アニエス・ベーを着るミスター・ホワイト
ミスター・ホワイト・ブラックスーツ
- アニエス・ベーのブラック・ウール・スーツ、シングル、スリム・ノッチ・ラペル、2ボタン、ノーベント
- ブラック・シルク・ナロータイ
- コットン・ドレスシャツ、胸ポケット付き、ワイド・スプレッド・カラー
- 黒のレザーベルト
- 黒のレザー・ブルーチャー(外羽根式)
- ゴールドのダイヤモンド・ピンキーリング
- ランバンのウェイファーラー風サングラス
ブラックスーツに身を包む6人の悪党。宝石店襲撃のために、お互いの素性を知らぬ筋金入りのプロの犯罪者達が集められ、それぞれにカラーをコードネームとして与えられるのです。そんなカラフルな名前を持つヤツラの服装が、ブラックスーツで統一されているところがまた面白いのです。
そんな彼らのブラックスーツはぱっと見た感じでは同じスーツに見えますが、それぞれが全く違うモノを着ています。更に、白いシャツもブラックタイもそれぞれが微妙に違うものです。実際の所、上下のセットアップのスーツを着ているのは、ホワイト(ハーヴェイ・カイテル)とブラウン(クエンティン・タランティーノ)だけです。
であるにもかかわらず、この5人のブラックスーツに統一感が生まれているように見えるのは、それぞれの体格に合わせたスタイリングがなされているからなのです。ここにファッションにおけるスタイリングの重要性が見えてきます。当時50代前半のハーヴェイは友人のアニエス・ベーから提供されたノーベントのジャケットを、シャープ過ぎないが、モード寄りの、20代の男性に似合うシルエットのものを見事に着こなしています。ちなみにアニエス・ベーはタランティーノの次回作『パルプ・フィクション』のジョン・トラボルタのスーツも手がけることになります。
10人中10人が惚れるミスター・ブロンド様
ミスター・ブロンド・ブラックスーツ
- サイドベンツのブラックジャケット、ノッチドラペル
- ブラック・ナロータイ
- C&R Clothiersのトラウザー
- 胸ポケット付きのホワイト・コットン・シャツ
- レイバンのウェイファーラー
- 少し高めのカウボーイ風ヒールブーツ
6人の中でブラックスーツが最も似合っているのは、ミスター・ブロンドを演じたマイケル・マドセン(1958-)であることに異論はないでしょう。マドセンは、北欧とアイルランドとネイティブ・インディアンの血がミックスされているのですが、イタリア男のような危険な色気に満ちています。彼は教えてくれます。ブラックスーツの美学とは省略の美学であるということを。
ちなみにブロンドの本名はヴィック・ベガと言い、『パルプ・フィクション』でジョン・トラボルタが演じたヴィンセント・ベガとは兄弟という設定なのです。
「こいつオレをファックしようとしたんだ!」「犯ってやりたいが、とりこにしちまう」ミスター・ブロンドとナイスガイ・エディのこのやり取りこそ、ハーヴェイ・カイテルが最もお気に入りと挙げるシーンです。
ティム・ロスの出世作!
ミスター・オレンジ・ブラックスーツ
- ブラック・ジャケット、ノッチド・ラペル
- ブラック・ジーンズ
- ブラック・ナロータイ
- 襟小さめのディオールオム風のホワイト・ドレスシャツ。左に胸ポケット
- ブラック・レザーブーツ
- レイバンのクラブマスター
ブラックスーツの魅力を、オシャレに鈍感な男たちにまで完膚なきまでに知らしめた所が、本作のファッション史における最大の功績です。ある種の映画のみが持ちうる力とは、ファッションに興味のなかった人たちに対して、ファッションの魅力を伝えることに出来るところにあります。本作のブラックスーツがまさにそれです。シンプルで分かりやすい提案だからこそそれだけストレートに入ってくるのです。ブラック・イズ・クールなんだという鉄則が。
毛沢東語録をかざす紅衛兵仕様の人民帽をかぶる黒人捜査官。こういう人を食ったファッションに身を包むキャラクターを登場させるのが、タランティーノ映画の醍醐味です。