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作品データ
作品名:エヴァの匂い Eva (1962)
監督:ジョセフ・ロージー
衣装:ピエール・カルダン
出演者:ジャンヌ・モロー/スタンリー・ベイカー/ヴィルナ・リージ
ピエール・カルダンを着たジャンヌ・モロー
オードリー・ヘプバーンとユベール・ド・ジバンシィの兄と妹のような生涯にわたる関係や、カトリーヌ・ドヌーヴとイヴ・サンローランのようなアイコニックな関係とはまた違った映画女優とファッション・デザイナーの関係として有名なのが、ジャンヌ・モローとピエール・カルダンの関係です。この二人の関係は、情熱的な恋愛関係でした。そして、この関係を境に、ピエール・カルダンのイマジネーションは、芸術性の領域へと飛躍したのでした。
彼女は私のインスピレーションの源であり、私は彼女を愛していました。当時は天井の低いサロンでショーを行っており、背の高いモデルは流行りではなかったのです。ジャンヌはウエストがとても細く小柄でした。でも、彼女は私にとって単なるモデルという存在では決してありませんでした。
ピエール・カルダン
ジャンヌ・モローは、当初本作の衣装をココ・シャネルに依頼しました(ジャンヌ・モローは、ピエール・カルダンに出会うまでシャネルだけを着ていた)。しかし、シャネルの年齢的な問題もあり、ピエールを紹介されたのでした。二人の出会いはココ・シャネルによって生まれた出会いからでした。ちょうど1960年にジャンヌ・モローは、『雨のしのび逢い』でカンヌ映画祭最優秀女優賞を獲得しており、脂が乗り切った時期の出会いでした。
私が店に戻ると、あのジャンヌ・モローがコレクションを見てくれていると言うではないですか。私はルイ・マル監督の映画『恋人たち』が大好きでした。でも、彼女を実際に目の前にすると、想像していたより、もっと美しくて、感受性に富んで知的な女性でした。その場ですっかり私は彼女の個性に惹かれてしまったのです。
彼女には今までの豊満な、あるいは洗練された高嶺の花といったようなものだけでない、他の女優たちにはない、なにか別のスタイルがあったのです。彼女の存在はたちまち私の胸を撃ち、掻き乱してしまったのです。
ピエール・カルダン
「彼女のことを美しいとは思わなかった。それ以上はるかに危険だったのである。」バルドー
エヴァ・ルック1 コクーンケープ・ルック
- 当時の典型的なパリジャン・スタイル
- コクーンシルエットのハウンドトゥース・ケープ
- ファーハット
- ダークトーンのセットアップ
- ヒールあるショートブーツ
私はジャンヌはシンプルだが洗練されており、情熱的だがしたたかで、魅惑的だが、恐ろしいと思った。つまり、考えていたとおりの、すばらしく人を魅了するとともに、鍛え抜かれた鋼のような性格をうまく隠すことができない女性と出会ったのである。彼女のことを美しいとは思わなかった。それ以上はるかに危険だったのである。私たちは二人の小娘のようにたがいの腰に手をまわして、いっしょに歌うことになっているシャンソンの練習をした。私の声は詰まり、彼女の声はのびやかに広がった。彼女は私に優しく微笑みかけた。そして、その時に私はすべてを理解できた。男たちが彼女に夢中になるわけがわかった。
ブリジット・バルドー自伝より
ジャンヌ・モローがエヴァを演じた訳ではなく、彼女の中のエヴァを覚醒させたのでしょう。ジャン・コクトーは、1955年に自身の作品である舞台劇『地獄の機械』でジャンヌが主演を演じた時に、「彼女こそ私の永遠のスフィンクスだ」と絶賛し、彼女に本作の原作であり、ジェイムズ・ハドリー・チェイスが1945年に出版した「悪女イブ」を渡し、「いつかキミが映画スターになったら、この役を演じてみてください」と言ったのでした。その日以降、イブ役(本作ではエヴァの名)を演じることがジャンヌの念願になりました。やがてカンヌを受賞し、大女優の階段を上る作品として彼女は本作を選び、その監督にジャン=リュック・ゴダールを希望しました(製作側の反対により実現せず)。
エヴァという女性の本質は、ブリジット・バルドーが言ったこの言葉にヒントがあるのではないでしょうか。「女には二種類あると思うの。女の弱点をすべて持ち合わせた女らしい女と、自由で自然で男みたいな性格の女。私もジャンヌも後のほうのタイプよ」。
オープニングはこうです。窓の曇りをぬぐう手から始まります。そして、醜く老いを迎えつつある女性の顔が映し出されます。なぜ隣にいる男性が彼女をうっとりと、絶世の美女にでも見とれているかのように見つめているのか、不思議に思わせるオープニングです。ジャンヌ・モローと自分の違いを述べよと1965年『ビバ!マリア』撮影時に、質問されたバルドーはこう答えました。「ジャンヌは女優、私は一世を風靡する現象よ」と。一方、同じ質問に対してジャンヌは「ブリジットはチャンピオン、私はチャレンジャー」と言いました。黙っていてもちやほやされる美女と、そうではない女性の生き様の違いです。