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ジャン=ポール・ゴルチエ

【ジャン=ポール ゴルチエ】クラシック(ジャック・キャヴァリエ)

ジャン=ポール・ゴルチエ
©JeanPaul Gaultier
この記事は約12分で読めます。

クラシック

原名:Classique
種類:オード・トワレ
ブランド:ジャン=ポール・ゴルチエ
調香師:ジャック・キャヴァリエ
発表年:1993年
対象性別:女性
価格:50ml/9,000円、100ml/12,500円

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1986年~1990年 マドンナのコーンブラ旋風

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すべてはこの瞬間から始まりました。1986年11月にマドンナの「オープン・ユア・ハート」のミュージック・ビデオが全世界で放映されました。そして、そのあまりにもエロティックかつハイセンスなファッションとダンスの振り付けは話題を呼び、世界中で大ヒット(全米1位、全英4位)しました。

この時のコスチューム・デザインを担当していたファッション・デザイナーの名をジャン=ポール・ゴルチエ(1952-)と申します。この瞬間、伝説のボディスーツ・スタイルが誕生したのでした。それは、1984年からコルセットをファッションのデザインの中に取り入れていたゴルチエに注目していたマドンナによる大抜擢だったのでした。

マドンナはこのレ・リタ・ミツコのカトリーヌ・ランジェが「Marcia Baila」(1984)のMTVの中で着ていたゴルチエのコーンブラを一目見て、夢中になったのでした。

ジャン=ポール・ゴルチエとマドンナ



そして、マドンナは1990年の「ブロンド・アンビション・ツアー」の衣装を全てゴルチエに任せることにしました。こうして誕生したのが、ファッション界において、賛否両論を生んだコーンブラコルセットをミックスしたステージ衣装でした。

それは、女性の肉体を締め付ける拷問のようなコルセットのイメージを、アマゾネスの鎧へと変えた瞬間でした。さらにブラジャーに、乳房を保護する役割ではなく、円錐形の独特なシルエットで女性の美しさを研ぎ澄ます役割を与えたのでした。

マドンナはこのツアーにより、神と同じくらい有名な存在になりました。そして、彼女は、1990年にファッション・シーンの寵児となったのでした。この時から、ミュージシャンとファッション・デザイナーの本格的なコラボレーションははじまったのでした。

一方で、ファッション・ウィークのスタイルも、マドンナの登場に刺激を受け、次の段階に進んでゆきました。かくして、彼女はポップスター達が、ファッション・アイコンになる流れを作り出したのでした。

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ジャン=ポール・ゴルチエの初体験

1993年 ©JeanPaul Gaultier

1997年 ©JeanPaul Gaultier

1993年 ©JeanPaul Gaultier

モデル:ニンヤ・サラサロ、1999年 ©JeanPaul Gaultier

- YouTube
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この香りのインスピレーションは、1つは私のおばあちゃんがつけていた埃っぽい粉白粉(ルースフェイスパウダー)。たぶんコティのものだと思います。

もう1つは劇場の最前列に座っているときに感じる匂い。私にとっては、12歳のときにシャトレ座に行き、幕が上がり、衣装やウィッグ、セットに熱いライトが当たって、それをすべて吸い込むようなイメージです。そして、現代風に言うと、ネイルリムーバーが最後の1つです。

これは冗談ではありません。本当に私自身が身に纏いたいものを作りたかったのです。香りはとても大切ですよね、特定の人を思い出すわけですから。

ジャン=ポール・ゴルチエ

そんなマドンナ旋風と共に浮上する形で一躍ファッション・シーンの寵児(ファッション界のアンファン・テリブル)となったジャン=ポール・ゴルチエが、1993年にはじめて生み出した香りは、当初「ジャン=ポール・ゴルチエ」の名でオード・パルファムとして発売されました(最初はトルソーボトルに金属のコルセットが付いていた)。

シャンタル・ルース様

ここでこの香りを創造するために重大な役割を担った一人の女性をご紹介しましょう。彼女の名をシャンタル・ルースと申します。

彼女は、1987年に資生堂の社長に就任した福原義春(1931-)が、香水作りの本場であるフランスに自立した存在として1990年10月にボーテ・プレステージ・インターナショナル社( BPI )を設立した時に、この新会社を任されました。

