ヴィトリオールドゥイエ(最高級のカーネーション)
原名:Vitriol d’Oeillet
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2011年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/13,000円

カーネーションの持つヤヌスの鏡を、素肌で咲かせましょう。

©Serge Lutens
幽霊列車も、突然の死も、それ以上のものではない。そしてその速さによって墓が開かれるのと同様に、私の毒はカーネーションだ。ためらいを乗り越えれば、カーネーションは、その言葉の二つの意味で、私そのものになる:私の複製、怒りの香水。
すでにギザギザのその花びらには、答えが秘められている。それは粉々に砕け散る。カーネーションが平手打ちを我慢していること、その辛味はカイエンペッパーから来ていること、そしてその構成の奥深くでクローブが突き刺さっていると、もし私が告げたら、あなたは微笑むだろうか?
それでも、あなたに夢中なこのカーネーションは旅をする。
南へ。広々とした野原で、それは自らをさらけ出す。あるいは、若くてハンサムな悪党のずる賢い笑みに噛みつかれた赤い花は、私にその姿を差し出し、天を突き破る。
北へ。海峡を渡り、ドーバー海峡の向こう側、ロンドンに向かう途中:ボタンホールで区切られたシルクのラペルに、白いカーネーションが刺さっているのを指差してください。
映画館の真ん中、深紅のベルベットの上で、狼の餌食:街灯の狂おしい炎の下、いつも乱れた身なりの貧しい少女がよろめきながら歩いています。片隅が夜の闇を折り返します。彼女は目が見えず、ただ待っている。
その貧しい少女は ―― 最悪の事態を恐れつつもそれを望み ―― 最悪へと近づいていく…映写機のランプの下でフィルムが燃え尽き、劇場が真っ暗にならない限りは。結果は致命的のようです。スクリーンには「No!」という文字が走り抜け、「Non!」という字幕が表示されます。
セルジュ・ルタンス公式サイトより
セルジュ・ルタンスの「ブラック&ベージュ コレクション」が、2018年3月21日より「コレクションノワール」に変更され、10種類もの名香が2017年末から一挙に廃盤になりました。
2011年に発売されていた「ヴィトリオールドゥイエ(最高級のカーネーション)」もそのうちの一つでした。この香りを直訳すると「カーネーションの硫酸」または「毒のあるカーネーション」という意味です。クリストファー・シェルドレイクにより調香されました。ルタンス/シェルドレイク同盟が香水文化にもたらした革命を語るとき、この香りはひとつの好例でしょう。
「母の日(5月の第2日曜日)」の創設者アンナ・ジャーヴィス(1864-1948)により白いカーネーションがシンボル・フラワーとなったのですが、後に赤いカーネーションが生きている母を表わし、白いカーネーションが亡き母をたたえるようにと振り分けられていきました。
一方で、19世紀の英国で、舞踏会やパーティーにおいて、男性がジャケットのボタンホールにカーネーションを付けるとき、白は紳士の象徴となりました。一方で、20世紀に入り、赤はマフィア(イーノック・”ナッキー”・ジョンソンという禁酒法時代のマフィアのボスが愛用)の象徴という真逆の意味合いを持つようになりました。
ジキル博士とハイド氏になれ!


特に、『ゴッドファーザー』(1972)のオープニングで、娘の婚礼パーティーのためにタキシードを着用しているドン・コルレオーネがつけていた赤いカーネーションは決定的でした。
つまり同じカーネーションであっても、白と赤で全く違う意味合いを持つのです。かつて華麗なる紳士と淑女にとってシンボリックな花だったこの花は、「ロリガン」「レールデュタン」「オピウム」など20世紀の伝説的な香水の中心的な存在でした。しかし21世紀に入り、すっかり香りとしては古めかしいイメージにつきまとわれていました。そんなカーネーションが持つジキル博士とハイド氏のような二面性にフューチャーした香りが「ヴィトリオールドゥイエ」でした。
オイゲノールが主成分であるカーネーションの香りは、現在香水に対するオイゲノール規制が行われているため、クローブによりその一面を創り出しています。このクローブとナツメグ、カイエンペッパーをはじめとする三種類のペッパーが絡み合う、古い大邸宅で長く使われていない居間から漂うような、おどろおどろしいダークなスパイスシャワーの激しい清涼感からはじまります。
ナツメグにより甘さとスパイシーさが絶妙に調和しており、赤く情熱的なカーネーションがかなりリアルに素肌の上で咲いているようです。
すぐに立ち上る百合とイランイランを主体とした、滑らかな石鹸のようなクリーミーなフローラルブーケが、スパイスシャワーと溶け合わず、ミステリアスに、でありながら極めてエレガントに、コントラストを際立たせてゆきます。
新たに素肌の上に白いカーネーションが花を咲かせ、赤いカーネーションと、厳粛さと快楽の狭間でよろめいていくような感覚に満たされてゆきます。
そしてふいに赤と白のカーネーションにロゼワインが振りかけられてゆきます。やがてカーネーションは枯れ、その残り香とピンクペッパーをはじめとするすべてのスパイスがひとまとめになり、芳しく弾けるスパイシーな甘く酔わせるローズの余韻を広がらせてゆきます。
クールビューティーの官能性に酔いしれる


ボトルの背面に施された彫刻。
どこかショートカットに眼鏡姿で、スカートスーツの上から白衣を着ている聡明そうな美女をイメージさせる香りです。そして、所々で漂う仄かな甘さが、こういった美女と接するときに、違う彼女の側面を連想させ、異常なまでの官能的な妄想を掻き立てるのです。
それはクールな美女の眼鏡越しの冷ややかな眼差しに酔いしれる香りなのです。
三種類のペッパーが実に効果的に使用されており、昔ながらのカーネーションの香りにならないように調香されています。
それは、どのように香るのかではなく、その香りがどのように妄想を掻き立てるのか?という領域にはじめて踏み込んだということなのです。そういう意味において、セルジュ・ルタンスの香りは、「香りの知性と変態性」を的確に結び付ける人間心理に働きかけるスイッチとも言えるのです。
香水データ
香水名:ヴィトリオールドゥイエ(最高級のカーネーション)
原名:Vitriol d’Oeillet
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2011年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/13,000円

シングルノート:ナツメグ、クローブ、カイエンペッパー(赤唐辛子)、ピンクペッパー、ブラックペッパー、パプリカ、カーネーション、ニオイアラセイトウ、百合、イランイラン

