ラルリジューズ(修道女)
原名:La Religieuse
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2015年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/22,000円、100ml/32,560円
公式ホームページ:セルジュ・ルタンス

ルタンスの修道女に対する愛憎が生み出した香り

©Serge Lutens

「ラルリジューズ」は、いまだ手つかずのままである。それは、降り積もったばかりの雪のように、純粋で、処女のように清らかで、何一つ混じり気のないものだ。あまりにも白く完璧なため、時として私たちの内なる小さな悪魔が、彼女を踏みにじりたくなる衝動に駆られるほどだ。神秘的でありながら、同時に深く人間的でもある!
「善なるものの束縛から我らを解き放て! ジャスミンの花びらは雪のように白い。黒こそが私の宗教だ」
セルジュ・ルタンス公式サイトより
セルジュ・ルタンスの「コレクションノワール」より、2015年4月21日(フランスでは1月30日)に発売された「ラルリジューズ」は、フランス語で「修道女」の意味を持つ、最も純粋で神秘的なオリエンタルフローラルの香りとして、クリストファー・シェルドレイクにより調香されました。
セルジュ・ルタンスは、第二次世界大戦中の1942年に、ナチスドイツに占領されていたフランスのリールで生まれました。セルジュは、当時の法律で姦通罪になるような生まれ方をした望まれぬ子でした。そのため一ヶ月にも満たないうちに母親から引き離され里子に出され、里親の間を点々とする幼少期を送りました(ルタンスは修道院生まれではない)。
そんな彼が、戦争が終結した後、ナチスドイツが崩壊し、フランスが解放され、4歳の時にはじめて母と再会し、共に暮らすことになりました。しかし極貧であるため、修道院で生活することになりました。
この香りは、神に仕える清らかで純粋無垢な存在という汚れなきイメージを持つ修道女と、実際に修道女から受けた自分と母への冷たい仕打ちという相反する側面をひとまとめにしています。
フランスの伝統的なパティスリーのニュアンスもアクセントに。

ルリジューズ

©ラデュレ
フランスの伝統的なパティスリーに、大小二つのシュー(クレーム・パティシエールが詰められた)を積み重ねたものがあります。1800年代半ばにパリで考案されたこのパティスリーの名は「ルリジューズ(Religieuse)」です。その名の通り修道女を連想させるシルエットのパティスリーとして、ラデュレでも人気のお菓子です。
このパティスリーのニュアンスもこの香りの中に詰め込まれています。
ちなみにセルジュ・ルタンスはこの香りの前に、ふたつの優れたジャスミンの香りを生み出しています。酔わせるように幻想的で美しい、天国にいちばん近いジャスミン畑の香り「ア ラ ニュイ」と漆黒のジャスミンが誘う、天国にいちばん近い夜の香り「サラザン」です。
非常に両義的な香りです。雪のように白いジャスミンが入っています。それから、シベットも使用しました。これは極めて動物的な香りです。この香りには、雪の結晶のように空中に舞う、花のような、純粋で極めて軽やかな香りと、より捕食的で土臭い香りの2つの要素が共存しているのです。これら2つの要素は、私が修道女という存在に対して抱く両義性を反映しています。汚すことなど到底できない白い表面と、それを汚したいと叫びたくなる私の怒り。それは同時に、私自身の人生に対する怒り――生きているという事実そのものに対する怒りでもあります。
しかし、その雪を踏みにじり汚すことは、いわば私自身を傷つけることにもなる。なぜなら、ある意味で、私はこの女性像、そして私の存在が形作られてきた状況の鏡像そのものだからだ。このような両義性は複雑な問題である。そして、この香水は、どこへ行ってもその両義性の痕跡を残していく。ジャスミンの甘さと繊細さに、動物的なシベットが融合しているのだ。後者はジャスミンの香りを最大限に引き立て、それによってジャスミンに計り知れないほどの生命力を吹き込んでいる。
セルジュ・ルタンス(以下、すべての引用はセルジュ・ルタンス氏のお言葉)
ピュアな白いジャスミンの結晶が、素肌の上に降り積もる。


雪、氷には、その火傷する様な冷たさと美しさが同時に存在しています。私は雪が好きです。私にとって修道女は雪のようなものです。純白の雪の絨毯には常に驚きと魔法のようなものがありますが、同時に、無性にその上を踏み荒らしてその完璧さを台無しにしたいという衝動に駆られるのです。
修道女。それは、まさに私なのです。
この香りのテーマは、白と黒のコントラスト、善と悪及び道徳と背徳への葛藤のせめぎあいです。そして、セルジュ・ルタンスのブランドとしての70作品目のフレグランスとなります。
白と善の側面を雪のように白いジャスミン、黒と悪の側面をシベット、ムスク、インセンスによって体現させているこの香りの中には、白い雪に包まれた修道院で黙々と神への祈りを捧げる、うら若き修道女の姿からはじまります。
そこには、強烈なコントラストは存在しません。多くのルタンス愛好家の皆様が、期待するのは、映画「オーメン」(1976)で流れてたようなオドロオドロしい聖歌が頭の中に流れつつ、善と悪が回転木馬のように駆け巡る香りを期待していたのではないでしょうか。
しかし、実際のところは、坂本龍一の「戦場のメリークリスマス」のようなこんこんと降り積もる雪のように、ピュアな白いジャスミンが素肌の上に降り積もっていくようです。
天国へも、地獄へも、共に進んでくれる〝運命のジャスミン〟


