1950年代だからこそ再現できた『尼僧の美学』
『尼僧物語』のオードリー・ヘプバーンが、世界でもっともパリモードを体現する女性から一転し、尼僧として神々しさに満ち溢れていたのは、監督のフレッド・ジンネマンの徹底した世界観作りにより導かれたものでした。
イタリアのチネチッタに、助監督として参加したセルジオ・レオーネに〝ベルギー中の教会を分析して、天才的なセンスで〟修道院と聖堂を再現したとまで言わしめたオープンセットを作らせたのでした。
尼僧を演じる女優たちには、英国を代表する舞台女優エディス・エヴァンス(1888-1976)を修道院長に、『インドへの道』でアカデミー助演女優賞を受賞することになるシェイクスピア劇の名手ペギー・アシュクロフト(1907-1991)をコンゴの修道院長に、30代半ばまで本当に教師だったミルドレッド・ダンノック(1901-1991)を、修道院の学校の校長に配し、物語にリアリズムと格式を与えました。
フランスの修道会の一つが、ついに主要女優それぞれが数日間修道院で過ごし、朝五時半の最初の祈祷から始まる1日の全ての儀式に参加できる許可を出してくれた。
私は私の尼僧たちを、オードリー・ヘプバーンは一つの修道院、エディス・エヴァンスは別の修道院、ペギー・アシュクロフトは三番目の修道院・・・というように別々の修道院にわけて送り込んだ。
彼女らがどうやっているかを見るために、朝の10時に巡回するのだが、暖房の効いたタクシーで到着すると(1月なかばのパリで、冬の寒さが厳しく、修道院はほとんど暖房されていなかった)、彼女らは全員寒さのために見事な紫色になって回廊から出てきたが、自分たちが参加したものに魅せられており、自分たちのキャラクターの準備をするための方法にとても感動していた。
フレッド・ジンネマン
エディス・エヴァンスは「彼女の背中は自分が座っている椅子の背に決して触れなかった」という原作の一行から修道院長のキャラクターを作ったのだ。
フレッド・ジンネマン
映画の中で、主人公が生きているからこそ、彼女のファッションは輝きはじめます。それはどれだけ美しい女優が、忠実に再現された尼僧の服装を着て現れようとも、そこに時代の精神がなければ、服装を着る美しい女優が浮き立ってしまいます。
この作品の中のオードリーが、本物の聖女であるかのように感じるのは、まさに1950年代という時代のみが生み出しえる最後の〝神聖〟さによってなのかもしれません。
聖堂で行われる儀式のシーンにおいて、本物の尼僧が使えないため、ローマ・オペラのバレエ団から20名のダンサーを借り、列を作り、膝まづき、頭を下げ、ひれ伏す動作を、合図に従って一斉に行いました。そして、このときアップで写る尼僧の顔は、エキストラとして参加した王女や伯爵夫人らの気品ある表情に置き換えられました。
現在、ハイテク化された世界において、再現不可能なもの。それはこの作品の中に漂う空気です。
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透き通るような、美しいナチュラルメイク。
シスター・ルックさえもモードにするオードリー。
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オードリーの佇まいの美しさを見て学ぶことが出来る作品。
この作品のオードリーのすごい所は、本物の尼僧のようでありながら、夢のように魅惑的なところにあります。だからこそ、彼女のシスター(尼僧)・ルックは、かなりのモード感にあふれています。
それは、撮影を担当したカメラマンが『ローマの休日』と『ティファニーで朝食を』のフランツ・プラナーだった影響が強く、彼が撮影するオードリーは、まるで夢のようなのです。
衣装デザイナーは『ドン・ファンの冒険』(1948)でアカデミー衣装デザイン賞(カラー部門)を受賞し、『ジャイアンツ』(1956)『リオ・ブラボー』(1959)の衣装デザインも担当したマージョリー・ベストによるものです。
シスター・ルークのファッション3
研修生スタイル
- 同じ修道院学校の制服に黒のショートマント
- 黒のヴェール
- まだロザリオはなし
- 黒の革靴
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アップスタイルは、オードリーの真骨頂です。
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実に美しい眉毛のアーチです。
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撮影の合間にセーターのようなものを着ているオードリー。
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ワードローブ・テストの写真。
シスター・ルークのファッション4
ウエディングドレス
- ピーターパンカラーのホワイトワンピース
- シフォンのロングヴェールに白の花冠
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神との結婚式を営むシーン。両サイドに配置されたクルミボタンが美しい。
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そして、ピーターパンカラーが生み出す可憐さ。
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白の花冠が生み出す清純さ。
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とてもナチュラルな美しさ。
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修道女ファッションに花冠のとても神々しい写真。
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ワードローブ・テストの写真。
パトリシア・ボスワース
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修練中にリタイアする同僚シモーネを演じるパトリシア・ボスワース。
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後にファッション業界に影響を与える人になりました。
パトリシア・ボスワース(1933-)は、本作において、物語初期に非常に印象深い役柄=修道院で研修中に沈黙のルールを破り、オードリーに話しかけてしまう、すごく悲しげな表情が印象的な研修生を演じています。
実生活においてもパトリシアはとても苦労した女性であり、父親は、赤狩りが吹き乱れる1940年代後半にハリウッド・テンを擁護した弁護士バートレイ・クラム(6人の弁護士のうちの一人)です。FBIから目をつけられ、精神的に疲労困憊し、この作品が公開された1959年にバートレイは、セコナールとウイスキーを飲み自殺しました。1953年には、ゲイ問題で最愛の弟が、祖父の銃で自殺しています。
後にダイアン・アーバスの本を書くことになる才女であるパトリシアは、マーロン・ブランドやモンゴメリー・クリフトの自伝も書いており、1960年代には、アクターズ・スタジオでリー・ストラスバーグから共に師事を受けていたジェーン・フォンダとも親交を結びます。そして、1972年から74年にかけて「ハーパーズ バザー」のエディターも勤めました。
シスター・ルークのファッション5
修道女ルック
- 修道女服
- ウィンプル(頭巾)
- 白のヴェール(修行用)
- ロザリオ
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尼僧の美学とは、一言で言うと、白と黒の美学です。
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現実的ではない、コスメと尼僧の関係性が生み出すモードな神聖さ。
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オードリーの目の演技の素晴らしさ。
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ワードローブ・テストの写真。
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ワードローブ・テストの写真その二。
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ワードローブ・テストの写真その三。
マリー・ルイーズ・アベ
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シスター・ルークのモデルになったマリー・ルイーズ・アベと。
私はこれまでのどんなテーマよりもこの映画のテーマに惹かれました。この物語に心から感動して困難な決断をしたシスター・ルークに強い連帯感をもちました。
オードリー・ヘプバーン
マリー・ルイーズ・アベ(1905-1986)は、本作のシスター・ルークのモデルになった人であり、オードリーは彼女の人柄に惹きつけられました。そして、本作の後に撮影された『許されざる者』(1960)の撮影中に、オードリーが落馬して大怪我をした時に、友人として、その看護技術を駆使して彼女の完治の手助けをしました。
30年間の介護経験のなかで、オードリーのような患者は見たことがありません。彼女はお腹の子のために、あらゆる鎮静剤を断り、あれほどの苦痛にもかかわらず、ひとことも泣き言を言いませんでした。
マリー・ルイーズ・アベ
作品データ
作品名:尼僧物語 The Nun’s Story (1959)
監督:フレッド・ジンネマン
衣装:マージョリー・ベスト
出演者:オードリー・ヘプバーン/ピーター・フィンチ/ペギー・アシュクロフト