フィスドゥジョワ(喜びの申し子)
原名:Fils de joie
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2020年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/19,800円、100ml/30,140円
公式ホームページ:セルジュ・ルタンス
徹底的にエロティシズムを探求した香り
[喜びの申し子]
美の中には、絶望がある。自らを犠牲に喜びを与える。堰を切ったようにあふれ出す高笑い。過去の痛みを孕む狂喜こそが、奇妙なことに神秘性を深めてゆく。私は「喜びの申し子」だ!親しみと刺激が尾を引くかぐわしさ。お忘れなきように。美しさの底にあるものを、暴いてはいけない。
公式ホームページより
セルジュ・ルタンスの「コレクションノワール」より、2020年11月21日に発売されたナイトジャスミンの香りです。その名も「喜びの申し子」です。クリストファー・シェルドレイクにより調香されました。
「フィスドゥジョワ」という名前は、フランス語で「娼婦」を上品に表現した「フィーユドゥジョワ」(=喜びを生む娘)の男性名詞であり、「男娼」という意味とも取れます。
しかし、この名前は、自分の出自と絡め合わせて香りの名前を決めていく傾向が強いセルジュ・ルタンスが、姦通の果てに生まれた息子であり、父親が誰かも知らない「純粋なる喜びの行為の果てに生まれた息子」という意味に掛け合わせている可能性が非常に高いです。
エロティシズムと単純な性交を分かつ点は、エロティシズムが、生殖、および子孫への配慮の中に見られる自然の目的(種の保存・繁栄)とは無関係の心理的な探求であるというところなのだ。
『エロティシズム』ジョルジュ・バタイユ
この香りは、徹底的にエロティシズムを追求した香りとも言えます。
離れられなくなる香り
香料として発表されているナイト・ブルーミング・ジャスミンとは、夜香花(ヤコウカ)のことであり、正確にはジャスミンではありません(チョウセンアサガオに近く、毒性を持つ)。インドでは「夜の女王」と呼ばれるほどの甘い芳香を放ちます。
香料のために花を採取するときに、夕暮れ時のほんの数時間しかチャンスのない上に、コブラも魅了される香りであるため、コブラに注意しながら採取しなければならないという危険の伴う作業となります。
クローブとカーネーションによりこの香りの扉は開かれます。そして、ジャスミンの蜜の香りが押し寄せてきます。
愛が生み出す甘さと辛さ、喜びと苦しみ、快楽が生む体液と涙をイメージした香りであることが容易に感じ取れるほど、ジャスミンの花蜜は、夜香花の花蜜と結びつき、甘さの濃度を変化自在に肌の上で、まるで翻弄して楽しんでいるかのように変えてゆきます。
さらに土砂降りの雨のなか泥んこになったジャスミンのような生々しい芳香を放つ瞬間があります。涙と甘い言葉を駆使してあなたの心を操る危険な二つの白い花は、果実の酸味を含んだイランイランの花蜜の到来により、絶頂を迎えます。
うっとりするような花蜜の香りが、やがて、うんざりするような花蜜となり、でも「どんなに嫌いになっても、あの人のことが忘れられない」想いをもいちど甘い花蜜が運んでくるという、とんでもなくやっかいな香りです。
嗅覚で香りを感じてもらうのではなく、もっと肉体の敏感な部分に反応させようと画策したセルジュ・ルタンスが到達した〝悪徳の栄え〟の境地とも言える香りです。
これが朝倉という男だ。こんな男に女が惚れたら、最後に待っているのは恐ろしいほどの不幸だ。
『蘇える金狼』大藪春彦
この香りを集約する言葉は、この文章にあります。男は、朝倉のような男(松田優作のイメージ)に憧れ、女は、こんな男と燃えるような恋に落ちたいと願う。
まさに本質的な問いかけを投げかけてくる香りです。「あなたは生まれて一度でも身を焦がすような恋をしたことがありますか?」と・・・
「喜びの申し子」というこの香りの味を知ってしまうと、最後に待っているのは恐ろしいほどの不幸なのです。諦めの先にある、心の平安の果てに感じるハニームスクの余韻に浸りながら、再び、めくるめく官能的な花蜜を思い出し、肉体と心の間に潜む獣の浅い眠りを覚ましてしまいそうな〝戦慄の予感〟を待ち望むようになります。
ほんとうに離れられなくなる香りです。
香水データ
香水名:フィスドゥジョワ(喜びの申し子)
原名:Fils de joie
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2020年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/19,800円、100ml/30,140円
公式ホームページ:セルジュ・ルタンス
トップノート:ジャスミン、ナイト・ブルーミング・ジャスミン
ミドルノート:イランイラン、ハニー
ラストノート:ムスク