「汚れた顔の天使」と呼ばれる販売員
大都会の百貨店の中に入る、あるラグジュアリー・ブランドの販売員の一人は、「汚れた顔の天使」と呼ばれており、生きる伝説となっています。
彼女は、ホテル業界において、東京の新橋にあるラグジュアリー・ホテルにいる「ジョジョ」と呼ばれる伝説の接客係並みに、知る人ぞ知る業界屈指の実力者です。
彼女の最大の武器は、エンジェルズと呼ばれる諜報部員達から収集した情報です。
エンジェルズとは、彼女が主催している女子会のメンバー達の通称です。
このメンバーは、厳密に、大手百貨店のベテランBAのみで構成されており、詳細は省きますが、様々な利権により、集まっています。
例えば銀座の老舗百貨店のコスメカウンターに座っていれば、現在のラグジュアリー・ブランドのトレンドを見て取ることが出来ます。そこはある意味、ラグジュアリー・ブランドの店舗内では、感じ取ることの出来ないファッション全体の流れを見ることが出来る最前線なのです。そんな場所に目をつけたのが、「汚れた顔の天使」と呼ばれる女性だったのです。
ちなみに「汚れた顔の天使」とこの販売員が呼ばれる理由は、外見は、とてつもない美女であり、コスメカンターに立てば、誰よりも売れそうなその完璧なルックスの裏返しとしてこの名が、囁かれるようになったのでした。
彼女は、その人当たりのよさで、瞬く間に、大都市の百貨店のベテランBA達とのネットワークを作り上げ、ランチや女子会を開き、情報交換するようになりました。
一方、BA達にとっても、「天使」から得られるラグジュアリー・ファッションに対する知識は、接客に非常に有利になり、いわば持ちつ持たれつの共犯関係を築くことが出来るのです。
毎月行われるこの女子会によって、「汚れた顔の天使」は、ファッションのトレンドの趨勢を知り、更には、美容・コスメの最先端を知り、接客の会話に取り入れ、エンジェルズ達も、コスメ販売の接客の合間にお客様のファッションを褒める能力を高め、その販売力を強化するに至ったのでした。
「天使」は知っています。どのブランドの何が売れているのか?ということを知ることは、売れる販売員にとって、何よりも重要な情報であり、お客様の表面的な氷をブレークするポイントだということを・・・
第六条 トレンドという言葉を使い分ける!
トレンドという言葉を、売れる販売員は、使い分けています。
つまり、ファッションに詳しくなく、ただラグジュアリー・ブランドに興味のあるお客様には、「今〇〇がトレンドですから」と言い、一方で、ファッションに詳しいお客様には、決してトレンドという言葉を口に出さないのです。
ファッション感度の高いお客様は、トレンドという名の陳腐な流行志向には全く興味がないか、もしくは、興味があれば向こうからその商品を手に取ってくるわけなのです。
トレンドという言葉を連発する売れない販売員に共通しているのは、トレンドに敏感そうに見えないその外見にあります。
そして、本当にオシャレな販売員からは、トレンドという言葉など聞かなくても、向こうから「これは流行っているのでしょうか?」と聞いてくるものなのです。そして、その時はこう答えれば良いだけなのです。「流石ですね。オシャレなお客様はこれに興味を持ちます」と。
もうひとつ、トレンドと同じくらいに売れない販売員が使う言葉として、
「これなら他のお客様とかぶりません」
という常套文句があります。しかし、ラグジュアリー・ブランドにおいて、ファスト・ファッション的なかぶるかぶらないの世界観を持ち出していることは、愚の骨頂以外の何者でもありません。