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フレデリック・マル

【フレデリック マル】アクネ ストゥディオズ パー フレデリック マル(スージー・ル=エレー)

フレデリック・マル
©Acne Studios
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アクネ ストゥディオズ パー フレデリック マル

原名:Acne Studios Frederic Malle
種類:オード・パルファム
ブランド:フレデリック・マル
調香師:スージー・ル=エレー
発表年:2024年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/38,500円、100ml/54,780円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム

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実は〝ボディコンの父〟アズディン・アライアとコラボ予定だった。

©Acne Studios

©Acne Studios

2000年に「エディション ドゥ パルファム フレデリック マル」を創業したフレデリック・マルは、当時、影の存在だった調香師に光を当て、香水の誕生のプロセスを一般消費者に対して明らかにしました。そして21世紀の香水の時代が、〝調香師の時代〟と呼ばれる流れを作り出したのでした。

そんな彼が、2024年6月末をもって、ブランドのクリエイティブ・ディレクターから退任することになりました(2015年にエスティローダーの傘下に入っていた)。2024年4月17日(日本では5月23日)に発売された「アクネ ストゥディオズ パー フレデリック マル」は、彼が白鳥の歌として残した香りです。ISIPCA出身のスージー・ル=エレーにより調香されました。

スージー・ル=エレーと言えば、葛和建太郎氏が率いるEDIT(h) エディットのために「スーチョン ジャーニー」を調香した人です。

フレデリック・マルは、今まで、ハイ・ファッション・ブランドとのコラボレーションの経験は、2013年にドリス・ヴァン・ノッテンとだけありました。ちなみに、ランバンのデザイナーだった頃のアルベール・エルバスとは、2016年に「スーパースティシャス」でパーソナルなコラボレーションを行っていました。

アズディン・アライア

実は、三人目のファッション・デザイナーとのコラボレーションとして、アズディン・アライアとの話が進んでいたのですが、アライアが2017年11月18日に逝去したことにより実現しませんでした。

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アクネ ストゥディオズの総帥ジョニー・ヨハンソン自ら起つ

ランバン×アクネ ©Acne Studios

アルベール・エルバス

人口1000万人ちょっとの〝世界の果てに位置する〟小国スウェーデンのストックホルムで誕生したアクネ ストゥディオズは、1996年にジョニー・ヨハンソン(1969-)が3人の友人たちと共に設立しました。それは赤いステッチの入った100本のデニムパンツからはじまりました。

アクネとは、Ambition to Create Novel Expression(新しい表現を生み出す野望)をモットーに、その頭文字を採り名付けられました。

2008年からランバンとコラボし、アルベール・エルバスと出会ったことが、後にフレデリック・マルへと導かれることになるのでした。

通常、ファッション・ブランドが香水を生み出すとき、大きく二つの道に向かって突き進んでゆきます。ひとつは、〝プロに任せる道〟です。これはロレアル(イヴ・サンローラン、メゾン マルジェラ、アルマーニ)やプーチ(ジャン=ポール・ゴルチエ、キャロライナ・ヘレラ)、エスティローダー(トム・フォード)が代表的です。一方で、ルイ・ヴィトンディオールエルメスシャネルのように自社で専属調香師を抱えていく〝香水帝国を作る道〟があります。

アクネ ストゥディオズが選択したのは、前者の選択の中でも究極の選択である〝プロ中のプロに任せる道〟でした。つまりそれは、アクネ ストゥディオズに香水部門の担当者が置かれるのではなく、総帥ジョニー・ヨハンソンが直々に〝アクネの精神〟を反映した香りを生み出すために、フレデリック・マルという〝プロ中のプロ〟と共同で創作に励むことを意味するのでした。

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フレデリック・マルから送られた一通の手紙

ジョニー・ヨハンソンとフレデリック・マル ©Acne Studios

フレデリック・マル ©Acne Studios

今のファッションシーンは、少し迷走しているように思う。しかしアクネ ストゥディオズのポジショニングは決してぶれない。多かれ少なかれ常に同じものを模倣して退屈な商業服を作るのではなく、女性への敬意に欠ける着こなせないものを作ることでもなく、完全に常軌を逸して服を作らないことでもない。

