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カイエデモード香水図鑑より感謝申し上げます|2025年8月23日

2025年8月21日~22日終日に渡りご寄付を募らせて頂きました。日本の香水文化を豊かにしていくお手伝いを微力ながらしていきたいというカイエデモードの活動に対し、多くの方々の賛同を頂き、心より感謝申し上げます。併せて改めて、今までご支援頂いている皆様にも、この場にて感謝申し上げます。

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【ロリータ レンピカ】ロリータ レンピカ(アニック・メナード)

ロリータ・レンピカ
©Lolita Lempicka
ロリータ・レンピカ
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ロリータ レンピカ

原名:Lolita Lempicka
種類:オード・パルファム
ブランド:ロリータ レンピカ
調香師:アニック・メナード
発表年:1997年
対象性別:女性
価格:20ml/3,400円、30ml/4,900円

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『ロリータ・レンピカ』誕生

ロリータ・レンピカ ©Lolita Lempicka

ロリータ レンピカ」という実に印象的な香りの名前は、そのブランドの名であり、創業者でもある女性デザイナーの名でもあります。本名ジョジアンヌ・マリーズ・ピヴィダは、1954年にフランスのボルドーに生まれました。

裁縫師として働く母親の仕事を尊敬していたジョジアンヌは、6歳の頃からバービー人形のための服を自前で作るようになりました。彼女は少女時代から、プリンセスや、シャルル・ペローの童話、豪華なドレスで溢れるファンタジーの国に魅了されていました。

そして10代にして自分自身の服を仕立てるようになりました。やがて17歳で、ステュディオ・ベルソーに入学し、ファッション・デザインを学ぶことになります。

ジョジアンヌは、最初のブティック「ノスタルジア」をオープンし、厳選されたヴィンテージ・ファッションの商品と共に、自身の作品もいくつか販売するようになりました。かくして彼女はヴィンテージとレトロシックの先駆者となり、瞬く間に成功を収めました。

ツタの葉は、ファッション・デザイナーになった彼女のトレードマークとなりました。それは幼少期からの彼女自身の童話と自然に対する並外れた愛情から生み出されたものでした。

史上最高にクールで美しい女流画家タマラ・ド・レンピッカ(1895-1980)。マドンナも彼女から影響を受けた。

タマラの傑作のひとつ『緑の服の女』(1927年)。

1983年に29歳でブランドを創立したジョジアンヌは、そのブランド名を、ウラジーミル・ナボコフの小説『ロリータ』と、アール・デコの女流画家タマラ・ド・レンピッカから拝借し、ロリータ・レンピカとしました。このネーミングの中に、彼女のファッション・スタイルの全てが凝縮されているのです。

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女性の中に潜む、少女性と魔性の共犯関係を生み出すブランド

ロリータと3人の娘(左の二人は双子)は全員ファミリービジネスに協力しています。2011年。©Lolita Lempicka

1984年に、ロリータ・レンピカは、パリのマレ地区にブランドの旗艦店をオープンしました。さらに同年東京でファッション・ショーを行います。そして翌年、パリコレにおける初めてのファッションショーを開催しました。

レンピカは、1987年から90年にかけてキャシャレルのアーティスティック・ディレクターも兼任することになり、1987年よりオンワード樫山とパートナー契約も締結し、ブランディングは波に乗ることになりました。

1996年、カジュアルで手頃な価格の新しいファッションライン、LSD(ロリータ・スタジオ・デザイン)を立ち上げました。同年、長女のエリザが加わり、新しいコレクションのデザインに積極的に協力することになりました。

そして1997年には、ブランドのファースト・フレグランスとして、レンピカの幼少期のおとぎ話にインスパイアされた香り「ロリータ レンピカ」が、韓国の化粧品メーカーであるアモーレパシフィックと提携し(2017年まで)、発売されました。

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そして、1997年にブランド初のフレグランスが誕生した!