元々フライト・アテンダントだったシャンタルは、イヴ・サンローランで「オピウム」(1977)「クーロス」(1981)「パリ」(1983)を成功に導き、BPIの最初の仕事で「ロー ドゥ イッセイ」を生み出し、ジャック・キャヴァリエという類まれなる才能を見つけ出したのでした。

そんな彼女が、BPIの第二弾のビッグ・プロジェクトとして始動させたのが、資生堂がフレグランスのライセンスを獲得したゴルチエの最初の香水の創造でした(ロレアルと最初のライセンス契約を結んでいたが、納得のいく企画につながらず、1990年7月に資生堂と契約することになった。2016年にプーチにライセンスを売却した)。そして、ここで再びキャヴァリエに調香を依頼したのでした。

ちなみにこの香りは、1995年にブランド初のメンズ・フレグランス「ル マル」(フランシス・クルジャン)が発売されるにあたり、名を改め「クラシック」として人々に知られるようになるのでした。

当初この香りのためにそれほど派手な広告戦略は立てられませんでした。それがなくてもゴルチエとこのボトルデザインの存在感で爆発的に売れていたからです。本格的な広告戦略が立てられたのは21世紀に入ってからのことでした。
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ゴルチエの最愛のおばあちゃんの思い出

モデル:シャーリー・マルマン、2000年 ©JeanPaul Gaultier

モデル:カレン・エルソン、2003年 ©JeanPaul Gaultier

香りのイメージは、クチュリエールであり美容師だった(母方の)おばあちゃんの思い出でした。息子を教師にしたかった厳格な両親とそりが合わず、学校が終わるといつもおばあちゃんの家に寄り道していたゴルチエ少年は、お絵かきと縫いぐるみが大好きな少年でした。

そして、4歳のときからナナというテディベアを大切にしていました。

祖母マリーとゴルチエ少年 ©Jean Paul Gaultier archives

おばあちゃんの仕事を観察していて、見よう見まねで洋裁を覚え、ナナのためにウエディングドレスから宇宙服、ブラジャーまであらゆる服を作って着せていました。このナナがゴルチエの最初のファッションモデルでした。そんなゴルチエを見て、おばあちゃんは「この子は、魔法の手を持っている」といつも褒めてくれていたのでした。

さらに1960年代には珍しかったテレビを孫のために購入してくれ、そこで見たキャバレー「フォリー・ベルジュール」のショウを見て、その衣装の奇抜さと豪華さにすっかり魅了されたのでした。

この時、おばあちゃんの家で嗅いだフェイスパウダーやマニキュアの除光液が並んだブドワールの香り。これが「クラシック」の着想源でした。それは1990年にランコムの「トレゾァ」でソフィア・グロスマンが生み出したコスメティック・ノートの流れを汲む香りでした。

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一度見たら忘れられないボトル・デザイン

モデル:オードリー・マルネイ、マリアカルラ・ボスコーノ、ミラグロス・シュモール(左から)。2007年 ©JeanPaul Gaultier

©JeanPaul Gaultier

このお洒落なおばあちゃんとゴルチエ少年が展示会を見に行ったときに、一目惚れしたサーモンピンクのサテンとレースのコルセットが、ゴルチエ自身によってデザインされたトルソー型ボトルの着想源となりました。

ちなみにこのボトル・デザインは、レオノール・フィニがデザインしたエルザ・スキャパレリの「ショッキング」(1937)の影響を強く受けていると言われています。さらに、愛猫に与えていたキャットフードの缶詰をモチーフにしたブリキ缶でこのコルセットを包み込んだのでした。

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最も美しい自分の瞬間をボトルに封じ込めた〝喜びを約束する香り〟

モデル:ミッシェル・バズウェル。2009年 ©JeanPaul Gaultier

モデル:ジャロッド・スコット、ライアン・テン・ヘイケン。2014年SSに再リリース。©JeanPaul Gaultier

©JeanPaul Gaultier

©JeanPaul Gaultier

喜びを約束する香り〟。女性が鏡の前でコルセットをぎゅっと締める瞬間。そんな、うっとりと自分の身体に見惚れる至福のひと時を、ひと吹きに凝縮したような、マンダリン・オレンジとベルガモット、レモンのジューシーな甘酸っぱさに、フルーティなピーチと洋ナシ、酔わせるようなカシスとプラムが、アルデハイドC10により弾け合い蕩けてゆくようにして、濃厚なフルーツリキュールの甘やかさからこの香りははじまります(ラム酒はEDTでは感じられない)。

