ジスモンダ 1894
原名:Gismonda
種類:オード・トワレ
ブランド:MUCHA(ミュシャ)
調香師:非公表
発表年:2025年
対象性別:ユニセックス
価格:13ml/6,930円、40ml/14,960円
公式ホームページ:MUCHA

MUCHAの香水は、主にグラース産の香料で作られています。

© Mucha Trust 2026
2020年、日本に新型コロナウイルスがやって来ました。そして2023年までの〝おうち時間〟の中、フレグランス、キャンドル、ディフューザー、ルームスプレー、お香といった〝香りもの〟が空前のブームとなりました。
2023年5月にパンデミックが明け、人々の〝香りもの〟に対する金銭感覚がバグり、収入に見合わない高額商品を購入するようになりました。そんな中、沢山の企業が積極的に〝香り産業〟に参入し、海の物とも山の物ともつかない〝高価な香りもの〟が市場に溢れることになりました。
2025年から2026年にかけて、空前絶後の円安の中、人々は頭を冷やさざるを得ない状況となりました。そして比較的リーズナブルな国産フレグランスへの興味と需要がこれまでになく高まることになりました。新興ブランドである伊藤園のクレイジー・ジャスミン、破天荒や、歴史を着実に積み重ねているブランドであるパルファン サトリ、EDIT(h)、リベルタパフューム、コウシ、ラニュイ パルファン、アール フレグランスなどです。
カイエデモードもそんな流れの中、ごく自然に国産フレグランスに興味を持つようになりました。そこで今まで全く接点のなかった『MUCHA(ミュシャ)』というブランドの香りについて探求してみることにしました。
元々『MUCHA』について、アルフォンス・ミュシャが好きだったこともあり、2023年秋にブランドがスタートした時から注目していたのですが、マッシュグループのライセンス事業だという事から、以下に記す固定観念が生まれ、しっかりと向き合うことがありませんでした。
- ジェラピケやスナイデルを好む〝大人の可愛いを求める女性〟をターゲットにした香りのブランド
- 香りのクオリティよりも、バズりで勝負するスタイル
- 〝可愛い〟よりも〝クール〟〝賢さ〟〝清楚〟〝綺麗〟のいずれかを求める大人の女性(港区女子含む)には入りにくい〝ちょっと可愛い〟店舗デザイン
- ボトルデザインが、ビュリーを購入するお客様をターゲットにしているようでありながら、ちょっと残念な感じ
- 総体的にミュシャのイメージを奥行きのある形ではなく、平面で薄っぺらに捉えてる、ただのライセンス・ビジネス
しかし2025年3月13日に発売された「ジスモンダ」と共にリニューアルされたボトル・デザインを見てから、手に取り香ってみたいと考えるようになりました。
カイエデモードらしく忖度なしに結論から申します(もしあるフレグランス・ブランドに対して興味が生まれなかったら、ただ静かに記事にせずスルーします)。
『MUCHA』の香水は、国産フレグランス・ブランドの中でも、コストパフォーマンスに優れた、類い稀なるクオリティのものです。その根拠を以下、箇条書きさせて頂きます。
- すべての香水はフランス・グラースのロベルテ社の香料を主に使用している(一部香料は他社のものも使用しています)
- 名だたるフレグランスメゾンのファイン・フレグランスを手掛けている、約10名のロベルテ社の調香師により作られている
- フレグランス担当デザイナーの方と直接お話しさせて頂く機会を頂いたのですが、本格的な香水に対する知見をお持ちの方で、アルフォンス・ミュシャのアートと香りを結び付けていく事に情熱を傾けておられます
『MUCHA』が、空前の香水ブームの中、フレグランスが利益を生む商材であるから安易にそのカテゴリーに乗り出したのではなく、香水を愛する人々が、ミュシャという日本人が愛するアール・ヌーヴォーの世界観を〝香りの世界〟によって、人々の素肌に伝えてゆきたいという想いが乗せられていると感じました。
ニッチ・フレグランスや、ゲラン等の香水を愛好する人々にこそ是非試してもらいたいクオリティと世界観を持つ香りと言えます。ここで『MUCHA』というブランドのグループ内での立ち位置をおさらいしてみましょう。
2023年に誕生したブランド『MUCHA』とは

© Mucha Trust 2026
SNIDEL(スナイデル)、gelato pique(ジェラート ピケ)、FRAY I.D(フレイ アイディー)、LILY BROWN(リリー ブラウン)、Mila Owen(ミラ オーウェン)などのファッション事業と、Cosme Kitchen(コスメ キッチン)などのナチュラル&オーガニックビューティー事業で有名なマッシュグループ(1998年創業)は、元々はグラフィックデザイン会社からはじまっています。
2005年にSNIDELと共にファッション事業に乗り出し、〝大人の可愛さを求める女性〟を中心に、絶大なる支持を得るブランドを輩出しています。
そんなマッシュグループが行っているライセンス事業の1つとしてMUCHA(ミュシャ)が2023年に登場しました。
アルフォンス・ミュシャ(1860-1939)は、日本でも強い人気を誇るチェコ出身のアール・ヌーヴォーを代表するアーティストです。2017年3月8日から6月5日まで六本木・国立新美術館で開催された『ミュシャ展』では、65万7千人もの来場者を集めました(世界で最も多くの人が訪れた展覧会の一つ)。
そんなミュシャの芸術品を世界的に管理するミュシャ財団から初めて公認を得て、『MUCHA』は2023年9月7日に、フレグランス・ブランドとしてルミネ有楽町 ルミネ1に店舗オープンと共に誕生しました。
アルフォンス・ミュシャの幸運の女神『ジスモンダ』

