作品名:カサブランカ Casablanca (1942)
監督:マイケル・カーティス
衣装:オーリー・ケリー
出演者:ハンフリー・ボガート/イングリッド・バーグマン/マデリーン・ルボー/ポール・ヘンリード/クロード・レインズ
日本にはじめてイングリッド・バーグマンがあらわれた瞬間。
私はこの作品の中で、何も新しいことはしなかった。しかし、カメラがあのバーグマンの顔に近づき、彼女があなたを愛してるわ、って言えば、どんなやつだってロマンチックに見えてくるさ。
ハンフリー・ボガート
イングリッド・バーグマン(1915-1982)という女優について人々が語るとき、3度のアカデミー賞を受賞した作品についてではなく「トレンチコートを着てボギーを見送るイルザ」を思い浮かべる人がほとんどでしょう。
そして、この作品は、太平洋戦争で敗戦した日本(1946年6月)にイングリッド・バーグマンが初めてお披露目された作品でもありました。この作品の名を『カサブランカ』と申します。実際のところ、真実においては、バーグマンはこの作品の中ではトレンチコートは着ていません。恐らく、ボギー(ハンフリー・ボガート)が着ていたトレンチコートの印象が強すぎて、人々の記憶の中に、彼女も同じくそれを着ていたように思わせてしまっているのでしょう。
ハリウッドにおいて、ハリウッドが与えるイメージと違う役を演じることは難しい。彼らは何度でも同じタイプの役をふる。すべての俳優が、ハンフリー・ボガートを含め、常に自分自身を演じていた。しかしわたしは、演技とは確実に変化することを意味するスウェーデンからやってきた。自分以外の他人になりかわるのが演技だった。
マイケル・カーティスはいつも決まり文句を口にした。「イングリッド、きみは間違っている。アメリカではそういうやりかたはしない。アメリカはタイプで配役を決める国なのだ。観客は切符売り場でそれを要求する。彼らが金を払うのはゲーリー・クーパーがゲーリー・クーパーを演じるのを見るためであって、ノートルダムのせむし男を演じるのを見るためじゃない。だからきみは自分を変えて違うことをやろうとするとだめになってしまうのだ。今後はひたすらイングリッド・バーグマンになるように努力しなければならない。いつも同じことをやり、同じタイプの役を演じて、観客に愛される魅力的な一面に磨きをかけるのだ」
わたしは答えた。「いいえ、そんなのはいやです。わたしは変わります。できるだけ変えるつもりです」
イングリッド・バーグマン
マデリーン・ルボー。ホンモノのフランスからの亡命者。
「昨日はどこに行ってたの?」「そんな昔のことは覚えていない」
「じゃあ今夜会える?」「そんな先のことは分からない」
この有名な台詞のやり取りをリック(ハンフリー・ボガート)が交わす相手イヴォンヌを演じているフランス人女優マデリーン・ルボーが着ているファッションがとてもハリウッド的です。
スパンコールが重ねられた魚の鱗のようなチョリは、光り輝いています。それは深いVネックラインから臍だしされた商売女丸出しのスタイルです。そして、ダークカラーのロングスカートというアラビアンナイトにでも出てきそうなエキゾチックさがこの作品の異国情緒な雰囲気にマッチしています。
恐らくリックは、パリでイルザに捨てられ自暴自棄になった所を、この商売女の存在によって肉体的にも精神的にも救われたのでしょう。そして、立ち直りつつある今、この女の存在はもはや必要ではなくなっているのでしょう。そんな彼女の存在があり、リックの氷のような無情な姿が見せつけられるからこそ、その後に、イルザと再会し、苦悩するリックのシーンが生きてくるのです。
物語が25分過ぎ、バーグマンが現れる。
イルザ・ラント・ルック1 ホワイトスカートスーツ
- ホワイトスカートスーツ、ショートスリーブ、ロングスカート
- ブローチ
- 右手首にブレスレット(シーンによって左手首になっていたりする)
- スパンコールのクラッチ
- 白の手袋
1930年代のファッションと1940年代のファッションの明確なる違いは、ドレスを着ていた女性達が、スーツを着るようになるということです。
よく見るとイングリッド・バーグマンのこのスカートスーツのジャケットは、ノーカラーでフロントジップになっており、ボタンなどが見えないシンプルな作りになっています。
このシーンの衣装のために、衣装デザイナーのオーリー・ケリーは大変苦労したと言われています。当初用意した衣装の大半はボツになったのでした。なぜなら、バーグマンのような175㎝という高身長で骨格がしっかりしている女性がそれらを着ると彼女が巨大に見えたからでした。
このスカートスーツは、そんな彼女をいかに華麗かつ華奢に見せるかということだけを突き詰めて作り上げられたデザインでした。