©Lolita Lempicka

ロリータ・レンピカが愛する童話の世界観と、少女が女性へと変貌する瞬間、そして新たなる欲望の目覚めと周りを誘惑する力を知る〝魔の刻〟を反映させたフレグランスを創造すべく生み出されたのが、この「ロリータ レンピカ」(通称「ル プルミエ パルファム」)です。

それは童話の世界の中に迷い込んだ、子供でもなく大人でもない女性に戻るためのエリクサーとして、アニック・メナードにより調香されました。

アラン・ド・モルグによるボトル・デザインも秀逸で、青紫色のリンゴです。そしてそのリンゴには、トレードマークである黄金のツタが巻きつけられています。さらにリンゴのヘタの部分のゴールドキャップはカンゾウの木をイメージしています。

ちなみにリンゴをボトル・デザインにしたフレグランスと言えば、今ではニナ・リッチの「ニナ」が有名なのですが、その元祖とも言えるのがディオールの「プワゾン」です。

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痛みの後に、快楽を感じるような〝初体験〟の香り

©Lolita Lempicka


あらゆる女性の中に眠る〝少女〟と、あらゆる少女が〝大人の女性の官能性〟を手にする瞬間を、ひとつのボトルに封印したこの香りは、リンゴのボトルから解き放たれた瞬間、ベルガモットのようでレモンのようなシトラスと青くて苦いツタの葉の星々の輝きが、まるで魔法の杖の一振りのように広がってゆきます。

すぐにアニスのすーっとした意外な甘さと共に、トンカビーン、バニラ、プラリネの薄靄が立ち上ってゆきます。そしてグルマンの世界の到来を告げるように、とろけるリコリス(スペインカンゾウの根とアニスオイルで味付けされたグミのような食感を持つお菓子)が少女のグルマンな〝しつこい甘さ〟で包み込んでゆきます。

そこに酸味の効いたジューシーな完熟チェリーが、少女が大切な何かを失うような〝突き刺すような赤い香り〟と、ヴァイオレットとアイリスが、コスメティックな大人のパウダリーな〝洗練された甘やかさ〟を、ミルフィーユのように重ね合わせ、素肌に広がらせてゆきます。

やがて(「エンジェル」でも使用された)パチョリとムスク、ベチバーが、チョコレートとミルクとスモーキーなお香が混じり合った柔らかいヴェールのように、オリエンタルグルマンとコスメティックパウダリーな香りが織り成すミルフィーユに、絶妙に溶け合いひとまとめにしてゆきます。

徹頭徹尾、現実感を感じさせない香りでありながら、甘々の少女っぽい香りに転ばずに、時間に支配されない禁断の果実が素肌にとろけて匂い立つような、不思議な甘さと苦みが交錯するめくるめく神秘の世界へと導いてゆきます。

シロップのようなとろりと毒々しい液体を感じさせるにもかかわらず、なぜか軽やかにミルキーな甘さが全身を心地よく満たしてくれます。

アニック・メナード様が最後に心掛けていた事、それはこの香りをはじめて身に纏った時、痛みの後に、快楽を感じるような〝初体験〟の香りを生み出すことでした。男性にはない、女性の感覚をすべて詰め込んだ香りです。

まさに、〝食べたいけど、決して食べてはいけない〟という、グルマンの新しい定義を、一般化させた鮮やかな色彩ではなく、毒々しい色彩を想起させる〝食べると危険な女を生み出す甘い香り〟の元祖です。

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アニック・メナードは調香師ではなく魔法使いだ!

