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【グッチ】メモワール デュヌ オドゥール(アルベルト・モリヤス)

グッチ
©GUCCI
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メモワール デュヌ オドゥール

原名:Memoire d’une Odeur
種類:オード・パルファム
ブランド:グッチ
調香師:アルベルト・モリヤス
発表年:2019年
対象性別:ユニセックス
価格:40ml/10,890円、60ml/15,400円、100ml/21,670円

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かなりの傑作。日本では過小評価されている香り。

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すべては香りに対する私のこだわりから来ています。私の記憶は主に嗅覚により形成されています。香水は、目を閉じていても、空間と時間の中で正確な瞬間に連れて行ってくれるものだと、私は心底思っています。

「メモワール デュヌ オドゥール」に取りかかったとき、私は簡単に手繰り寄せることのできない香りの記憶を想像してみました。そして、そんな記憶に限りなく似たハイブリッドな香りを生み出そうと考えたのでした。

アレッサンドロ・ミケーレ

2015年に、グッチのクリエイティブ・ディレクターに就任したアレッサンドロ・ミケーレが、衰退していた帝国を、世界的な空前のインバウンド景気を追い風にして、見事再興へと導きました。そして、そんなミケーレが登場した瞬間、〝ミニマム〟〝ノームコア〟というファッションワードは過去のものとなり、世界的なブランドロゴ・ブームが再熱することになりました。

やがて時は過ぎ、インバウンド景気が弾けそうな不穏な空気を人々が感じはじめていた2019年10月2日(海外では8月1日)に「メモワール デュヌ オドゥール」は、ローンチされました。

「ジェンダーや年齢に縛られない、グッチ初のユニバーサル・フレグランス」と、しきりに提唱されるグッチのノージェンダーとラブ&ピース精神に、「またか・・・」と人々を飽き飽きさせてしまったのでしょうか?この香りは、日本では期待通りの売り上げを上げることが出来ませんでした。

海外では賛否両論を巻き起こした香りなのですが、日本では、グッチ及びブルーベルの販売員のほとんどの方々が賛否両論以前の「なんだこれは?」という印象を受けてしまいました。

その大きな要因は、香りの定着が悪いツルツルしたオリジナルムエットと、この香りに対する正しいレクチャーを受けていないために、一体この生温い薬水は香水と呼べるのだろうか?という疑念に囚われてしまったためでした。

そして、ツルツルのムエットに吹きかけられたこの香りに対するお客様の反応の悪さが、販売員から急速にこの香りを紹介する意欲を奪い去ったのでした。

しかし、もしこの香りが、Nose Shopで販売されていたなら、売り上げランキング1位を記録していたことでしょう。この香りは、グッチ帝国ミケーレ王朝が生み出した、革命的なニッチフレグランスなのです。

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カモミールの香りにまずピンとこないはず

アレッサンドロ・ミケーレ殿下

カモミールをメインにした香りを作って欲しいとアレッサンドロから依頼を受けました。しかし、カモミールは、今までフレグランスのために使用されたとしても、決して大きな役割を与えられることがありませんでした。

そんなカモミールに大きな役割を与えていくために1年半を費やしました。この香りでは、とりあえずベルガモットをトップで使うようなありきたりな調香は行いませんでした。

アルベルト・モリヤス

「メモワール デュヌ オドゥール」とは、フランス語で「においの記憶」という意味です。アレッサンドロ・ミケーレのプロデュースにより生み出された〝ミネラル・アロマティック〟という新香調の香りは、アルベルト・モリヤスにより調香されました。

ちなみに、モリヤスは、毎回グッチのファッションショーに招待され、各コレクションについて小一時間ローマのアトリエで、ミケーレから独占で説明を聞くことが出来る特権を有しています。

この香りは、マルセル・プルーストのマドレーヌ効果ならぬ、カモミール効果を生み出さんとして創造された「過去の印象深い経験を呼び起こし、その瞬間をもう一度現在へよみがえらせる力を持つ」香りです。


より端的に言うと、ローマンカモミールの香りです。キク科の多年草であるカモミールとは、ギリシア語で「地上のリンゴ」を意味するカマイメーロンが語源であり、その香りは、リンゴの匂いにとてもよく似ています。

