本物のボニー・パーカーについて
ボニー・ルックとは、フェイ・ダナウェイ(1941-)が演じたボニーという役柄から名付けられたものです。それは恐らく実在した犯罪者の名前を冠した唯一の「ルック」の名称であり、現存するボニー・パーカー(1910-1934)の写真を見ていても、ボニー自身が、このタイムレスなモードのアイコンであることを示してくれています。
ボニー・ルックとは、過去のファッションに生命力を与える喜びです。そして、ストリート・ファッションの一つの源流とも言えます。放浪する小悪党の一人にすぎなかったボニー・パーカーという女性が1930年代前半に残した数十枚の白黒写真が、21世紀にも尚、鮮明なまでの輝きを放ち、ファッションに新しい言語を語らせる。これがファッションの恐ろしさであり、素晴らしさなのです。ファッションには善悪はないのです。
ベレー帽を被り、恋人と犯罪を重ね、最後は、蜂の巣にされ死んでいったボニー・パーカーの生涯について軽く振り返っていきましょう。
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ベレー帽+くわえ煙草+拳銃を持つ、最新モードに身を包んだこの写真は、ファッション史上初のファッション写真だったのかもしれない。1933年。
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ボニー・パーカーは150cmちょっとの小柄な女性でした。
明日なき時代に、〝反逆と滅びの美学〟を貫いた二人。
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常に、最新モードで写真に納まる20代前半のテキサス出身の二人。
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ボニー・パーカーとクライド・バロウの最も有名な写真。
ボニー・パーカー(Bonnie Elizabeth Parker)は、1910年10月1日にテキサス州ローウェナに3人兄妹の2番目として生まれました。1914年に煉瓦職人の父が僅か30歳で死去し、母の生家があるダラス西部のセメントシティに転居しました。
優等生で女優になることが夢だった少女は、高校2年の時、同級生のロイと交際するようになりました。この交際が彼女の転落のはじまりでした。
そして、16歳の誕生日の6日前に2人は結婚しました。しかしロイは1929年に強盗で5年の実刑判決を受け、ボニーは母のもとに戻り、ダラスでウェイトレスとして働くようになりました(ロイは1937年に刑務所から脱獄しようとして殺された)。
1930年1月5日、19歳になっていたボニーは20歳のクライド・バロウ(1909-1934)と出会い恋に落ちます。しかし、数週間後にクライドは、自動車窃盗で有罪判決を受け、イーストハム刑務所農場に送られます。ところがクライドは、ボニーの手引きにより脱獄に成功します。
あっさりと再逮捕され、14年の刑で刑務所に戻されたクライドは、別の囚人から性的暴行を受け、その後、報復としてパイプで殴り頭蓋骨を砕いて殺害し、はじめての殺人を犯しました。
そして1932年2月に釈放され、ボニーと共に犯罪行為に明け暮れることになるのでした。最終的に2人は、9人の警官と4人の一般市民を殺害し、1934年5月23日にルイジアナ州で警官隊によって130発以上もの銃弾を受け、射殺されたのでした。
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二人の永遠の愛の証を残すことに成功したボニーとクライド。
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真面目に生きていたら絶対に乗れない高級車の前でポーズを取るボニー。
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犯罪で得た大金で、最先端モードに身を固めるボニー。
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彼女は、太く短い人生を選んだのでした。夢はブロードウェイの女優になることでした。
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1934年5月23日、ボニーとクライドは、ルイジアナ州で蜂の巣にされました。
もうひとりのヒロイン、ブランチ・バロウ
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映画の中で、エステル・パーソンズが演じていた、クライドの兄嫁ブランチ・バロウの実物の写真。おしゃれな美人です。1930年。
どんなに深刻で危険な状況であっても、私とボニーはいつも笑い話を見つけた。泣くより笑ったほうがいいに決まっている。泣かないためには笑うしかなかった。
ブランチ・バロウ
「ボニーとクライド」には、もう一組のカップルが存在します。それはクライド・バロウの兄バック・バロウ(1903-1933)とその妻ブランチ・バロウ(1911-1988)でした。バックの出所後、ボニーとクライドと合流し、4ヵ月後の7月24日には、警官隊との銃撃戦によりバックは死に、ブランチは片目を失ったのでした。そして彼女は6年間刑務所で過ごしました。
出所後、再婚し、本作のためにアドバイザーとして協力しました。彼女を演じたエステル・パーソンズはアカデミー助演女優賞を獲得したのですが、ブランチ本人は自分の描写を嫌っていました(ウォーレン・ベイティが直接会って見せてくれた脚本を、監督のアーサー・ペンはほとんど変えてしまっていました)。