彼らはほとんど伝統的で、ここが私たちと波長が合うところなのですが、非常に革新的で、画期的でありながら着やすい、時代を超越したモノを作るというアイデアを守り続けています。

私たちの仕事のやり方と、彼らの仕事のやり方は、とてもよく似ている。私たちは古典的な形を使うことが多いのですが、それをひねったり変えたりして、物事を前進させるのです。だから、私たちにはアクネに対して強い魅力を感じていたし、同じような考えを持っているのだから、対話ができるという感覚がありました。

フレデリック・マル

はじまりは、2023年のある日、ジョニー・ヨハンソンのオフィスに届いた一枚の手紙からでした。それはフレデリック・マルからのものであり「もし時間があったら、パリで一緒にコーヒーを飲みたい」という内容でした。〝そんな手書きの手紙を、イマドキもらうことはめったにない〟とヨハンソンはびっくりしました。

マルは妹と妻と娘が、よく着ていたこともあり、常々アクネ ストゥディオズに深い関心を持っていました。一方、ヨハンソンは、ファッションにおける香水の重要性を認識しており、10年ほど前から香りの本を集めていました。しかし、マルの提案を受けるまで、香りを作ることは考えていませんでした。

ニューヨークとパリにあるフレデリック・マルの店舗をよく訪れていました。壁に掲げられた調香師のストーリーについて読んでいて、すごく進んだコンセプトだと感じていました。彼の作品の作り方には、古典的な基盤もある。僕もそこに惹かれるんだ。

ジョニー・ヨハンソン

私はすぐに返事を出しました。そしてすぐにパリに行って彼とコーヒーを飲みました。私は、わくわくしました。なぜなら、「ダン テ ブラ」を何年も愛用していたからです。これ以外は他のものは一切つけません。

ジョニー・ヨハンソン

新しい友人ができたような気分だ。彼はとてもエレガントな人です。彼が最初にしたことは、サヴィル・ロウにある彼のテーラーに私を送り込むことだった。

ジョニー・ヨハンソン

二人はパリのサンジェルマン大通りにあるカフェ・ド・フロールで合流し、会話は多岐にわたりました。この時、マルは、信じられないほど準備万端の状態で到着したヨハンソンのマメさと実直な性格に感銘を受けました。

彼は好きな音楽や、彼が関係するさまざまな言及を含む文書をまとめてマルに手渡したのでした。そしてヨハンソンは愛用する「ダン テ ブラ」について「なんとも言えない未来的な古典主義がある」とマルに伝えたのでした。

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『ペルソナ』で白いタートルネックを着たリヴ・ウルマンのイメージ

『仮面/ペルソナ』(1966)

『仮面/ペルソナ』(1966)で白いタートルネックを着たリヴ・ウルマン。

ジョニーが『ペルソナ』を見せてくれたとき、たまたま私のお気に入りの映画のひとつだったのですが、リヴ・ウルマンが海辺でパリッとした白いタートルネックを着ている映像があった。

そのイメージから、清潔で、白くて、明るくて、それでいてソフトなものを捉え、それを調香師の言葉に翻訳したいと思いました。これが私の仕事だからです。私は調香師と仕事をし、彼らの言葉を話す方法を知っています。

フレデリック・マル

ストックホルムに戻ったヨハンソンは、二人のコラボを実現させるために、マルに、スウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマン監督の映画『仮面/ペルソナ』(1966)、スウェーデン王室御用達の陶器メーカー、ロールストランドのスウェディッシュ グレース・コレクション、アクセル・アイナル・ヨルトのパイン家具、民謡「ディア オールド ストックホルム」など、彼にとってスウェーデンを象徴する極めつけのモノのビジュアル資料を郵送しました。

私にとってとても個人的なものでありながら、私の中でとてもスウェーデン的なものをフレデリックに知っておいてもらいたいと思いました。そこでベルイマン監督の映画『仮面/ペルソナ』を送りました。あの映画に出てくる女性たちや、あの映画の撮り方を見ると、そこに描かれている自然が、私であること、そしてスウェーデン人であることがもたらすものと、私が感じているものと非常に結びついているのがわかります。

