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クリスチャン・ディオール

【ディオール】オー ノワール(フランシス・クルジャン)

クリスチャン・ディオール
©Christian Dior
この記事は約9分で読めます。

オー ノワール

原名:Eau Noire
種類:オード・パルファム
ブランド:クリスチャン・ディオール
調香師:フランシス・クルジャン
発表年:2004年
対象性別:ユニセックス
価格:125ml/39,600円、250ml/55,880円
公式ホームページ:ディオール

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「メゾン クリスチャン ディオール」のはじまり

©DIORBEAUTY

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ディオールの二代目専属調香師就任の初仕事として、約20年前にディオールのために私がはじめて創作したプレステージ・コレクションの香りを復刻させるというアイデアは、ひとつの確信から生まれました。 それは、それらがまったく時代遅れではないということからでした。 芸術的かつ独創的なアイデアに満ち、それぞれがコンセプチュアルだったからです。

まさにこの三作品こそが、私がプライベートコレクションを創作していきたいと考えるメゾン クリスチャン ディオール(MCD)をどの方向に進めたいかを示すものなのです。そこにはMCDが誕生した理念を再起動するという意味もあります。

フランシス・クルジャン

2021年10月に、フランソワ・ドゥマシーからディオールの専属調香師のバトンを受け取り、フランシス・クルジャンが二代目専属調香師(ディオール パフューム クリエイション ディレクター)に就任しました。そして、2022年7月に公式オンラインブティック限定で、メゾン クリスチャン ディオールの始祖とも言える三つの香りを「トリロジー コフレ」として発売しました(7月4日のディオールオートクチュールショーに先駆けての発売)。

アニック・メナードが調香した「ボア ダルジャン(銀の木)」は、ずっと途切れることなくリリースされていたのですが、ここにずっと〝まぼろしの香り〟として語り継がれてきた二つの香りが復活することになりました。「コローニュ ブランシュ」と「オー ノワール」です。両方とも若き日のクルジャンにより調香された香りです。

この三作品の誕生のために、最も重要な役割を担った男の存在がありました。メゾン クリスチャン ディオールの生みの親とも言える、つまりディオール・フレグランスの高級ラインを生み出した男の名を、エディ・スリマンと申します。

すべてのはじまりは、ディオール・オムから生み出された、彼がプロデュースした最高級ラインのフレグランス「ディオール・ラ・コレクシオン・プリヴェ」からでした。

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ディオール・オム時代のエディ・スリマンの宿願の香り

エディ・スリマン

©DIORBEAUTY

フランシス・クルジャン ©DIORBEAUTY

2001年に、エディ・スリマンがイブ・サンローラン・リヴ・ゴーシュからやって来ました。2001-02年AWよりディオール・オムのクリエイティブ・ディレクターを務めることになり、2003年夏に3年間の契約延長をし、メンズフレグランスのクリエイティブ・ディレクターも兼任することになります。

そして、2004年7月、2005年SSパリ・メンズコレクションにあわせてエディ・スリマンのディレクションによるディオール・オムの新作フレグランスが3種類(「オー ノワール」「コローニュ ブランシュ」「ボア ダルジャン」)発売されることになりました。

中でも驚異的な独創性が発揮されたこの「オー ノワール」は、エディにとって特別な香りでした。彼は11歳の頃より「キャロン プール アン オム」を愛用していました。1995年のある日、ジャン=ポール・ゴルチエの「ル マル」と出会い、そのラベンダーとバニラのブレンドに衝撃を受けていました。

エディは、ずっとこの香りを作ったフランシス・クルジャンに、〝官能的な甘いラベンダーの香り〟を自分のためにスペシャルオーダーしたいと願っていたのでした。かくして生み出された「オー ノワール」の名は、ムッシュ・ディオールが休暇を過ごしたプロヴァンスにある別荘ラ コル ノワール城にちなんで付けたものでした。

「黒の水」という香水の名称からも分かるとおり、ディオールのブラック・スタイルが似合う男女=スタイリッシュな夜の過ごし方を知る人々のための香りです。

グラマラスな生活を送る男女の素肌に溶け込むように調香されているため、そうでない人にとっては悪臭になりかねない、ディオールのファッションがそうであるように、〝香りが人を選ぶ〟タイプのフレグランスです。

冷たいラベンダーと温かいコーヒー、光り輝くハーブと漆黒のリコリス、滑らかなバニラとスパイシーなサフラン、強靭なレザーと脆いヴァイオレット、爽やかなシダーと濃厚なシロップのようなイモーテルといった相反する要素が同時に渦巻き「黒の水」を生み出す、とても複雑で繊細な、芸術性の高い香りです。

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身も心も〝ディオールの黒〟に染まる

©DIORBEAUTY

2004年発売当時の液体の色はアブサンのようなグリーンでした。©DIORBEAUTY

ディオールオムのエデイ・スリマンの仕事が好きな理由は、いつも着られる洋服を作っているからです。

カール・ラガーフェルド(この香りを愛用していました)

