サイズ感によって女性は簡単に醜くなれます。
マーサ・ルック2
- デコルテの目立つジャケット。七分丈
- 黒のキャミソール
- ピチピチ具合が見事に脚の短さを強調している黒のトレアドール・パンツ
- 赤のカッターシューズ
この衣装を着る時に、リズ・テイラーは、ワーナーの責任者であるジャック・ワーナーに、製作経費で8万ドルのルビーのブローチを購入してもらい、それをジャケットにつけたいと駄々をこねました。結局は実現しなかったのですが、とても高価な宝石にマッチするとも思えないそのジャケットとパンツを組み合わせたルックが、本作のマーサを象徴するファッションです。
衣装デザイナーのアイリーン・シャラフは、リズ・テイラーの増量したヒップを更に強調するためにパッドをつけさせ、パンツに何本ものシワが入るように縫製しました。さらにジャケットも2サイズ小さめのものを着用させ、窮屈な胸と寸足らずの袖丈が生まれるようにし、タコ糸で巻かれたボンレスハムのようなボディラインを強調しました。こうして誕生したマーサという女性の、不貞腐れたくわえ煙草に、外股でのしのしと歩くその姿は、『クレオパトラ』のリズとは、まったく別物の〝醜い美魔女〟そのものの姿でした。
リズは、晩年にお気に入りの自分の映画はと聞かれ、『緑園の天使』(1944)と本作をあげました。62年当時、パリ公演のマーサ役をヴィヴィアン・リーにオファーしたが、ブロードウェイ公演を見ていたリーは「芝居が単調すぎる」と断っていました。そんな役柄を33歳のリズが、単調のタの字もでないほどに見事に豊かなものへと昇華させたのでした。
キング・オブ・キングス=リチャード・バートン。
ジョージ・ルック
- 白のボタンダウン・シャツ
- ポルカドット入りの黒のネクタイ
- グレーのカーディガン
- チャコールのスラックス
- レザーシューズ
彼女は私の演技からオーバーな部分を削ぎ取ってくれた。私は見え透いた舞台俳優でありすぎた。今でもその気はあるが、私はエリザベスから、たくさんのコツを教わった。エリザベスと初めて一緒に仕事をしたとき、彼女はカメラの前でも生身の人間として演技していた。私はそれを見てこう思った。『彼女は演技ができないのだ。彼女は何もしていない』と。しかし、スクリーンの中の彼女を見て、それが間違っていることを私は理解した。
リチャード・バートン
結婚23年目のマーサ52歳の夫ジョージ46歳を演じるのは、実際に当時、リズ・テイラーの夫だった「60年代世界最高の舞台俳優」の一人だったリチャード・バートン(1925-1984)でした。この役者の本質的な恐ろしさを知るために、長い文章をつらつらと書くよりも、セルフ・パロディ的な役柄を演じた本作の2年後に公開された『キャンディ』(1968)を見るほうがストレートに伝わるでしょう。つまりは全てにおいて磨き上げられた舞台俳優の〝圧倒的なオーラ〟がここにはあるのです(後にWWEのビンス・マクマホンがこのスタイルをプロレスのリング上で昇華させた)。
当初はジャック・レモンでほぼ決まっていたジョージ役に対して、バートン自身は興味がなかった。マーサ役をリズに薦めたのは彼自身だったが、「私はジョージとはかけ離れた人だ」と全く興味がなく、レモンの降板により、リズに説得されようやく重い腰を上げました。撮影中は、気分をあげるために4人でランサーズ・ワインを飲み、特に、バートンは浴びるほどの酒を飲み、本当に酔っ払っている状況で演技に望みました(ただし、撮影中は、誰もお酒を飲んでいない)。
エリザベス・テイラーとマレーネ・ディートリッヒ
マイク・ニコルズによると、マレーネ・ディートリッヒ(1901-1992)がセット訪問したときに、エリザベス・テイラーを完全に無視し、ただマイクとリチャード・バートンとだけ会話をしていました。リズ自身は、「私自身の主演映画のセットにまで来て、無視をするなんて変な人ね」と言っていたのですが、こういった大女優同士の相容れない関係性もまたオールド・ハリウッドの魅力なのでした。
ファッションという分野においても、多大なる影響を与えた二大ファッション・アイコンである二人。その強烈な個性ゆえに相容れない二人。しかし、相容れない個性と自尊心が存在したからこそ、この二人の存在感は、ファッションという分野に21世紀の今も影響を与え続けているのです。