フュムリ テュルク(トルコの煙)
原名:Fumerie Turque
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2003年
対象性別:ユニセックス
価格:日本未発売(75ml/€260)

トプカピ宮殿から漂う、阿片のような水タバコの香り

©Serge Lutens



『アルジェの女たち』ウジェーヌ・ドラクロワ、1834年
トプカプ宮殿のハーレムの奥深くにひっそりと隠されていた、ムラト4世の寵愛を受ける娼婦たちは、長く彫刻されたパイプをくゆらせ、煙の渦をくゆらせながら時を過ごす。最も幻想的な煙を紡ぎ出す忍耐の競い合いは、彼女たちの運命を暗示しているのかもしれない。柔らかなタバコの香りと、陶酔をもたらすアヘンの芳醇な香りが混ざり合い、あなたをイスタンブールの偉大なる君主のハーレムへと誘う。
「Smoking can kill you.」
セルジュ・ルタンス公式サイトより
2003年にセルジュ・ルタンスより発売された「フュムリ テュルク」は、フランス語で「トルコの阿片喫煙所」を意味します。
17世紀に煙草と酒とコーヒーを禁止したオスマン帝国の第17代皇帝ムラト4世(バグダッドを奪還した王)が、実は、イスタンブールのトプカピ宮殿のハーレムに、隠しフュエリ(阿片やハシッシを喫煙する特別室)を持っていてハーレムの美女達と長いパイプをくゆらしているというテーマで創られた香りです。
その行為を禁じた者自身が、その行為の虜になっていく過程を、スモーキーな香りを通して、否、スモーキーではなくスモーク(紫煙)そのものの香りを通して、その中から魔法のランプの召使のように出でる、蜂蜜やレザー、フローラル、そして、ラム酒により魅了されていく香りです。
とても荘厳なオリエンタルの香りで、まるで「シェルギイ」の最終形態のようです。
男性と女性の境界線を紫煙がよろめくように行きつ戻りつするこの香りの調香は、オスマン・ルタンス帝国皇帝御用達の調香師クリストファー・シェルドレイクにより行われました。
2018年11月からは、限られた店舗でのみ販売されていたプレミアムコレクション「グラットシエル コレクション」に組み込まれ、現在は、パレ・ロワイヤル本店だけで取り扱われている「レフラコンドターブル」コレクションのひとつとなっています。
60年代に撮影された『トプカピ』(1964)という、トプカピ宮殿に陳列されているスルターンの剣を強盗するルパン三世に影響を与えたようなお洒落な映画の世界にタイムスリップするような香りとも言えます。
「最高の香料は、背徳である」


「最高の香料は、背徳である」という考えのもとに、『美徳のよろめき』で三島由紀夫が節子に愛用させていたジャン・パトゥのジョイを、スモークさせ覚醒させた香りとも言えます。
露骨に背徳感を感じさせない香りだからこそ、その奥深くに潜む背徳の罠に引っかかるともう決して抜け出すことはできない、そんな香り。そして、極めつけは、ルタンスからのこの香りに対するワンセンテンスです。「Smoking can kill you」。これがすべてを物語る。
さあ、紫煙に殺されましょう。21世紀のタバコ香水の流行の扉を少し開いたと言えるこの香りは、三種類のスモーキーさからはじまります。スエードレザーと黄金のハニー(苦みと酸味の効いた高濃度なフェニル酢酸)とタバコのそれぞれのスモークがパチョリと溶け合うようにして、懐古的な美しい埃っぽさと共に香りを勢いよく立ち上らせていくのです。
とても素晴らしいのは、スモークの奥に、レッドベリーとジュニパーベリーなどが混ざり合ったような、ウォッカーに浸された繊細なフルーティーさが感じられるところです。それがどこかトルコのフルーツフレーバーの水タバコを感じさせる要因となります。
すぐにバラの花びらがしずかに散ります。そしてスモークがその花びらを巻き上げてゆきます。そうして紫煙の中にうっとりするようなバラの香りがジャミーに溶け込んでゆきます。流れる水のようなカモミールとラプサンスーチョンのティーブレンドも加わり、より滑らかにバラの花びらの舞を素肌で受け止めてゆくようです。
やがて焦げたキャラメルのようなアンバーとトンカビーンが注ぎ込まれ芳醇なラム酒がすべてを浸し、スエードレザーは酔わされ、バニラに柔らかく鞣され、甘く荒々しくアニマリックに蘇生してゆきます。一方でハニーとタバコもひとまとめになりうっとりするような酒とバラとハニータバコの三重奏で満たしてくれます。
最後に強く感じることが出来る、甘く乾燥したタバコの余韻が、この香りの名が「トルコの阿片喫煙所」であることを思い出させてくれます。濃厚な甘さの中にも、絶えず苦みが感じられる、とてもドライで温かみのある香りが漂い、それはまさに耽溺するように素肌に馴染んでいく〝魔の刻へとみちびく紫煙〟。
身体の相性が良いパートナーとの交わりのような官能的な安らぎと中毒性を生み出してくれる香り、それだけでなく、抗うことの出来ない悪魔の誘惑の香り。まるであなたの心の隙間に忍び込むチャンスを狙いずっとあなたを狙い続けている獣の香り。ハニータバコの中に潜む獣の気配にいつか身を委ねたくなりそうです。
タニア・サンチェスは『世界香水ガイド』で、「キュイール ドゥ ルシーのずっとゆくえ知れずだった従兄弟みたいな顔。フローラルオリエンタルをスモークとレザーのノートで飾りたてている」「冴えないウッディ調のフローラルに近い香りがする。タッチはまさに焚き火」と3つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:フュムリテュルク(トルコの煙)
原名:Fumerie Turque
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2003年
対象性別:ユニセックス
価格:日本未発売(75ml/€260)


トップノート:レッドカラント
ミドルノート:蜂蜜、ジュニパーベリー、トンカビーン、カモミール、ターキッシュローズ
ラストノート:バルカンタバコ、スティラックス、スエード、パチョリ、バニラ

