜると水晶玉の中で精霊が踊っているようなオパールの質感が生まれることから「緑の妖精=the green fairy( la fee verte)」と呼ばれるアブサン。
スプーンの上に角砂糖を置き、角砂糖がスプーンで溶けるまで水を垂らすという飲み方もあることから、独特な世界観を持つリキュールとして今も世界中で根強い愛好家を持ちます。
悪魔が発明した液体とも、生命の霊薬とも言われたアブサンは、18世紀後半にスイスで誕生した薬草系リキュールの一つです。ニガヨモギ、アニス、ウイキョウなどを中心に複数のハーブ、スパイスが主成分です。アルコール度数が高くほとんどが45%~80%のものです。
19世紀にフランスの芸術家たちに愛飲され、オスカー・ワイルドやポール・ヴェルレーヌを殺し、ロートレックとゴッホを狂気に陥れたこの液体により、多くの男たちが家族を自らの手で崩壊させ、貞淑なるうら若き乙女たちを梅毒を持つ売春婦に変えてしまいました。
ニガヨモギ(ワームウッド)の香味成分であるツジョンにより幻覚などの向精神作用が引き起こされるとされ、スイスでは1910年~2005年にかけて禁止されました(フランスでは1915年~1988年の間)。ちなみにヨハネの黙示録にはワームウッドという死の天使が登場します。
ラムシュタインがオープニングで火炎放射器を吹く映画『トリプルX』(2002)で登場する緑の液体のイメージこそアブサンの魔酒イメージにぴったりです。
身も心もひりひりと溺れていく、アブサンとバニラのランデブー

〝まず甘く、そして次に苦く〟という風にこの香りは、飴と鞭を使い分けるように、最初から発泡するお酒のようなハーブの苦味とシナモンが振りかけられたレモン(マリーゴールドによる)の酸っぱさが、不思議な清涼感を従わせながら広がっていくようにしてはじまります。
すぐに本格的にアブサンの酔わせる苦みが引き伸ばされた素肌の上に、ふいに甘やかなジャスミンが花を咲かせてゆきます。あくまでアブサンはその甘さに誘惑されないようにやすやすとひとまとめにならないのがこの香りの魅力的なところです。第三の存在として酸っぱさもはっきりと存在します。
甘い誘惑に負けないように、禁忌を健気に守ろうとするアブサンのもとに、アニス、リコリスが馳せ参じ、溶け込んでゆきます。少しビターチョコレートのような感触も感じられます。
一方、ジャスミンにはティアレ・フラワーと百合、マリーゴールド、さらには砂糖が溶け込んでゆき、やがて最高の苦みと最高の甘さに翻弄される素肌の上を一筋のショートケーキのようなバニラが流れます。
この透き通るような、決して濃厚ではない、気高く甘やかなアイシーバニラとアブサンが紳士同盟を締結していく瞬間がこの香りのハイライトと言えます。そこにムスクとシダーウッドも加わり、とろける円やかな甘さと苦みがひとまとめになった、クリーミーな至福のラストに、身も心もひりひりと溺れていくのです。
愛のあるセックスからのみ生まれる『愛の香り』

この香りの私のイメージは、裸体にフェザーストールを巻き付けたクラウディア・カルディナーレ様です。

逞しい肉体から、匂い立つような色香。
汚れを知らない純白のショートケーキのような高潔なる貴婦人バニラが、アブサンの洗礼を受け、決して知ってはならない快楽に目覚めていくような、貴族的なエロスを忍ばせた、エレガントに酔わせるバニラの香りです。
ミンクの毛皮に包まれた、アップスタイルに赤い口紅に、全裸とピンヒールの貴婦人を思わせる、どこまでもエレガントな香りです。
最後に、この香りの主役は、甘さでも苦さでもなく、酸っぱさであることを知る事になるでしょう。それはこの香りを身に纏った一日の終わりに、ほんのりと甘いバニラの香りに包まれていると思いきや、最愛の人と愛を交わしている最中に、うっとりするような甘さと苦さをひとまとめにしたエロティックな汗の香りが広がっていくようです。
クミンよりも遥かに官能的な、愛のあるセックスからのみ生まれる『愛の香り』に満たされるのです。「ドゥース アメール」それは、甘い涙と苦い涙の先にある、底なしの快楽から生まれる歓喜の涙の香りなのです。
タニア・サンチェスは『世界香水ガイド』で、「セルジュ・ルタンス以上に近年オリエンタルのジャンルを広げたブランドは思い当たらない」「「エメロード」までしか遡らなくても、オリエンタル調というのは必ずアンバーの豊かさをもとにしていて・・・「シャリマー」以降、「タブー」より無難な「ユースデュー」が、ユースデューより無難な「オピウム」が、オピウムより無難な「ココ」が作られ、そのように続いていく」
「もともとピエール・ブルドンが「フェミニテ ドゥ ボワ」に使った着想を用いて、シェルドレイクが、どちらかといえばそれまであまり作られていなかった、女性用のウッディ調香水の出発点となるようなオリエンタルを生み出した」「ドゥースアメールは、魅力的なアニス調オリエンタルで、強烈なアブサン酒が好きな人のために「アンボワバニール」を明るくした感じ」と4つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:ドゥースアメール
原名:Douce Amere
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2000年
対象性別:ユニセックス
価格:日本未発売(75ml/€260)

トップノート:シナモン、ニガヨモギ、アニス
ミドルノート:百合、ジャスミン、ティアラ・フラワー、砂糖
ラストノート:シダーウッド、ムスク

