1967年。ビジネススーツが、オトコの戦闘服になった瞬間
真夏の日本を舞台に、ビジネススーツ姿で走り、撃ち、敵をなぎ倒すジェームズ・ボンドの勇姿は、公開当時、日本人にとって、とてつもなく斬新に見えたことでしょう。そしてこの世界観の根源にあるのは、ギャング映画におけるダブルのスーツ姿で銃撃戦を行う姿でした。
日本においても、1950年代後半から60年代にかけて暗黒街映画というジャンルで、スーツを着たギャングが戦う映画(高倉健主演の『恋と太陽とギャング』『ギャング忠臣蔵』、三船敏郎主演の『暗黒街の顔役』など)が量産されていたのですが、この作品の登場が、そういった全てに対して新たなる領域を示すことになりました。
秘密諜報部員=スパイが、世界を股にかけ、クールなスーツとタキシード姿で戦う姿です。この初代ボンド五部作により、男性にとってのスーツは、ただのビジネス服やアウトローのコスチュームから、大人のオトコの戦闘服へと昇華したのでした。

『ティファニーで朝食を』や他のボンドシリーズでも有名なイラストレーター・ロバート・マクギニスのイラスト。彼はボンドムービーの世界観が世界スパイ大紀行であることをいち早く見抜いていた。

ビジネススーツ姿で銃を撃つ!その非現実に少年たちの心はときめいた。
ジェームズ・ボンドのファッション3
戦闘モード・スーツ
- テーラー:アンソニー・シンクレア
- フレンチネイビー・“コンジット・カット”サマースーツ。モヘア/ウールのブレンド。60年代半ばに流行していたシングル・ボタン、ノッチラペル、シングルベント
- ターンブル&アッサー、ペールブルー・ポプリンシャツ、タンナップカフス(カクテルカフス)
- ネイビーのシルクニットタイ
- ブラック・レザーのプレーントウ・スリッポンシューズ
- グリュエン・プレシジョン510。イエローゴールドの腕時計(1970年に実質的に消滅したアメリカの高級時計ブランド)

アキと神戸港を歩くJB。『日本』の文字が目立つダンボール箱がデデーンと並ぶ。

アキこと若林映子。彼女こそ本当のメイン・ボンドガールだった。

特徴のあるモダンなチェアといい、ケン・アダムのプロダクト・デザインが、映画の端々にまで効いています。

このダークスーツの全身ショット。

ボンドスーツとしてはかなり珍しい一つボタンのスーツ。

ラペルとネクタイのバランスも絶妙です。

コネリー=ボンドには銃を撃つ姿がよく似合う。

休憩中のコネリーと監督のルイス・ギルバート。
東京から神戸まで、わずか20分で移動するボンドカー

後の歴代ボンドも絶賛した、ボンド・カー=アキ・カー、トヨタ2000GT。

この4つのライトが今では斬新で美しい。背景は、1964年に創業されたばかりのホテル・ニューオータニのエントランス(作中、大里化学工業の本社)。

どの角度から見ても、ここまで美しくも挑戦的なフォルムは無い。

ホテル・ニュー・オータニの地下駐車場のエントランスが見えます。ちなみに原作でボンドが泊まるホテルはホテルオークラでした。

若林映子様のファッションが、典型的な60年代東宝スタイルで素敵です。

SONY製のレコーダーなど、円形でまとめられた計器とハンドル。

この若林映子様のポニーテールが、野性味があってセクシーです。

映子様は運転免許を持っていなかった・・・実際に運転する遠景は、日本人男性ドライバーがスカーフを頭に巻き付け、行っていました。

「私の母がよく言っていた。知らない女の車に乗るなと」とタイガーはボンドさんに忠告する。

改めて若林映子様の魅力がよく伝わるショット。

ライトと計器が円形で統一されているセンスの良さ。

着物姿の若林映子様と、2000GTの異次元コラボ。

着物を着た美女とスポーツカーの今見ても斬新な組み合わせ。

ボンドカーの上に座るキッシー鈴木こと浜美枝様。
ボンドムービーの歴史において、
- 『007/ゴールドフィンガー』のアストン・マーティンDB5
- 『私を愛したスパイ』のロータス・エスプリ
- 『007 リビング・デイライツ』のアストン・マーティンV8
- 『ダイ・アナザー・デイ』のアストン・マーティンV12 ヴァンキッシュ
- 『007 カジノ・ロワイヤル』と『007 慰めの報酬』のアストン・マーティンDBS
に並ぶビューティフル・カーが、アキ・カーことトヨタの2000GTです。
ダニエル・クレイグが、最も好きなボンド・カーとしてその名を挙げる2000GTの当時の販売価格は238万円(現在の価格で1500万円~2000万円)でした。それは1967年から1970年の3年3ヶ月の間に337台のみ生産・販売された幻のスポーツ・カーでした。
ジェームズ・ボンドのファッション4
カジュアル・スタイル
- ライトブラウン色のショートスリーブのリネン・スポーツシャツ、キャンプカラー、サイドベンツ、5つボタン、左胸にパッチポケット
- ブラウンリネン・トラウザー
- ライトブラウン・レザーサンダル

