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フレデリック・マル

【フレデリック マル】ベチベル エクストラオーディネール(ドミニク・ロピオン)

フレデリック・マル
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ベチベル エクストラオーディネール

【特別監修】Le Chercheur de Parfum様

原名:Vétiver Extraordinaire
種類:オード・パルファム
ブランド:フレデリック・マル
調香師:ドミニク・ロピオン
発表年:2002年
対象性別:男性
価格:10ml/9,790円、30ml/24,530円、50ml/33,770円、100ml/46,530円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム

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フレデリック・マル初のメンズ・フレグランス

©FREDERIC MALLE

私は(母親がディオールの仕事をしていたので)タダで、しかも無制限にオー ソバージュ(ベチバーが使用されている)を使うことが出来たので、私はいつでもオー ソバージュを纏っていました。11歳か12歳のとき、私はオー ソバージュをつけながら、学校でホッケーをして走り回り、汗をかいていました。そのとき、温かくなった体と香水がいかに興味深く且つ強力に結びつくのかを理解しました。

フレデリック・マル

2000年に創業したフレデリック・マルは、2002年にブランド初のメンズ・フレグランスとなる「ベチベル エクストラオーディネール」を発売しました。一般的な香水の約三倍もの量(約25%)に相当するベチバーが過剰使用された香りです。

その名の意味は、フランス語で「並外れたベチバー、非凡なベチバー」です。〝究極に洗練されたメンズ・フレグランス〟とも言えるオリエンタル・ウッディの香りは、ドミニク・ロピオンにより調香されました。

フレデリック・マルとドミニク・ロピオンの出会いは、1988年に、マルがルール・ベルトラン・デュポン(後にジボダンに買収された)に入社した時からはじまります。この頃、ドミニクから嗅がせてもらったあるベースノートの強烈な香りは新人時代のマルに衝撃を与えました。

そして、マルがブランド創設後、ドミニクにあの時のベースノートが忘れられないと話しました。するとなんと15年も前のフォーミュラを書きとめたメモを彼は保存していたのでした。そこにはカシュメラン・サンダルウッド・イソEスーパーといった3種類のエキゾチックなウッディ系の香料がブレンドされていました。

このベースノートを再現してもらった時、丁度ドミニクの手元に、ラボラトリー・モニーク・レミーから送られてきた分子蒸留された二つのハイチ産のベチバーのエキス(カンファーや薬のような苦味をなくした鋭い清涼感を持つもの)が送られてきました。

これを同時に嗅いだマルは、まさに神の啓示だと感じました。そして、二人は、クラシックなベチバーをテーマにした新しい解釈の妥協なきメンズ・フレグランスを生み出そうと意気投合したのでした。

かくして、「ベチベル エクストラオーディネール」は、完成するまでに16ヵ月間かけて500回の試作を繰り返し生み出されたのでした。

ベチバーは、メンズ・フレグランスの代表的な香料ですが、シャネル「N°19」やゲランの「シャマード」といったウィメンズ・フレグランスのベースノートにも効果的に使用されています(ちなみにはじめてウィメンズ・フレグランスのベースノートとしてベチバーが使われたのはシャネル「N°5」です)。
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最も危険な遊戯

©FREDERIC MALLE

©FREDERIC MALLE

ベチバーのエッセンスは、とてもアーシーで、鮮明なのですが、そこにスズランのはっきりした爽やかさとフローラルの側面が加わることにより、コントラストが生み出され、この香水にフェミニンな面を与えているのです。だから、この香水は男性でも女性でも全ての人が纏うことができるのです。

ドミニク・ロピオン

無限に大きなものと無限に小さなものが組み合わされたような神秘的なこのベチバーの香りは、ベルガモットとビターオレンジが濃縮された煌きからはじまります。フローラロゾンとピンクペッパーが、ベルガモットに〝雨上がりの光〟を加えています。