スウェーデンのデザインには、スウェディッシュ グレースと呼ばれる時代があり、私はその時代の影響を強く受けています。それは古典主義と近代主義の限界点のようなもので、シックでありながら前衛的で、この2つの要素が融合したものであり、私は、私の香水に求める最も重要な部分でした。

ジョニー・ヨハンソン

そして、その資料からイメージを膨らませたマルが、14つの試作品を持ってストックホルムにやって来ました。更に、ヨハンソンのたっての願いでフレグランス・レッスンも施し、ヨハンソンの香りに対する理解を深めていったのでした。

「表面に残る香水ではなく、肌に染み込む香水が好きです。また、香りがあまりにも認識されやすいのも好きではありません」というヨハンソンの好みを尊重し、最終的に4つの試作品に絞り込まれました。

スウェーデンでは夏の間、ずっと白夜が続くので、そのことについてよく話していました。それは黄色い光ではなく、白い光なのです。暗闇はありません。香水がその光、その新鮮さ、そして私たちの色であるパステルピンクに執着するのも、とても興味深いことです。

そして、もうひとつ私のこだわりについて話していました。私は〝メタリックな透明感〟、あるいはモダンで少し未来的だが、コンセプチュアル過ぎないものが好きなんです。

ジョニー・ヨハンソン

二人は、パステルピンクの色合いが特徴的な、約6週間にわたって夏に見られる、スウェーデンの白夜を香りのイメージの中心に置き、掘り下げていきました。特にヨハンソンがこだわった点は、〝モダンでありながら親しみやすいメタリックな透明感〟を実現することでした。

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32歳の新しい調香界のシンデレラ誕生。

スージー・ル=エレーと。©Acne Studios

スージー・ル=エレーと。©Acne Studios

アクネのスカーフ ©Acne Studios

シムライズの新進気鋭の調香師スージー・ル=エレーは、アクネ ストゥディオズのアイコンであるピンクカラーのスカーフからインスピレーションを得て、〝身体の一部を包み込むことにより、全身が満たされる香りを生み出す〟という構想を実現するために起用されました。

まだ32歳の彼女が抜擢されたのは、2年前、師匠であるモーリス・ルーセルがフレデリック・マルに推薦したことがきっかけでした(彼女はアニック・メナードの下でも修業したらしい)。初対面の時、二人は一時間ほど話をし、後日マルに10種類のアコードの「非常に短い習作」を送りました。そして、半年後、彼女はマルからの電話を受け、このプロジェクトに参加することになりました。

それは、マルがヨハンソンと一緒に香りを創造する話になりストックホルムに14つの試作品を持っていく前に、若い調香師たちから預かっていた習作と超一流の調香師の試作品をシャッフルし、作品をすべて見直した時、このプロジェクトに合っていると感じた作品はすべて彼女のモノだったからでした。

彼女は、新しい世代にアピールするネオ・クラシカル=〝爽快なフローラルアルデヒド〟の香りを生み出すためには、クリーンな洗剤の古典的な香りの構造を、洗練されたパーソナルフレグランスに変えたいと考えました(ちなみにフレデリック・マル史上最年少の調香師であるというファッション誌に記載されている内容は間違っており、2017年に「サル ゴス」を調香したファニー・バルは当時28歳でした)。

スージーの好きな香水は、カルティエの「デクラレーション」、セルジュ・ルタンスの「フェミニテ デュ ボワ」、フレデリック・マルの「ムスク ラバジュール」、ケンゾーの「ジャングル」とのことです。

そのためより上質なフローラルブーケを添えて、よりパウダリーにすることで、20年代のシャネルの「No.5」以来ずっと親しまれてきた、古典的なフローラル・アルデヒドを彷彿とさせるパウダリーなタッチを作り出しました。さらに現代的なひねりとして、少しグルマンな香りにするために、バニラを加えました。

