犯罪者ボニー・パーカーから生まれたファッション・トレンド
フェイ・ダナウェイ(1941-)扮するボニー・パーカー(1910-1934)にベレー帽を被らせるというアイデアは、コスチューム・デザイナーのセオドア・ヴァン・ランクルのものではありません。それは元々、本物のボニーがベレー帽を愛用していたからでした。
1930年代初め、ジョーン・クロフォードやマレーネ・ディートリッヒが、トム・ボーイ的にベレー帽を愛用しており、彼女はそれに倣ったのでした。
そんなボニーのトレードマークともいえるベレー帽を選ぶために、ランクルは、何千ものベレー帽を世界中から集めました。結果的に、フェイ・ダナウェイが被るベレー帽は、1967年以降、世界的な大流行を生み出したのでした。
それはただベレー帽を被るだけでなく、煙草を吸い、足をだらしなく椅子の上にあげたり、拳銃でポーズを取ったり、自分自身も銃撃戦に参加するという点を含めて、今までの映画には存在しない女性像を象徴するファッション・アイテムとなったのでした。
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ジョーン・クロフォード。1933年。
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ジョーン・クロフォード。1932年。
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マレーネ・ディートリッヒ。1930年代。
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マレーネ・ディートリッヒ。1948年。
フェイ・ダナウェイのアンドロギュヌス性
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煙草をくわえ、クライドのパナマハットをかぶるボニー。ひとつのアイコニック・フォト。この一枚の写真が後世の女性に与えた影響は計り知れない。
大恐慌の時代の空気を出すために、撮影前に、フェイ・ダナウェイは、サラダ以外は食べず、ハードな筋トレとダイエット・ピルを多用し、11Kgの減量を行いました。当初、ボニー・パーカー役には、ウォーレン・ベイティ(1937-)の姉シャーリー・マクレーン、ベイティの当時の恋人レスリー・キャロン、そして、ジェーン・フォンダ、アン・マーグレット、チューズデイ・ウェルド、ナタリー・ウッドにもオファーが出されていました。
結果的には、フェイ・ダナウェイの特徴とも言える頬のこけたトランスセクシャル的な風貌が、ボニー・パーカーの役作りにプラスに働いたことは言うまでもありません。ただ痩せたのではなく、「オープン・ユア・ハート」のマドンナのようなアスリート体型に磨き上げたボディラインだからこそ、ボニーに翼が生えたような躍動感は与えられたのでした。
ボニー・ルックとは、スタイルの良い、170㎝のモデル体型の女性がベレー帽をかぶっているだけのルックではありません。それは男性の中に混じっても、身体能力で劣る部分がない、60年代にしては〝新しいタイプ〟の女性のアンドロギュヌス性を示すルックなのです。
ボニー・パーカーのファッション4
バスルーム・ルック
- クライドのパナマハットと煙草
- ボウがプリントされたペールピンクのネグリジェ
- グレーのツイードのミディスカート(ルック3と同じもの)
- ゴールドコイン・ネックレス
- クリーム色のフラットシューズ(ルック1と同じもの)
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1960年代だからこそ出せた1930年代の味。
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ベレー帽を脱ぎ捨て、パナマハットをかぶるボニー。
レトロ・モードをモノトーンで決める!
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モノトーンでベレー帽をカッコよく決める!
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ジャケットを脱いで、前髪を見せると一気にフェミニンなムードに包まれます。
この作品によって、人々は、常にファッションに対して新しいものを求める姿勢から、ファッションにアンティーク・アイテム=古着、古靴、ベルトなどを取り入れるようになりました。そして、1970年代に、赤富士やサンタモニカといった古着屋が原宿に生まれました。
それが1980年代のヴィンテージ・ブームの流れへと、ファッション・シーンにつながっていくのでした。その流れが、今ではヴィンテージ加工というラグジュアリー・ファッションに必要不可欠なものとして定着しています。
ボニー・パーカーのファッション5
モノトーン・ルック
- ブラックベレー帽
- 黒の2ピースのテーラードスーツ。ストロングショルダー
- Vネックのファゴティングステッチが施されたホワイトシルクブラウス
- 白の細ベルトに拳銃を挟みこむ
- 黒のストッキング
- 黒のフラットシューズ。ボウ付き
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前髪を残さずにかぶったベレー帽と腰の拳銃の見事なバランス。
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『俺たちに明日はない』はハット・ムービーでもある。左から、ニュースボーイ・キャップ、ベレー帽、フェドーラ。
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セオドア・ヴァン・ランクルのデザイン画。
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このシルクブラウスのシルエットがとても美しい。
ボニー・パーカー=フェイ・ダナウェイ
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ボニー・パーカーのアイコニック・フォト。
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実物のボニー・パーカーのフォト。
実際のボニーとクライドのカップルは、クライドが(映画で描かれたように)性的不能という訳ではなく、同性愛者でした。しかし、製作者でもあるウォーレン・ベイティとしては「同性愛者を演じたくない」ということで、役柄は性的不能者に置き換えられました。
本当のクライド・バロウ(1909-1934)は、1930年に〝炎熱地獄〟と呼ばれた悪名高きテキサス州イースタムの刑務所農場に収監され、同房者の大柄の受刑者の性的慰み者として同性愛を教え込まれました。170㎝に満たない小柄なクライドは、最終的には、この男の頭蓋骨をパイプで破壊し、人生ではじめての殺人を犯しました。
この刑務所は、看守による囚人への性的虐待も凄まじく、更に看守自体の人数が少ないので、無法地帯と化していた悪徳の巣窟でした。そして、そんな強烈な日々が、女性に対してクライドをすっかり不能にしてしまいました。
この後クライドは、12年の刑期を短縮させるために、仲間の受刑者に、足の指を斧で切り落としてもらいます。つまりは、この当時の刑務所農場という場所は、性暴力と奴隷のような過酷な肉体労働の渦巻く生き地獄だったのでした。そんな中から、這い出してきた青年が、「次に捕まるんだった死を選ぶ!」という考えと共に、13人もの人々を殺害し、銀行強盗を各地で犯しつつ、大恐慌時代のアメリカ中西部を駆け抜けたのが、この物語なのです。
性的にクライドと結ばれないボニー・パーカーの哀しさは、実際においてもそうであったと想像させるのですが、フェイ・ダナウェイ扮するボニーの役柄に奥行きを与えていました。この作品のボニー・ルックが、60年代の新しいモードとしてもてはやされたのは、ファッションに対して、女優の役柄が見事に共犯関係を成り立たせていたからでした。
ボニー・パーカーのファッション6
マスタード・スカートスーツ
- マスタードカラー(からし色)のテーラード・スーツ
- Vネックのファゴティングステッチが施されたホワイトシルクブラウス(ルック5と同じもの)
- クリーム色のフラットシューズ(ルック1と同じもの)
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マスタードカラーのスカートスーツが少しだけ登場します。
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この作品の面白さは、ただの愛し合うカップルではないボニーとクライドの関係性にあります。
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映画の中で、性的不能者として描かれたクライドは、実際は、同性愛者でした。
作品データ
作品名:俺たちに明日はない Bonnie and Clyde(1967)
監督:アーサー・ペン
衣装:セオドア・ヴァン・ランクル
出演者:フェイ・ダナウェイ/ウォーレン・ベイティ/マイケル・J・ポラード/ジーン・ハックマン