ファッション・デザイナーとはどういった存在なのでしょうか?それは〝新しいあなたへと導く何かを作ること〟。ただ奇抜なのではなく、その人の個性と生きてきた道をさらに光り輝かせる〝栄光の道〟へと導いてくれること。だから、ファッション・モデルのために作られたファッションは退屈極まりない。

「オー ノワール」ほど、エディ・スリマンの哲学に忠実に生み出された香りは、セリーヌにおいても存在しないかもしれないその理由は、そんな〝創造力に満ちていた、若き日のエディ・スリマン〟のプロデュースした作品だからです。出来ることなら、セリーヌのブティックにも、セリーヌの香水の隣に鎮座して頂きたいほどの香りです。

そんな〝うつくしい素肌はそのままに、心を漆黒に染めあげる水〟は、地中海に愛されるハーブ(辛く、苦く、スーっとした清涼感を万華鏡のように煌めかせるタイムとセージのハーブミックス)に誘われるように、暗いミルラの森から香り静かに広がるスモーキーなラベンダー(3種類のラベンダー・エッセンスとアブソリュートのブレンド)の到来と共にはじまります。

この聖歌のように澄み渡るラベンダーに、ローストされたコーヒーの香りが見事にシンクロしてゆきます。うっとりするほど美しいハーブの効いたラベンダーコーヒーが広がってゆきます。

すぐに、メープルシロップのようなイモーテルとリコリスが加わり、独特な甘さにより、ラベンダーコーヒーは酔わせる甘さを解き放ってゆきます。一方で、どこからともなくひんやり冷たい夜風が運んでくるシダーが、〝暗黒の世界〟へと導いてゆくレザーと共に、ラベンダーコーヒの周りを取り囲んでゆきます。

やがて、滑らかなバニラが流れるように注ぎ込まれてゆきます。かくしてコーヒーのようなカレーのようなすべてがひとまとめになった甘くもダーククリーミーな余韻を残してゆくのです。

イモーテル(ヘリクリサム)という聞きなれない精油が実に印象的に使用されています。イモーテル精油とは、コルシカ島に主に生息するキク科の黄色い花イモーテルから水蒸気蒸留法によって抽出した精油であり、葉茎からカレーの香りがするためカレープラントとも呼ばれています。

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失敗作と言われた〝幻の香り〟


カレー風味のラベンダーコーヒーの香りにより、エディ・スリマンが、フランシス・クルジャンという名調香師と共に行おうとした革命。それは香りをコレクションに結び付けようという試みでした。

それは恐らくこれからのファッション・メゾンにとっての課題であり、可能性なのでしょう。そして、各シーズンごとのコレクションと、ニュー・フレグランスを同時展開していくスタイルが、絶えず新しい形を求めて進む、ファッションという「恐るべき子供たち」に新たなる息吹を与えることになるでしょう。

この作品は、とてもドラマティックすぎたのです。それが失敗作と言われる理由です。しかし、私はとてもこの香りを愛しているのです。

フランシス・クルジャン

そういった意味においては、多面的な明るさと暗さが見事に溶け合ったこのフレグランスは、かつてはただの失敗作にすぎませんでした。しかし、クルジャンがディオールで復権し、「早すぎた幻の香り」は復活したのでした。

フレグランスの魅力とは、香りは消えるものですが、案外残り続けているということです(ネット・オークションなどで)。過去のフレグランスに触れ合う喜びもまた、これからフレグランスを楽しむ新しいスタイルなのではないでしょうか?

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「オー ノワール」を「エバーラスティングフラワー」と呼び、「香水というのはふつう2番目、3番目が世に出ると、本当にいいものはひとつだけだ。「ディオール・オム」の3つめのコロンも例外ではない。3つともよくできており豪華だが、思わず足を止めてしまうのは、フランシス・クルジャンが調香したオー・ノワールだけだ。」

「オー・ノワールはアニック・グタールの「サーブル」が発売されてから初めてヘリクリサム(イモーテル)ーカリーと焦げた砂糖の中間のような奇妙なコロハ(フェヌグリーヌ)様の香りを公に使用した。イモーテルのむずかしい点は、大きなアルトの声でパーティを独占してしまいそうなところだ。」

「グタールはオリエンタル調の背景を入れたが、クルジャンはラベンダーを選んだ。これが日の照りつけたガリーグ(地中海地方の低木地帯)―ここではしばしばイモーテルとラベンダーが同時に香る光景とうまく合う。天然で、温かく、心地よい。すばらしいネオクラシカルコロンで、コロンの域を超えている」と4つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:オー ノワール
原名:Eau Noire
種類:オード・パルファム
ブランド:クリスチャン・ディオール
調香師:フランシス・クルジャン
発表年:2004年
対象性別:ユニセックス
価格:125ml/39,600円、250ml/55,880円
公式ホームページ:ディオール


トップノート:タイム、セージ
ミドルノート:ラベンダー、ヴァージニアシダー、コーヒー、イモーテル、サフラン
ラストノート:レザー、ヴァイオレット、ブルボンバニラ、リコリス