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本作が公開された時ブランチは生きていました。そして、彼女は、ウォーレン・ベイティと親交を持ちました。
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逮捕された瞬間のブランチ。
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片目を失い、逮捕されたブランチ。
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ブランチのマグショット。
ボニー・パーカーのファッション7
サイケデリック・ブラウス
- 白地に赤×ネイビーのサイケデリック・プリントのブラウス
- ブラックミディスカート
- 黒のパンティストッキング
- バイカラーのレースアップのフラットシューズ
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小花柄なのでしょうか?どこか60年代ヒッピーテイストです。
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捕獲した保安官と記念写真を撮る二人。
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ほんのB級ムービーの予定が、映画史に残る名作になったのです。
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実に30年代ぽくない派手な柄のVネック・ブラウス。
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足元にはバイカラーのレースアップのフラットシューズ。
フェイ・ダナウェイはスラックスを希望した。
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かなりおしゃれな主要人物5人のファッション。特に右端のマイケル・J・ポラードのスタイルはタイムレスです。
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低予算のため自分でヘアメイクを直すフェイ・ダナウェイ。
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ジャケットを脱いだフェイ・ダナウェイ。
ウォーレン・ベイティが、白黒で作ろうとしていた本作を、カラーにしたことが、ファッション業界に革命を起こすことになりました。それまでは、白黒映画において、ファッション界に映画が影響を与えることはそれほど強くありませんでした。
しかし、1930年代というカラーではほとんど残らない過去をカラーで再現することにより、映画はファッション・シーンに対する伝道師の役割を担うことになったのでした。そして、その年、フランスではカトリーヌ・ドヌーヴによる『昼顔』が公開され、イヴ・サンローランの60年代がスタートするのでした。
コスチューム・デザイナーのセオドア・ヴァン・ランクルは、フェイ・ダナウェイの170㎝という長身を考え、フラットシューズを履かせることにしました。一方、フェイは、逃走する為に車を乗り降りすることを考えると、ボニーはスラックスを履くべきだと主張しましたが、セオドアは、ベレー帽には、スラックスは似合わないと、ミディスカートをチョイスしました。
こうしてボニー・ルックが誕生しました。それは過去の白黒で記録されるファッションを色付きで再現し、蘇えさせる「レトロ・ルック」という概念の始まりでもありました。
ボニー・パーカーのファッション8
スカートスーツ×ベレー帽
- クリーム地に黒×赤のウインドウペンのノーフォークジャケット。ベルト付きのダブル
- ブラックベレー
- 黒のVゾーンシルクカットソー
- 黒のローファー、ボウ付き
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男女3人がフォーマルなスタイルで銀行強盗をする斬新さ。
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このノーフォークジャケットには、しっかりバックルベルトがついています。
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白土三平のカムイ伝のような風に髪がなびく姿。
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セオドア・ヴァン・ランクルのデザイン画。
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「ボニーとクライド」を最も象徴するフォト。30年代レトロ×60年代モードのミックスが絶妙です。
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1930年代という時代は、娯楽も食事もない時代でした。
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胸の谷間が強調されるVネック。
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全身黒づくめのスーツスタイルもこの後少しだけ登場します。
作品データ
作品名:俺たちに明日はない Bonnie and Clyde(1967)
監督:アーサー・ペン
衣装:セオドア・ヴァン・ランクル
出演者:フェイ・ダナウェイ/ウォーレン・ベイティ/マイケル・J・ポラード/ジーン・ハックマン