すぐにベチバーが到来します。カンファーが取り除かれ清涼感を感じさせるアロマティック・ベチバーにシダーウッドを中心としたサンダルウッド、オークモス、ミルラ、カシュメランといった5つのウッディノートが、万華鏡のように変化しながらベチバーの多面性(ムスク、スパイス、柑橘類の皮、甘さ、ドライ、スモーキー)を見せてゆきます。

ここには妥協なきベチバーの再現があり、甘さや明るさといったベチバーに市民権を与える妥協は一切なされていません。ある意味、この香りは〝妥協なきベチバー〟なのです。

そして、水分をほとんど感じさせないこの軽やかささえも感じさせるベチバーはアニマリックなムスクに温かく包み込まれながら、クミンという最高の魔物の到来により、キング・オブ・クールのための香りの称号を獲得するのです。

〝男らしさ〟とは、男性を愛する女性、男性を愛する男性になら分かるこのクミンの存在なのです。洗い立てのコットンシャツの香りよりも、クミンという魔物が潜むベチバーの香りにこそ、貪り、貪られたくなる深層心理の何かを刺激されるのです。それは、クローブというスパイスが失われた後に気配を感じさせるから実に巧妙なのです。

冒頭のマルの言葉と同じように、キリアン・ヘネシーも祖父がつけていた「オー ソバージュ」に愛着を持ち、ベチバーをオーバードーズした「ダーク ロード」という香りを作っています。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「ベチバーという草は香水の材料としては、以下の2点の理由で独特だ。1)同じような香りの合成香料がない。2)個性がとても強いので、ベチバーの成分が大部分を占めるフレグランスはほかの名前にしても意味がなく、たいていベチバーと名づけられる。」

「ベチバーのエッセンスはたくさんあるのだが、たいてい油っぽく、まるでリコリスのような香調になる。」「ここでは、ドミニク・ロピオンが、鉛筆のシダーノートと多分レモンであろうかすかな香りを加えて、目の錯覚に似たおもしろいトリックを披露している。これがベチバーの香料に、まるで頬に影を入れる化粧を施したような効果を生み、ベチバーの根そのものの衝撃的な骨格を取り戻したのだ。すばらしい仕事だ。」と4つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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気楽なエレガンスを体現する香り

ロミー・シュナイダーとピーター・オトゥール

この香りは、私が日常使いしているロレックスの時計と共に、私にとってどこにでも付けていくことができるセカンドスキンのような存在です。

フレデリック・マル

フレデリック・マルはこの香りから連想する人物として、『何かいいことないか子猫チャン』(1965)というとんでもなくマニアックな作品のピーター・オトゥールだと答えています。

現在の観点からこの作品の価値を問われると、脚本と出演者の一人を担当したウッディ・アレンとバート・バカラックのとんでもなくオシャレな音楽(主題歌はトム・ジョーンズ)なのでしょうが、当時の基準で言うと、『アラビアのロレンス』(1962)で脂の乗り切っていたピーター・オトゥールとアラン・ドロンと別れたばかりのロミー・シュナイダー、そして、『ピンクの豹』(1963)と『博士の異常な愛情』(1964)でカメレオン俳優として話題の人だったピーター・セラーズとの競演にありました。

「とんでもなく魅力的でありながら、その魅力が相手に伝わらなくてもまったく気にしない気楽なエレガンス」とマルは表現しています。他にこの香りのミューズとして、マルチェロ・マストロヤンニの名を挙げています。

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香水データ

香水名:ベチベル エクストラオーディネール
原名:Vétiver Extraordinaire
種類:オード・パルファム
ブランド:フレデリック・マル
調香師:ドミニク・ロピオン
発表年:2002年
対象性別:男性
価格:10ml/9,790円、30ml/24,530円、50ml/33,770円、100ml/46,530円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム


トップノート:ベルガモット、ビターオレンジ
ミドルノート:ピンクペッパー、クローブ、ベチバー、サンダルウッド、カシュメラン、シダー
ラストノート:オークモス、ミルラ、ムスク