「世界一の瞳を持つオンナ」ミシェル・モルガン

「おかしな娘だ。キミを見つめ声を聞いてると泣きたくなる」

1938年1月に撮影が開始されたときミシェルは18歳でした。

この作品により、ミシェルは「世界一の瞳を持つオンナ」と呼ばれました。

監督のマルセル・カルネの演技指導を受けるミシェル。

「君の目は本当に美しい。わかってるかい?」の言葉に「キスをして」と答え、さらに「もう一度」と催促する名シーン。

最初で最後の夜を共に迎え、上質なブラウスを着る。
ネリー・ルック2 チェスターフィールドコート
- グラフチェックのチェスターフィールドコート
- 黒のブルトンハット
- ボウタイのブラウス
- 黒のロングスカート
- 白のスカーフ
- オックスフォード
『地の果てを行く』(1935)のピエール・マッコルランによる本作の原作では、ネリーはパリの娼婦だった。しかし、マルセル・カルネはネリーを娼婦にはせず、純真で愛に飢えた薄幸の娘にした。ミシェル・モルガンが、カルネとジャン・ギャバンのオーディションを受けネリー役を獲得し、ミシェルとギャバンは、撮影中に本当に愛し合うことになるのでした。白黒の光と影の中で、大理石の彫刻のような美の造形を示すミシェル・モルガン。その冷たいルックスは、本当の愛によって、生命力に満ちた魅惑の眼差しを生み出すに至ったのです。
1949年、ジャン・ギャバンが3度目の結婚をする終生の妻ドミニク・フルニエと出会ったとき、友人に「おい、ミシェル・モルガンの眼と、マレーネ・ディートリッヒの体をもった女に、初めて出会ったぜ」と言ったそうです。
クラシック映画ほど、美の感性を刺激するものはない。

舞台は大西洋岸の港町ル・アーヴル。マルセイユの陽気さとは対極にある霧の港町。

港町のチンピラを演じたピエール・ブラッスール(1905~1972)とミシェルとギャバンのオフショット。

ジャン・ギャバンにビンタされ、有名になった。彼のギャング・ファッションが(特にダブル・チェスターコートが)魅力的です。

主役のジャン・ギャバン。当時34歳。

有名なラスト・シーン。
ラスト・シーンで、銃で撃たれたジャンがネリーに「キスしてくれ、早く、もう時間がない、早く」と言って、死に絶えます。
白黒の映画だからこそ、見えてくるものがあります。現実と同じ色調で写し出される風景を見ているだけでは生み出されないインスピレーションがそこからは生まれます。この時代の女優は足首すら露出しません。しかし、現代女性が忘れてしまっている、女性だけの魅力がそこから発見できます。肉体を見せずに肉体を見せるという男の想像力を掻き立てる女の美学。
クラシック映画を見るという作業は、今ではかなりの知性と芸術的感性が必要とされる作業になりました。つまり、この作品を例にとっても、それを見て楽しむためには、1938年という時代が理解出来ていないと楽しめません。そして、この時代の意味が分かれば、ココ・シャネルがデザインした(戦争を予知したミリタリー・ファッションとしての)トレンチコートの希少価値が理解できるのです。
スマホもSNSもテレビもなかった時代の話です。だからこそ、映像の中に映し出される世界は実にシンプルです。男がいて、女と出会い、恋をして、死んでいったのです。背景にはカラフルな色彩の洪水は存在しません。そして、そんな物語の中に、シャネルのデザインした服を着た17歳の美少女が後る姿と共に現れるのです。
1938年の美少女は、後ろ姿で、人生を語れる存在だったのです。