ラヴィング ブーケ
原名:Loving Bouquet
種類:オード・トワレ
ブランド:エスカーダ
調香師:アニック・メナード
発表年:1999年(限定販売)
対象性別:女性
価格:日本未発売
エスカーダとは?

エスカーダのイエローコートを着たダイアナ元妃、1986年。

1998年のオスカーにて、エスカーダのドレスを着たキム・ベイシンガー。
1976年にドイツ・ミュンヘンで創業された高級ファッション・ブランド、エスカーダの歴史は、当時結婚したばかりのマルガレッタ・レイと、その夫ヴォルフガング・レイによるニットウェア・ブランドからはじまりました。
マルガレッタはスウェーデン出身のファッションモデルとして、60年代にはクリスチャン・ディオールやジャック・ファットのためにパリコレのモデルを務めていました。そして、60年代後半より、スウェーデン王室御用達テーラーのデザイナーを経て、ニットウェア・ブランド「モンティ」のデザイナーとして経験を積んでいました。
エスカーダというブランド名は、二人を運命的に引き合わせた競走馬の馬名から採ったものでした。
80年代に、大胆な色の組み合わせ、豪華な刺繍、ヒョウ柄など、女性として生きる喜びを代弁するデザインを生み出し、社会進出する女性のステイタス・ブランドとしての地位を固めてゆきました。そして、1980年代に躍進したヒューゴ・ボス、ジル・サンダーと並ぶ『西ドイツ旋風』の立役者となったのでした。
1986年にはダイアナ元妃がベルリンを公式訪問した際、エスカーダのイエローコートを着用したことから、エスカーダ=ドイツ・ファッションのイメージが不動のものとなりました。さらに、1998年には『L.A.コンフィデンシャル』でアカデミー助演女優賞を獲得したキム・ベイシンガーが、レッドカーペットドレスとして、エスカーダを着たことにより、その世界的な知名度は決定的なものとなりました。

©ESCADA
そんな中、1990年に発表したファースト・フレグランスが「マルガレッタ レイ」でした。それは80年代のスーパーモデル旋風を連想させる、ピーチとココナッツがホワイトフローラルをクリーミーに溶かしてゆく華やかなフロリエンタルの香りでした。
しかし、世界第4位のファッション企業に上り詰めている最中の1992年に、マルガレッタは56歳の若さで癌により死去しました。
1993年から始まったエスカーダのサマー限定フレグランス

©ESCADA

©ESCADA
エスカーダの春夏コレクションにインスパイアされ生み出されるサマー限定フレグランスが、1993年よりスタートしました(日本での取り扱いはブルーベル・ジャパン)。
1993年に発売された最初の香り「シフォン シャーベット」は、アン・フリッポにより調香されました。以下、有名調香師によるものだけリストアップしてみましょう。
- ジャルダン デュ ソレイユ(1996)ソフィー・ラベ
- ラヴィング ブーケ(1999)アニック・メナード
- テンダー ライト(1999)ベルトラン・ドゥシュフール
- リリー シック(2000)フランシス・クルジャン
- セクシー グラフィティ(2002)ドミニク・ロピオン
- イビザ ヒッピー(2003)ミシェル・アルメラック、リシャール・アイバニーズ
- ムーン スパークル(2007)オーレリアン・ギシャール
- フロール デル ソル(2020)オノリーヌ・ブラン、ナタリー・ローソン
- チェリー イン ジャパン(2021)オノリーヌ・ブラン
そして、このコレクションのうちのひとつとして1999年に発売されたのが「ラヴィング ブーケ」でした。アニック・メナードにより調香されました。
アニック・メナードが生み出した『世紀末のエスカーダ』

エスカーダ1999年春夏コレクション広告、カイリー・バックス ©ESCADA

エスカーダ1999年春夏コレクション広告、カイリー・バックス ©ESCADA
〝愛の花束〟と名付けられたこの香りは、アニック・メナードらしい一筋縄ではいかない香りです。まず最初に、ひんやりとパウダリーなヴァイオレット・リーフが蜃気楼のように広がり、フレッシュなシトラスシャワーとピーチがほんのりと添えられていくようにしてはじまります。
すぐにパウダリーなアイリスが加わり、ローズとジャスミンとスズランの甘やかなフローラルブーケに香り全体が包まれてゆきます。実に不思議なのは、フローラルブーケではなく、グリーンとハーバルスパイシーさもこのブーケの中に多く存在するところです。
やがて、クリーミーなムスクとサンダルウッドとシダーが、温かくすべてを包み込んでいくのですが、明らかにコレクションの中でも異端児のような、明快さを伴わない香り立ちに、発売当時、多くのファンはビックリしたことでしょう。
この香りの失敗をきっかけに、ミレニアム以降のコレクションは、若い女性向けのトロピカルな香りへと変貌を遂げていきました。そんな〝夏限定の香り〟シリーズのイメージとは真逆の落ち着いた女性の90年代の香りです。
香水データ
香水名:ラヴィングブーケ
原名:Loving Bouquet
種類:オード・トワレ
ブランド:エスカーダ
調香師:アニック・メナード
発表年:1999年(限定販売)
対象性別:女性
価格:日本未発売
トップノート:ヴァイオレット・リーフ、マンダリン・オレンジ、ピーチ、ベルガモット、レモン
ミドルノート:アイリス、ヴァイオレット、ニオイイリスの根茎、ジャスミン、ティー、スズラン、ローズ
ラストノート:サンダルウッド、ムスク、シダー