ちなみにカモミールは大きく2種類に分類されます。ジャーマンカモミールとローマンカモミールです。ジャーマンカモミールが花だけがリンゴの匂いがするのに対して、ローマンカモミールは、葉も含めてすべてが蜂蜜のような甘いリンゴの匂いがします。

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「最初の5分間は、多くの人々に奇妙な香りだろう」

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グッチのフレグランスの創造に関してだけ言えば、グッチを愛する人々の方を向いて私は香りを創造しているという嘘をつきたくありません。

ただただアレッサンドロ・ミケーレを驚かすためだけに創造していると言い切っても良いでしょう。彼が若いころにつけていた香水、彼の母や叔母がつけていた香水、その他もろもろのヒントが与えられ、私は彼のために新しい〝驚き〟を生み出していくのです。

アルベルト・モリヤス

アルベルト・モリヤス自身、「最初の5分間は、多くの人々に奇妙な香りだろう」と断言しているこの香りは、ローマンカモミールの生温いリンゴの匂いに、シャープなフレッシュグリーンノートが遭遇する、のどかで柔らかな薬草のような香りからはじまります。

ごく一般的なフレグランス=ベリーや洋ナシのようなフルーツ、ベルガモットやオレンジのようなシトラス、ペッパーやジンジャーのようなスパイスの香りとは一線を画した香りです。

すぐにそこに混じりあうナッツィーなビター・アーモンドのほのかな苦みと香ばしさにより薬水のような香りとなります。やがて、このローマンカモミールの匂いが減退する中、ミネラルアコードがたっぷり肌の上で存在感を示し、ジャスミンとの官能的な調和を見せるのです(ジャスミンとカモミールは相性が良い)。

インド産コーラル・ジャスミン

このジャスミンは、フィルメニッヒ社のネイチャープリント製法により、グッチのために独自に作られたものであり、(通常のジャスミンよりも甘い)花の蜜のようなインド産コーラル・ジャスミン(スター・ジャスミン)の香りが再現されています。

やがて、クリーミーなサンダルウッドとホワイトムスクが溶け合い、幻想的なクリーミームスクが誕生します。そして、ミネラルアコードは活発さを増し、そこにシダーウッドとミルキーなアーモンド・バニラが加わり、ほのかに苦いカモミールの存在に再び脚光を当てるように、ぽかぽか陽気の中で夢を見ているような心地よい余韻で包み込んでくれるのです。

夢見心地を身にまとうような香りです。それは香りにおいて主役を務めることのなかったカモミールの〝癒し〟の力を極限にまで高めた〝新たなるティー・フレグランス〟誕生の瞬間とも言えます。

ムスキーミネラル・アコードはこの香りの要です。それは他のすべての香りの要素を純粋な柔らかさで結びつけています。

アルベルト・モリヤス

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ネオヒッピーたちに捧げられた香り

広告キャンペーンには、ワン・ダイレクションのハリー・スタイルズを中心とした21名の新進気鋭のアーティスト達が登場し、ローマ郊外のカナーレ・モンテラーノの遺跡群や、中世の古城カステッロ・ディ・モンテカルヴェッロなどで、3日間かけて、グレン・ルッチフォードにより撮影が行われました。

そのヴィジュアル・イメージは明らかに『イージー ライダー』(1969)のヒッピー村のシーンとアシッド乱交シーンから、強い影響を受けています。


ミシェル・アルメラックにより調香され、1993年に発売された「オー ド グッチ」のボトルデザインからインスパイアされた、古代ローマの円柱モチーフのグリーンボトルは、ミケーレの「男性でも女性でも使用できるボトルに」という意向を反映しています。

スクロヴェーニ礼拝堂のジョットのフレスコ画からインスパイアされた、星々のきらめきをあしらったボックスデザインも実に印象的です。

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香水データ

香水名:メモワール デュヌ オドゥール
原名:Memoire d’une Odeur
種類:オード・パルファム
ブランド:グッチ
調香師:アルベルト・モリヤス
発表年:2019年
対象性別:ユニセックス
価格:40ml/10,890円、60ml/15,400円、100ml/21,670円


トップノート:ローマンカモミール、ビター・アーモンド
ミドルノート:ムスク、インド産ジャスミン
ラストノート:サンダルウッド、シダー、バニラ