本気で首を絞められたマレーネ。
ローラ・ローラ・ルック8 ドレス
- ロングレースドレス、片方だけロングスリーブ
『嘆きの天使』のほかの俳優は必ずしも付き合い良いとはいえなかったが、自分の殻に閉じこもって、あらゆる人を憎んでいたエミール・ヤニングスとは比較にならなかった。私たちは時にはヤニングスが「やる気になる」まで二時間も各自の化粧室で待機せねばならなかった。
マレーネ・ディートリッヒ
ラート教授がローラ・ローラの首を絞めるシーンは、本気であり、その様子を見て取った色男を演じたハンス・アルバースは急いで止めに入り、スタンバーグさえも止めに入ったほど鬼気迫るものでした。それはラートを演じるエミール・ヤニングスが、マレーネに映画を奪われたと感じたための復讐行為でもありました。
そして、最後に堂々とした唄いっぷりでローラ・ローラは消えてゆく・・・
ローラ・ローラ・ルック9 ラスト・ルック
- つば広の女優帽
- スパンコールが散りばめられたロングガウン
- ロングブーツ
最後のシーンにはもはやローラ・ローラはいません。そこには堂々とした歌いっぷりのマレーネ・ディートリッヒがいるだけです。
そして、エミール・ヤニングスは、ナチス・ドイツのために映画に出演し、マレーネは、ハリウッド映画に出演するという真逆の道を歩いてゆくことになったのです。更にもう一人付け加えるならば、劇団長を演じたクルト・ゲロン(1897-1944)は、ナチス・ドイツのためにプロパガンダ映画を製作し、最後には、アウシュヴィッツ絶滅収容所で惨殺されることになるのです。
この映画は、ナチス・ドイツに翻弄される3人の俳優の物語でもあるのです。そして、結局のところ、いつの時代も逞しく生き延びるのは、女性なのです。
次は、『モロッコ』でお会いしましょう。
1930年3月31日、エミール・ヤニングスと出席したベルリンのプレミアで、マレーネは、白いシフォンのドレスと足首まである白貂の毛皮のコートを着て登場しました。
ヤニングスは心底私を憎み、厚かましくも、こう断言した。私がこのまま「頭のおかしいスタンバーグ」の言いなりになっていると、決して何も成就できないし、大女優にもなれないと・・・それに対し、私はしつけの良いお嬢さんらしく、高尚なドイツ語で答えた。「私の前から立ち去ってください」。それはこういう意味もあった。「わたしはこれからもスタンバーグと仕事をします。望まれる通りに彼の指示に従います。撮影が終わる日まで従います。貴方にはそんな調子で話す権利はないのです。貴方の言ったことを人に言う気はありません。でもあなたは私の考えを変えることはできないでしょう。私はほんのかけだしで、貴方は有名人です。でも私のほうが優っていると思います。もちろん仕事の上ではなく、人間敵にです。
マレーネ・ディートリッヒ
そして、その日のうちに、マレーネはアメリカに向かい、ジョセフ・フォン・スタンバーグと合計7本の映画を作ることになるのでした。