©Lolita Lempicka

アニック・メナード様はこの香りによって、完全に、調香師の次元を飛び越え、魔女になったと言えます。彼女の香りは、どうやら研究所で作られるのではなく、森の奥深くに、ひっそりと佇む、ツタが生い茂る小屋の中で、大釜の中で作られているようです。

つまりこの液体の甘い香りに惹きつけられた女子達は、やがて、その甘さではない部分の虜になってしまうのです。まさに恐るべき香りです。

このようにして、少女は、魔女の甘い毒の罠に絡めとられていくのです。この不思議な液体の味を知ってしまうと、もう純粋なリンゴの味では満足できなくなるのです(つまりは無垢ではない少女が、無垢を装うための禁断のリンゴでもある)。

この香りは、女性のみが理解できる香りと言えます。そこには、Y染色体を持たないものにのみ伝達される何物かが存在するのです。それはラストに登場するムスクとバニラが絡み合ったお母さんの母乳のような優しい香りによって証明されているとも言えます(スターアニスが含まれているのも勿論その一因です)。

しかし、何よりも、アニック・メナード様がすごい(恐ろしい?)のは、1992年の「エンジェル」により大流行したグルマン・フィーバーの中で、ほとんど全てのグルマンの香りが、エチルマルトールを使用していたにも関わらず、彼女はこの有機化合物を一切使わずにグルマンを作り上げたところにあります。

かくして、この香りは史上初めてリコリス(そして、アニス)を主役にしたフレグランスになったのでした。

ちなみに香水のアカデミー賞と呼ばれるFiFi賞において、1998年に、フレグランス・オブ・ザ・イヤーの女性用ヨーロッパ部門(後にこの部門はなくなる)と、1999年にフレグランス・オブ・ザ・イヤーのラグジュアリー女性部門において、二年連続受賞しています。

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2010年以降、4回リニューアルされました。

©Lolita Lempicka

©Lolita Lempicka

©Lolita Lempicka

2010年にこの香りは廃盤になり、同年に「ロリータ レンピカ ル プルミエ パルファム」の名で発売されました。そして2012年にエル・ファニングにより、新たなるキャンペーン・フィルムが撮影されました。

さらに2017年に「モン プルミエ パルファム」、2020年に「オリジナル」、2021年に「ル パルファム」 と合計四回のリニューアルを重ね、今に至ります。

タニア・サンチェスは『世界香水ガイド』で、「ロリータ レンピカ」を「ハーバル〝エンジェル〟」と呼び、「ティエリー・ミュグレーの「エンジェル」をもとにした多くの香水を試してみて最初に思うことは、いつも「こんにちは、エンジェル」。今回は違う。調香師アニック・メナードは独自の香りの変化を発見した」

「エンジェルは、声高に叫ぶジャスミンやマンゴー、クロスグリのフルーツ様フローラルのアコードを、若干のいかがわしさとパチョリを軸に据えた男性的な甘いウッディ調が支えている。それはまるでハスキーボイスで誘惑されているかのようだ。ポスト・エンジェルがひしめく中、最高との呼び声高いロリータレンピカは甘いウッディ調が長く継続し、爽やかなアニスのメロディを奏でる。辛口のリコリスに始まり、グリーンの変化に応じて転調する。ライムソーダ水のような清涼感。恋人との粋な会話を楽しむにはもってこいの伴奏だ。しかも同じメナード作でブルガリの「ブラック」のように、知的な男性が手軽に身につけられる女性用の香水だ」

「以前、地下鉄に乗り込んだとき、ロリータレンピカの香りがする魅力的な若い男性が降りてきた。それが彼女の香水なら、ぴたりといい当てることができるくらい気のきいた男性であってほしい。おまけは可愛いボトル」と5つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:ロリータ レンピカ
原名:Lolita Lempicka
種類:オード・パルファム
ブランド:ロリータ レンピカ
調香師:アニック・メナード
発表年:1997年
対象性別:女性
価格:20ml/3,400円、30ml/4,900円


トップノート:ヴァイオレット、アイビー、スターアニス
ミドルノート:アイリス、アマリリス、リコリス、チェリー
ラストノート:トンカビーン、バニラ、ベチバー、ホワイトムスク、プラリネ