本作においてコネリーとプロデューサー達の関係は最悪であり、彼らがセットにいる間は、コネリーは芝居を拒否しました。

Qがボンドのために、秘密兵器を持ってわざわざ日本にまでやって来ます。

Qを演じたデスモンド・リュウェリンは、サファリシャツにハーフパンツにソックスという組み合わせが嫌でたまりませんでした。

太陽のように目立つイエロー・カラーがとても美しいリトル・ネリー。

ボンドムービーの魅力のひとつは、子供心をくすぐるハチャメチャな秘密兵器です。

蜜蜂を思わせるフォルムのデザイン。

フランク・マッカーシーによる公式ポスター。タキシードを着てリトル・ネリーに乗るボンド。操縦桿を持たずに銃をキザに構える。
ショーン・コネリー=ボンドは、ピンクがお好き

背景に聳え立つのは姫路城。なんとここが日本の秘密諜報部の基地なのです。
姫路城をバックにピンクのシャツで登場するボンド。着物姿の日本人たちと城内を散策するその姿は、まるで観光客のショーン・コネリーがただそこにいるだけのような、思わず親近感を感じてしまいます。そんな男性が着る「キュート」なピンクの見本のような着こなしです。
ピンクはあくまでもカジュアルに、気合を入れずに着る色なのです。
ちなみに、イアン・フレミングの原作では、ブロフェルドの秘密のアジトは、海岸沿いの城と記されていました。そして、ケン・アダムはそのような城を日本中ロケハンして探したのですが、ほとんど存在しない事を知り、火山の中に秘密基地を作ることに変更しました。

1966年9月3日、ショーン・コネリーが極真会館本部道場に来訪し、演武会が行われました。左端はマス大山。
この姫路城の撮影に参加していた極真会館の猛者たちが、撮影の合間にも熱心に稽古している姿を見てショーン・コネリーはとても興味を持ちました。そして1966年9月3日に、極真会館本部道場を訪れることになりました。
ちなみにこの姫路城の撮影の中、手裏剣が城壁に当たったりしたため、撮影隊は、姫路城から追い出されることになりました。
ジェームズ・ボンドのファッション5
ピンクシャツ
- ターンブル&アッサー、ピンク・リネンシャツ。スプレッドカラー、カクテルカフス
- グレーのトロピカルウール・トラウザー
- ブラウン・レザーサンダル

身長比較。丹波哲郎175cm。若林映子163cm。ショーン・コネリー188㎝。

日本刀に魅了されるショーン・コネリー。

初代ボンド時代のボンドムービーに出演した丹波哲郎は間違いなく偉大だ!
コネリー=ボンドが唯一タキシードを着なかった作品

東京ヒルトン・ホテル『紅真珠の間』での記者会見(二人のボンドガールと共に)。来日したビートルズも宿泊したホテル。

新宿にあるヒルトン東京(1984年開業)の前進であり、現在のザ・キャピトルホテル東急の赤坂に東京ヒルトンはあった。

記者会見において、カツラを外し、ラフなファッションで現れたコネリーの姿は、当時、賛否両論を生み出しました。このシャツこそ、上のピンクシャツです。
本作においてジェームズ・ボンドは全く車を運転しません(その代わり、リトル・ネリーというオート・ジャイロを操縦する)。そして、ボンドがタキシードを着ない二作品(『007 死ぬのは奴らだ』)のうちの一つとなりました。

宇宙飛行士のヘルメットをかぶるJB。

タキシードではなく、宇宙服を着るジェームズ・ボンド。

今となっては伝説の忍者ルック。

男同士の友情を感じさせる胸アツな写真。

ブロフェルドに逃げられるボンド。
この作品の唯一最大の欠点は、忍者部隊の衣装のカッコ悪さと、スペクターの秘密基地における最後の戦闘シーンのボンド・ファッションの地味さです。グレイのニットシャツとグレイのトラウザー、そして、グレイの忍者マスクをつけるボンドの姿は、間違いなくボンドムービー史上不動のワーストコスチュームでした。
この作品で、ボンドの存在はニ度死んでいます。一度目はどうしようもない日本人の変装(美川憲一のような)とそれに付随する漁師ファッション、そして、二度目はこのファッションによってです。
作品データ
作品名:007は二度死ぬ You Only Live Twice(1967)
監督:ルイス・ギルバート
衣装:アイリーン・サリバン
出演者:ショーン・コネリー/若林映子/浜美枝/丹波哲郎/カリン・ドール/ドナルド・プレザンス
- 【007は二度死ぬ】ジェームズ・ボンド日本上陸
- 『007は二度死ぬ』Vol.1|日本に来たジェームズ・ボンド=ショーン・コネリー
- 『007は二度死ぬ』Vol.2|ショーン・コネリーとトヨタと姫路城
- 『007は二度死ぬ』Vol.3|丹波哲郎とドナルド・プレザンス
- 『007は二度死ぬ』Vol.4|若林映子・日本人ボンドガール第一号
- 『007は二度死ぬ』Vol.5|いつか三大怪獣がやって来そうな若林映子様
- 『007は二度死ぬ』Vol.6|若林映子と「60年代のスウィンギング・ニッポン」
- 『007は二度死ぬ』Vol.7|浜美枝・もう一人の日本人ボンドガール第一号
- 『007は二度死ぬ』Vol.8|竹取姫のような浜美枝様
- 『007は二度死ぬ』Vol.9|カリン・ドール、第三のボンドガール
- 『007は二度死ぬ』Vol.10|ナンシー・シナトラの神曲