そこに「天然のフローラルばかりだと私は息苦しさを感じるのです」というヨハンソンの要望を盛り込み、敢えて化学的なきらびやかなフローラルの香りを潜ませたのでした。

最終的に、柔軟剤という服に深い関わりのある、最も不快な匂いにも、最も心地よい匂いにもなる香りを突き詰めていこうということにもなりました。

スージー・ル=エレー

そして、最後に、マルの要望により、アクネのピンクカラーとラグジュアリー感をもたらす真珠が想起させる感覚を組み込みました。かくしてスージー・ル=エレーは、真珠のように磨き上げられたピンクの輝きを湛えた香りを、8ヶ月弱、何百回もの試作品を経て、完成させたのでした(マルはエリック・サティの『グノシエンヌ』が素肌の上で流れているような香りだと喩えている)。

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〝柔軟剤のような香り〟ではなく、〝夢のような柔軟剤の香り〟

©Acne Studios

©Acne Studios

Ambition to Create Novel Expression(新しい表現を生み出す野望)の精神で生み出された、アルデハイドの過剰摂取と意図的に超合成的に作り上げられた〝アクネ ストゥディオズのファースト・フレグランス〟。

それは目覚めの朝に浴びる温かいシャワーの水が、あなたの明るい背中を流れ落ちるように、ミルキーな(グレープを思わせる)真珠の輝きと共にはじまります。クリーミーなローズ、パウダリーなヴァイオレットが中心となり、フレッシュなオレンジ・ブロッサムの華やかな甘さがアクセントとして加えられる中、メタリックでソーピィーなアルデハイドがゆっくりと注ぎ込まれていくのです。

すぐに現れるピーチとホワイトムスクにより、その他のすべての香料がふんわりと膨らんでいくような、たおやかさに包まれていくのです。

やがてまるで見えない泡で、素肌が洗われ、見えない蒸気で、素肌が温められていくように、クリーミーなサンダルウッドとホワイトムスク、バニラ、シダーウッドの円やかな余韻に満たされてゆくのです。それはアクネ・ジーンズが、カジュアルエレガンスの定義を生み出したように、カジュアルエレガントな柔軟剤の香りを生み出していくようです。

特にスモーキーなインセンスが、洗っても落とせない所有者の体臭が安らぎを与えるような、微妙な汚れのニュアンスを香りに与える役割を果たしています。

柔軟剤の香りと一言で言い切ってしまうととても安っぽくなってしまうのですが、実際にここまで繊細な夢のような柔軟剤の香りはいまだかつて存在しなかったはずです。だからこそ、正確には、この香りは〝柔軟剤のような香り〟ではなく、〝夢のような柔軟剤の香り〟と呼ぶべきなのです。

ボトルにもこだわりが感じられます。ジュース自体がアクネピンク・カラーに染まっているように見えるのですが、実際はボトルの底だけにアクネピンクのペイントが施され、ガラスの残りの部分は無色だが、ジュースを通して色が拡散し、美しいグラデーションを描くように工夫されています。

軽くて、フレッシュでさわやかでなければならなかったけれど、柑橘系やスポーティになりすぎないようにしなければなりませんでした。

つまり洗濯したてのきれいなデニムパンツのようです。また、柔軟剤が入っているような感じで、とても家庭的な感じがします。そして同時に、パステルカラーで軽くてキラキラした、何とも言えないモダンなムードもあります。

ジョニー・ヨハンソン

最後に、ヨハンソンがヴォーグ・スカンジナビアのインタビューで答えた切り返しが面白かったです。

(あなたにとってこの香りが「ダン テ ブラ」に取って代わることになるのだろうか?)大好きな香りですが、これは私にはちょっと違います。これを付けるには私はもう歳を取りすぎています。

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香水データ

香水名:アクネ ストゥディオズ パー フレデリック マル
原名:Acne Studios Frederic Malle
種類:オード・パルファム
ブランド:フレデリック・マル
調香師:スージー・ル=エレー
発表年:2024年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/38,500円、100ml/54,780円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム


トップノート:アルデハイド、ローズ、ヴァイオレット、オレンジブロッサム
ミドルノート:バニラ、ピーチ
ラストノート:サンダルウッド、ホワイトムスク