作品データ
作品名:007 死ぬのは奴らだ Live And Let Die(1973)
監督:ガイ・ハミルトン
衣装:ジュリー・ハリス
出演者:ロジャー・ムーア/ジェーン・シーモア/ヤフェット・コットー/グロリア・ヘンドリー/マデリン・スミス
三代目ジェームズ・ボンド=ロジャー・ムーア登場。
007シリーズ第8弾にして三代目ボンド・ロジャー・ムーア(1927-2017)の登場です。ショーン・コネリーが『007/ドクター・ノオ』(1962)から『007 ダイヤモンドは永遠に』(1971)に渡る6作品で築き上げたジェームズ・ボンド像を継承することは、どんな俳優にとっても不可能なことでした。
だからこそ、ロジャー・ムーアは、初代ボンドとは全く違うイメージのボンド像を作り上げることにしたのでした(1962年に、原作者イアン・フレミングは、ムーアこそボンドのイメージにぴったりだとお墨付きを与えていた)。こうして生まれたムーア=ボンドは、コネリー=ボンドの超人的なイメージよりも、下に羅列するように、一般男性に受け入れやすいキャラクターになりました。
1.モテモテではないが、何回フラれてもめげない(何回ジョークがすべってもめげない)強心臓
2.世界を股にかけるフットワークの軽さ
3.戦闘力が低そうだからこそ、秘密兵器に頼る説得力
4.日本人で例えると植木等か高田純次がスパイになっている感覚
5.たまにとてつもなくカッコよく見える瞬間がある
以上のように考えると『007 ダイヤモンドは永遠に』もムーア=ボンドで作られるべきストーリーだったのだろう。彼だったら、ゲイカップルの殺し屋にもより面白く対応できたことだろう。以後、ムーア=ボンドは、ブードゥー軍団や黄金銃を持つ男、ジョーズ、グレース・ジョーンズなどの一癖も二癖もある殺し屋たちと、世界中を観光しながら、嬉々として戦い合うことになるのでした。それは一言で言うと、より女好きで、よりジョーク好きで、よりお調子者の、〝世界一の無責任男=テキトー男〟の誕生の瞬間だったのです。
タキシードを着て、登場しなかった三代目ジェームズ・ボンド
ジェームズ・ボンド・スタイル1 ドレッシングガウン
- ペールイエロー・コットン、ドレッシングガウン、ハーフスリーブ、赤のパイピング、ショールカラー、JBのモノグラム入り、ワシントン・トレムレット
- 同色のパジャマ・トラウザー
- パープル・ブルベットのプリンス・アルバート・スリッパー
- ハミルトン・パルサーP2 2900LEDデジタル・ウォッチ
相当頭を捻ったに違いない三代目ボンドのお披露目が、気の抜けたコーラのような、調子抜けするシーンによって始まります。自宅で、JBのモノグラム入りのガウンを着て、他国の同業者ミス・カルーゾーと愛し合っているところに、上司のMとマネーペニーがやって来るのです。ラ・パボーニのユーロピコラのエスプレッソマシーンで、上司に給仕する姿から、ジェームズ・ボンドのお披露目は始まるのです。
ちなみに、このシーンで登場するデジタル時計「ハミルトン・パルサーP2」は、1970年に開発された世界で初めてのデジタル時計です。ただし、70年代後半のセイコーやタイメックスなどのLCD時計(液晶時計)がデジタル時計の主流となり、1983年にはカシオ・Gショックの登場と相成るわけです。
ジェームズ・ボンド、再びアメリカへ・・・
ジェームズ・ボンド・スタイル2 チェスターフィールド・コート
- テーラー:シリル・キャッスル
- ネイビー・ダブル・チェスターフィールド・コート、ピークラペル、ベルベット・カラー、膝より上の短めの丈、カシミア・ウール
- ネイビー・スーツ、シングル、2つボタン、ノッチラペル、サイドベンツ
- ペールブルーのコットンポプリンシャツ、カクテル・カフス、フランク・フォスター
- ロイヤルネイビーのシルクのレジメンタルタイ、赤と白のストライプ
- ロレックス・サブマリナー5513
- ブラック・レザーグローブ
- ブラック・タッセル・ローファー、キューバン・ヒール
ムーア=ボンドのスーツを仕立てるのは、アンソニー・シンクレアではなく、シリル・キャッスルです(共に、サヴィル・ロウに隣接するコンジット・ストリートにある)。ムーアはイギリスの人気TVドラマ『セイント 天国野郎』(1962-69)と『ダンディ2 華麗な冒険』(1971-72)のスーツもシリル・キャッスルに仕立てて貰っていました。後にサヴィル・ロウでスーツを仕立てたことのなかったフランク・シナトラにもシリルを紹介し、以後、シナトラ、ディーン・マーティン、サミー・デイヴィスJr.のスーツも仕立てるようになります。
1960年代初めには、後にステラ・マッカートニーが研修することになる伝説のカッター・エドワード・セクストンもシリルに弟子入りしていました。