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バドゥソワ(絹の靴下)|官能と禁欲の両面を失わないアイリスとヒヤシンスの『青い誘惑』

セルジュ・ルタンス
セルジュ・ルタンス
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バドゥソワ(絹の靴下)

原名:Bas de Soie
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2010年
対象性別:ユニセックス
価格:日本未発売(75ml/€260)

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官能と禁欲の両面を失わないアイリスとヒヤシンスの『青い誘惑』

©Serge Lutens

未亡人と死を嘲笑う葬送ミサへのオマージュ、脚にストッキングを滑り込ませる女性……アイリスとヒヤシンスの粉をふいたような崇拝の香りに包まれた儀式。

「声が低く、絹のように柔らかな黒いミサ。儀式であり、一つのイメージである。パウダリーなアイリスとヒヤシンスの香りをまとった一人の未亡人が、上品に、そして傲慢に、足首から太ももへと、細い指で丁寧に脚に沿ってストッキングを引き上げていく……。その姿が、私たちの視線を釘付けにする。トンボの羽の虹色の輝き」

セルジュ・ルタンス公式サイトより

2010年6月にセルジュ・ルタンスより発売されたバドゥソワ」は、クリストファー・シェルドレイクにより調香されました。

フランス語で「絹の靴下」を意味するこの香りは、カモシカのようにしなやかな美脚が、絹の靴下に包まれ、そこに指を這わせ引き伸ばされ、美しく透けていく、そんなイメージを、アイリスとヒヤシンスのハーモニーにより喚起させます。

現在は、パレ・ロワイヤル本店だけで取り扱われている「レフラコンドターブル」コレクションのひとつとなっています。

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肉体を求められることに対する官能の悦びに満たされる香り

ごく自然に、この香りの名は浮かびました。熟考や探求の結果ではなく、時折あるように、まるで自明のことのように。あえて言うなら、この名前がすんなりと馴染み、書き記した瞬間、この香水にふさわしい名前は他にないと思えたのです。

私は実際に女性がストッキングを履く姿を目にしたことがないのですが、逆説的に言うと、鮮明に記憶に残っています。映画の影響も少なからずあるでしょう。その結果として、イメージの残像が浮かぶのです。

私はその所作に、エロティシズムよりも、 むしろ、科学的なほどではないにせよ、かなりの繊細さを要する作業を見出します。それほどまでに、それは正確さを求められるのです。ストッキングに香りを塗り込み、それと一体となり、その仕草によって、脚が細くなり、長く伸び、黒のシルクなら影を落とし、白なら自らを貶めるかのような錯覚を抱かせること。ある種の死の目配せであり、そこで未亡人と死を弄んでいるかのようです。

セルジュ・ルタンス

一見とりすまして静かに来る人を待つかに見える、このアイリスとヒヤシンスの香りには、とんでもなく危険な罠が張り巡らされています。なぜならこの香りの中に身を置いた瞬間、普段は忘れている情欲の記憶が、回転木馬のように高く舞い上がり、全身を駆け巡っていくからです。

はじまりは、椅子に腰かけた熟れた肉体を持つ女性が、絹の靴下を履こうと脚を伸ばし、絹の上でしなやかな指先を移動していく情景を感じることが出来ます。それはまるで、共にメタリックな側面を持つヒヤシンスとアイリスの幽玄さの間でよろめかされ、氷の結晶が素肌を凍らせ、やがて濡らしていくような〝静かなる葛藤〟のようです。

香ばしいアーモンドとほのかに苦い青葉を感じさせるヒヤシンスと、ふくよかにパウダリーなコスメティックなアイリスの信じられないほど細い糸で作り上げられた絹の靴下が、「シャネルNo.19」の主演女優でもあるガルバナムという名の艶やかな美脚の上を覆ってゆくように、グリーンの煌めきがかなり鮮烈にすべてをひとまとめに捉えてゆきます。

そしてそんな行為を見守るようにブラックペッパーとナツメグ、クローブのスパイシーさが静かに漂い広がってゆきます。

喪服姿の未亡人の衣服の下に秘められた絹の靴下。それは冷ややかな空間の中で、哀しみの涙を、悦びの涙へと変えてしまう危険なシルクの罠なのです。この香りの真髄は、アイリスとヒヤシンスの間の揺れ動き、つまりどちらか一方に落ち着くことがない点にあります。

愛する人を失った哀しみが、冷たい青葉の苦みに導かれ、トーンダウンしていく中で、警告音のようなグリーンガルバナムが全てを包み込んでゆきます。

やがて涼やかなスズランの鐘の音と共に、ローズとピオニーが花を咲かせ、真っ白に燃え尽きる白昼夢のようなフローラルムスクが温かく甘やかに満ち広がってゆきます。そしてゆっくりと肉体を求められることに対する官能の悦びが蘇ってくるのです。

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「アイリス シルバー ミスト」と双璧を成す、不動のアイリス

彫刻入りのボトル ©Serge Lutens

私はこの香りを「疑念の渦中にある香水」だと言いたいですね。メインの香りのバランスがアイリスとヒヤシンスの間で決して安定しないところが、この香りの構成を面白くしているのです。このためらいの戯れこそが、その繊細さを生み出しているのです。

セルジュ・ルタンス

寒気がするほどうつくしい早春のリアルなヒヤシンスの香り。

それは徹頭徹尾、官能と禁欲の両面を失わない『青い誘惑』のようです。最初から最後まですっきりと透き通るようなパウダリーさ(石鹸のような)がある、素足を包み込み、まるで呼吸しているような絹の靴下の香りの前にあるのが、シャネルにおいてシェルドレイクも参加した「ラ パウザ」(2007)であることは言うまでもありません。

絹の靴下をゆっくりと履いてゆく香り、それとも絹の靴下を脱いでゆく香り。あなたにとってこの香りはいったいどっちの香りなのでしょう?

アイリス シルバー ミスト」と双璧を成す、東大寺南大門に佇む二体の仁王像の如し、アイリス・フレグランスの不動の存在と言えます。

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香水データ

香水名:バドゥソワ(絹の靴下)
原名:Bas de Soie
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2010年
対象性別:ユニセックス
価格:日本未発売(75ml/€260)


シングルノート:アイリス、ヒヤシンス、ガルバナム、ムスク