すぐにフレッシュなスターアニスとシナモンがその仲間に加わり「女は女である」ことをあらゆる角度から実感させてくれるように肌の上を駆け抜けてゆくのです。

やがてパウダリーなイリスバターに先導され、ピーチピンクのローズとオレンジ・ブロッサム、チューベローズ、ジャスミンの四重奏が、甘くもクリーミーな官能的なフローラルシャワーを生み出し全身を包み込んでゆきます。

そこに、男性の欲情の視線を想わせるジンジャーが新鮮さとスパイシーさでフルーティフローラルに活気を与えてくれます。

最後に、ふんわりパウダリーな甘さに包まれながら、クリーミーなサンダルウッドとムスクを中心に、真昼の愛の戯れの後の程よい疲労感のようなバニラとアンバーとムスクの心地よい脱力感が押し寄せるような余韻を残してくれるのです。

まるで、絶世の美女と一夜を共にする前に、最高の下着に身を包んだ彼女を鍵穴から覗き込んでいるようです。

この香りを身に纏う女性は、自分の魅力を良く知る女性でしょう。彼女は決してそれを使うことを恐れない。そして、男性の耳元に、赤いリップを塗った唇を近づけ、秘密の言葉を囁き、そっと、白魚のような指を彼の肩に添える。

そして、ムンムンと伝わる「クラシック」の匂い。どれほど香水が嫌いな男性であろうとも、効し難いムードの中でこの香りが香ると、理性は失われ、彼女の奴隷になることを深く望んでしまうのです。そんな古典的(クラシック)な女性と男性の秘め事の香りなのです。

つまりこのトルソーは、新たなる犠牲者の墓標でもあり、女性にとってひとつの征服を果たした記念碑となる〝香りのコルセット〟なのです。

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キャヴァリエの妻が最も愛する香り

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©JeanPaul Gaultier

モデル:ダフネ・フルーネフェルト。2016年 ©JeanPaul Gaultier

女性のパワーとセクシーさのシンボルとしてコルセットを締めるその姿をフューチャーしたCMに登場するファッション・モデルは皆とても魅力的です。そして、ベッリーニのオペラ『ノルマ』の「カスタ・ディーヴァ」も見事にマッチしています。

この広告とボトルデザインと当時絶大であったゴルチエ人気の相乗効果により、「クラシック」は世界中で記録的な売り上げをあげました。

最後に、とても興味深い話を一つ。2019年にジャック・キャヴァリエはインタビューで「私が香りを調香する時に、自分が愛するプワゾンアロマティック エリクシールといった名香が、常に調香に影響を与えています。さらに言うと、私の妻が常に付けているクラシックもかなりの影響を与えているのです」と答えています。

つまり、あれほどルイ・ヴィトンの極上の香りを身に纏いながらも、キャヴァリエの妻は、結局は長年のお気に入りの香りである「クラシック」に戻ってしまうということなのです。

タニア・サンチェスは『世界香水ガイド』で、「クラシック」を「フルーツオリエンタル」と呼び、「中身よりもパッケージが功を奏したゴルティエの「クラシック」は、今後も店頭から姿を消すことはないだろう。マネキンのような、女性の胴体部分にコルセットをつけたインパクトのあるボトルは、はっきりいって、トルソ型ボトルで有名なスキャパレリの「ショッキング」のパクリ。」

「ジャック・キャヴァリエ(ともあろうものが)の手によるこの退屈きわまりない香水は、非常に不愉快という点で「アマリージュ」といい勝負かも。缶詰のシロップ漬けオレンジのような甘ったるさと、どぎついパウダリーなバニラムスクの合わせ技にげんなり。薄っぺらくて鼻につんとくる、これ以上ないくらい安っぽい残香にもびっくり。」と1つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:クラシック
原名:Classique
種類:オード・トワレ
ブランド:ジャン=ポール・ゴルチエ
調香師:ジャック・キャヴァリエ
発表年:1993年
対象性別:女性
価格:50ml/9,000円、100ml/12,500円

10211853-4921
トップノート:オレンジ・ブロッサム、ブルガリアンローズ、マンダリン・オレンジ、スターアニス、洋ナシ、ベルガモット
ミドルノート:プラム、アイリス、イランイラン、インド産ジンジャー、オーキッド、チューベローズ
ラストノート:アンバー、ムスク、シナモン、サンダルウッド、バニラ