では、その修道女とは一体誰なのでしょうか?彼女は他ならぬ私自身なのです。というのも、修道女という存在は、実は私が生まれたその瞬間からずっと私と共にあったからだ。母は私の出産で大変な苦しみを味わった。なんと丸3日間も苦しんだのです。私が外に出たくなかったのか、あるいは母が私を手放したくなかったのかもしれない。そして1942年当時の状況は、実に悲惨なものだった。
母は出産後に何が起こるのか恐れていました。彼女は「姦通者」であり、当時の法律ではそのような女性は投獄され、子供を奪われてしまうことになっていたからです。ほとんどの男性は前線か捕虜収容所に送られ、女性たちは家に一人きりで残されていた。そんな孤独に耐えられる女性はごくわずかだった……。そして私が生まれると、修道女は母にこう言い放ったのです。「この子はあなたの悪行の産物よ。今こそその代償を払う時だ!」と。
しかし残酷さは人生に付き物だ。そこから逃れることはできない。それは美しさにも付き物なのだ。
キラキラと粉雪のようなベルガモットの結晶が清らかな酸味と共に、ヒヤシンスや百合、ヴァイオレット、水仙、ミモザ、ハニーサックルといった花々の結晶も誘い、ジャスミンの花の氷の精をより生き生きとひんやりと輝かせてくれます。
どこかジャスミンが薫るキンキンに冷えたカクテルを味わっているような喉ごしが素肌で感じられるようでもあります。さらに丁寧に作られた「ルリジューズ」のパティスリーのような円やかな甘さを感じられます。
すぐにどこからともなく教会の鐘の音のようなフランキンセンスが、悲しくなるくらいにうつくしく透き通るような音色で、スモーキースパイシーな月光の子守歌を聴かせてくれます。
そして素肌の奥からシベットが到来します。ピュアなジャスミンと厳粛なるインセンスの美しき世界に、ふいに現れる、黒い欲望の嵐。しかし同時に、天使のようなムスクとカシュメランが、絶妙なバランスでクリーミーな温かみを広がらせ、若き修道女の理性を保つように、踏み荒らしたくなるほど、ピュアで美しい最も魅力的な〝純白のオリエンタルフローラル〟の余韻を広がらせてくれるのです。
それはまるで、一切素肌を見せない女性から漂う、秘めた官能的なささやき、つまりは修道服の下の肌を連想させる、妄想を掻き立てる秘密めいたジャスミンの香りのようです。清らかさに満ち、露骨じゃないからこそ、より背徳的であり、中毒性があるのです。
だからこそ、身に纏う女性の心に併せて、天国へも、地獄へも、共に進んでくれる〝運命のジャスミン〟となるのです。
カソリックにおいて、パープルは苦しみを象徴する色


紫にはどこか神秘的で宗教的な雰囲気があります。黒や白と並んで、私が最も好んで身につける色であり、まるで第二の肌のようです。それは愛の色である赤と、死の色である青の中間に位置する色です。紫を好きな色として意識的に選んだことは一度もありません。むしろ、それは幼少期に誰もが無意識のうちに下す、生涯にわたって重要な決断の一つでした。
ボトルのジュースがパープルカラーは、シャネルの2.55バッグのライニング・カラーの意味と同じく修道女の衣服に由来するのかもしれません。ちなみにカソリックのカラーコードでは、パープルは苦しみを象徴する色なのです。
ルカ・トゥリンは『世界香水ガイドⅢ』で、「陰気なジャスミン」と呼び、「修道女という名の香水。今にして思えば、セルジュ・ルタンスは2010年ごろサメに跳び乗って味をしめたのだろう、その後はずっと水上スキーに夢中で帰ってこない。なのでこのレビューは追悼文の形をとらせてもらう」
「資生堂に迎えられてルタンスがアートディレクターに、クリストファー・シェルドレイクが調香師になったとき、この二人は香水の表情を劇的に変えた。パレ ロワイヤルの庭に開いた彼の店ほど魅惑的な香水店は今後も二度と現れないだろう。コティ以来、これほど大きな影響を与え、これほど多く模倣されたブランドはない。「アンブル スュルタン」 「ラ ミール」「フェミニテ デュ ボワ」 「アイリス シルバー ミスト」は文句なしの絶品だ」
「当時、古典的な香水を愛する一部の批評家はルタンスの新しい美学を理解せず、 いいベースを使っているだけで香水としては不完全だと評したが、実のところ、これらの作品のシンプルさは完璧なまでに計算しつくされたものだった。ルタンスには、なにがしかの方法で(言葉で表現するのは不得手だが)香水のアイディアをシェルドレイクに伝え、彼が完成させるまでフォローする才能があった。そしてシェルドレイクには、常識にとらわれず手抜きもせずにそれを完成させる才能があった」
「正直に言おう。私はルタンスもシェルドレイクもよく知っている。私が駆け出しの香水評論家だったころ、ルタンスは実にやさしく寛大に接してくれた。シェルドレイクは現役で屈指の調香師であり、今もシャネルで黙々と奇跡を生み出している。 彼らの成し遂げたことは忘れないでいよう。そして最近のセルジュ ルタンスが売り出す超高価な安物は見ないことにしよう」と2つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:ラルリジューズ(修道女)
原名:La Religieuse
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2015年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/22,000円、100ml/32,560円
公式ホームページ:セルジュ・ルタンス

シングルノート:ベルガモット、ジャスミン、シベット、ムスク、インセンス

