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【ル ラボ】ベンゾイン19 モスクワ(フランク・フォルクル)

その他
©Laurie Sparham/Focus Features
その他ブランドルラボ調香師香りの美学
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ベンゾイン19 モスクワ

原名:Benjoin 19 Moscow
種類:オード・パルファム
ブランド:ルラボ
調香師:フランク・フォルクル
発表年:2013年
対象性別:ユニセックス
価格:15ml/19,800円、50ml/38,500円、100ml/57,200円
公式ホームページ:ルラボ

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アンナ・カレーニナの香り

©Laurie Sparham/Focus Features

ルラボが出店している都市ごとの限定の香り「シティ エクスクルーシブ コレクション」。その中のひとつとして2013年に発売されたモスクワ限定の香りが、「ベンゾイン19」です。フランク・フォルクルにより調香されました。

レフ・トルストイの「アンナ・カレーニナ」の中で、(舞台は1870年代のロシア)政府高官カレーニンの妻である美貌のアンナが、兄夫婦の諍いを仲裁するためにやってきたモスクワで、若い貴族の将校ヴロンスキーとモスクワ駅で運命的に出逢い、互いに惹かれ合うシーンがあります。

この香りは、そのシーンを体現する香りとして調香されました。それは人生の全てが一変してしまう瞬間をオリエンタル・ウッディに託した香りです。

ちなみにベンゾインはロシアの正教会で使われるインセンス(お香)の主な構成成分の1つになります。アルメニア(旧ソ連)では、昔からベンゾインを屋内で焚くことで、家屋に良い香りを与えながら、同時に消毒・浄化も行っていました。

19世紀末にオーギュスト・ポンソがそのことを知り、フランスに戻り、溶解したベンゾインに香料を加え、吸い取り紙に染み込ませることで、炎を出さずに香りを出しながら燃えるアルメニアペーパー(パピエダルメニイ)を作りだしました。モスクワとの直接的な関連はありませんが、ロシアとベンゾインの関連を示します。

また、ベンゾインが生み出すウッディさとわずかな甘味は、図書館にある少し埃をかぶった文学の本のようなイメージを与えてくれます。冬の夜長に、暖炉の暖かさに身を委ねながら、ウイスキー片手に、そんな借り物の本を読みながら人生について考えるそんなイメージを与える香りとも言えます。

時代がトルストイに追いついた!

©Laurie Sparham/Focus Features

この香りの最大の魅力を知る人はレフ・トルストイでしょう。「アンナ・カレーニナ」は、彼のために作られたと言っても良いほど、その世界観を見事に掴んでいます。つまり、このトルストイの偉大な作品から実際に香りが出ているかのような、ストーリーともマッチした香りです。

「アンナ・カレーニナ」は、5年の歳月をかけ、何度も題名も変えられながら、トルストイ自身の人生が色濃く反映され描かれた作品です。作品全体を通して、生と死、そして愛、への哲学が根底に流れています。

〝愛〟によって生まれる〝生〟と〝歓び〟、〝愛〟するがあまりの〝憎悪〟と〝死〟。

そして、最後の300ページに幾度となく表現される、これらの根底に流れる究極の疑問「私とはなにものであるのか、なんのために生きているのか」。トルストイの文豪たる所以は、当たり前の日常から始まり、古今東西共通する恋と愛の幸せと苦しみを経て、最後に生と死という深淵なテーマに導く所にあるのです。

だからこそ、今の時代においてもトルストイは決して色褪せない・・・いいえ、むしろ、いつの時代でも新しい物語に感じさせられるのです。そして、「ベンゾイン19」からはそういったトルストイの普遍性を容易に感じ取ることが出来るのです。

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不幸を身に纏い、不幸を払いのけてくれる聖杯のような香り

©Laurie Sparham/Focus Features

愛…. なぜ私がこの言葉を好きになれないかというと、この言葉は私にとってあまりにも多くのことを意味し、あなたが理解できるよりもはるかに多くのことを意味するからです。

『アンナ・カレーニナ』レフ・トルストイ

ベンゾインとは、日本名を安息香と言います。それはスティラックスの樹から採れる樹脂であり、バルサム調の甘い香りが特徴です。この香りは、スモーキーなオリバナム(フランキンセンス/乳香)とクリーミーなベンゾインが、大雪原の針葉樹林(松林)とロシア正教会の大聖堂を思わせるフレッシュなお香の香りからはじまります。

幸福な家庭はすべて互いに似かよったものであり、不幸な家庭はどこもその不幸のおもむきが異なっているものである。

『アンナ・カレーニナ』レフ・トルストイ

という一瞬で引き込まれる原作の最初の一文と同じように、最初に、偉大なるロシア人エルネスト・ボーが生み出したシャネルの「No.5」に哀悼の意を示すように、アルデハイドを思わせる冷たい空気のような芳香が、ポンっとコーラのように弾けます。それはロシアの澄み渡る空気を吸っているかのようであり、凍てつくツンドラを思わせます。

やがて、アンナを中心に、カレーニンとの夫婦問題やヴロンスキーとの不貞の物語が展開していくように、だんだんとベンゾインがアンバーを眠りから呼び覚ますようにキャラメルのような円やかな甘さで包み込んでゆきます。ここに突如、シダーウッドがイソEスーパーにより、アロマティック・グリーンな煌きを放ってゆきます。

これらの香料は明るいイメージよりもダークで退廃的なイメージがあります。それはトルストイが登場人物であるアンナに、リョーヴィンに抱かせ、語らせる人生への哲学的な絶望を暗示しているかのようです。

やがて、アンバーはそのアニマリックな側面をより強く出し、アンナ・カレーニナが運命的な出会いによって、冷静さを保つことが出来ない、官能と欲望の渦に飲み込まれるような、そんな人生における抗うことの出来ない決定的瞬間を生み出してゆきます。

不安・絶望・苦しみを安息に導くようなベンゾインの湿った甘さと、シダーウッドのドライな渋みが、不倫の末に結ばれたアンナとヴロンスキーのすれ違いと、アンナの自殺を予感させるのです。

かつて心地良かった身を焦がす甘い焚き火ような香りに、今は身も心も滅ぼされようとしているそんな感覚を身に纏うたびに体感できるのが、「ベンゾイン19」の醍醐味なのです。しかも、上記の出来事は、すべて空気のような静けさの中で粛々と行われていくのです。

それは「不幸を身に纏う香りであり、不幸を払いのけてくれる聖杯のような香り」なのです。フランク・フォルクルの天才性は、長編文学小説を読むように、静かにゆっくりと激動の物語の中に身も心も焦がしてくれる香りを生み出したところにあるのです。

ゲランの「ボワ ダルメニ」と比較してみたくなる香りです。

いやしかし、私がモスクワの香りと聞いて、真っ先に脳裏をかすめたのは、アンナ・カレーニナではなく、ジンギスカンでした。

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香水データ

香水名:ベンゾイン19 モスクワ
原名:Benjoin 19 Moscow
種類:オード・パルファム
ブランド:ルラボ
調香師:フランク・フォルクル
発表年:2013年
対象性別:ユニセックス
価格:15ml/19,800円、50ml/38,500円、100ml/57,200円
公式ホームページ:ルラボ


シングルノート:アンバー、ムスク、オリバナム、シダー、ベンゾイン

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