© Mucha Trust 2026

『ジスモンダ』のポスターを背にしたミュシャ、1901年頃 © Mucha Trust 2026

1864年頃のサラ・ベルナール
一介のイラストレーターにすぎなかったアルフォンス・ミュシャが、アール・ヌーヴォーの旗手としての地位を不動のものとした作品である『ジスモンダ』のポスター。それは1894年に、舞台女優サラ・ベルナール(1844-1923)の宗教劇のために作成された2メートルほどのリトグラフ(石版画)を用いたポスターでした。
ミュシャに突如やって来たチャンスは、ベルナールが、『ジスモンダ』の再演が、1895年1月4日から行われることが急遽決定したため、1月1日までにポスターを準備しなければならなくなった事から到来しました。
年の瀬の1894年12月26日にポスターを発注したが、主だった画家がクリスマス休暇でパリにおらず、出版社ルメルシエの印刷所で校正の修正をしていたミュシャが依頼を受けることになりました。
オスマン帝国に併合される寸前の1450年に、アテネ公国の未亡人の公妃ジスモンダが、豪華な刺繍が入ったビザンティン風のローブを身にまとい、蘭のヘッドドレスと花のストールをまとい、パルテノン神殿に向かう演劇のクライマックスの場面を象徴するシュロの葉を手に持つ姿が描かれたポスター。
そのポスターの革新的な特徴の一つは、頭の後ろにある虹色のアーチで、まるで後光のように彼女の顔に視線を集める効果がありました。そして当時の典型的な鮮やかな色彩のポスターとは異なり、非常に精緻な描写と繊細なパステルカラーが印象的でした。
12月31日にベルナールは完成したポスターを見て驚嘆しました。1895年と96年に発注されたポスター4000枚は全てはがされるほどの人気を呼び、これから6年間、ベルナールはミュシャと専属契約を結び、すべての舞台公演のポスターを依頼することになりました。
この『ジスモンダ』の成功により、「ベル・エポック」を象徴するフランス演劇界の女王として、サラ・ベルナールは、ジャン・コクトーに「聖なる怪物」と呼ばれるほどの存在になりました。
そんなサラ・ベルナールを〝永遠の存在〟にし、アルフォンス・ミュシャ誕生のきっかけとなった『ジスモンダ』を主題にしたこの香りは、シトラスウッディの重厚感のある紅茶の香りです。
フレグランス担当デザイナーの方へのインタビュー

© Mucha Trust 2026
ボトル・デザインを一新し、満を辞して発売された「ジスモンダ」の創造について、カイエデモードは『MUCHA』のフレグランス担当デザイナーの方にインタビューさせて頂きました。
何よりもびっくりしたのは、彼女の古今東西様々なフレグランス・ブランドの香水に対する知見の深さでした。さらに言うと、過去の名香に対する愛の深さも心を打つものがあり、このような素晴らしい方が「ジスモンダ」を作り上げたという事実を知り、すっかり感動しました。
では、インタビューに入ります。
Q.『MUCHA』について何よりも私がびっくりしたのは、香水の都と呼ばれるフランス・グラースのハイグレードの天然香料が多く使用されているという点です。ニッチ・フレグランス・ブランドではない日本のフレグランス・ブランドでここまで香料にこだわっている所はそれほど多くないのでドキドキしてしまいました。
A.はい!そうなんですよ。『MUCHA』をローンチする時に何よりもこだわっていたことは、ミュシャのネームバリューを利用して香水を売るのではなく、ミュシャを愛している人々に愛用して頂ける香水を生み出したいという想いでした。つまり、そのためにはミュシャのアートに相応しい香料を使用しなければならないという答えに行きつきました。
Q.だからグラースの天然香料なのですね?ちなみにどちらの香料会社のものですか?
A.これははじめて公表することになりますが、メイン香料としてロベルテ社のものを使用しております。
Q.すごいですね!ミシェル・アルメラック氏やジェローム・エピネット氏など約40名の調香師を抱える世界有数の香料会社ですね。
A.はい、調香師については非公開ですが、名立たるラグジュアリーブランドも担当する約10名の熟練調香師の方々により、『MUCHA』のそれぞれの香りは作り上げられています。すべてフランスのグラースで調香しております。製品の充填作業を日本で行っている為最終生産地はJAPANですが、香料はMADE IN FRANCEになります。
Q.フレグランス担当デザイナーの役割は、どういったものなのでしょうか?
A.私はデザイナーとして、リニューアルしたボトルデザインにも関わっているのですが、何よりも、まずは私自身がミュシャという芸術家について深く理解した上で、それぞれの作品を香りの世界と結び付けていく構想からはじまり、その構想をロベルテ社の調香師たちにお伝えし、試作を通して、商品化への筋道を作ってゆくのが私の役割です。
Q.それはディオールの「ジャドール」を調香師のカリス・ベッカーと共に作ったクリエイティブ・ディレクターのアン・ゴットリーブ氏のような役割という事でしょうか?
A.まだまだ私はそれほど偉大な先人に並び立たせて頂ける自信はございませんが、役割としては同じ役割と考えて頂いて間違いありません。ちなみに「ジスモンダ」はミュシャの作品の中でも最も重要な作品なので、構想から1年以上修正や香りで対話を重ねて誕生した香りとなります。
Q.私が実に興味深いと感じたのは、「ジスモンダ」の世界観を、ティー・フレグランスで表現したところです。どうして、クラシカルなオリエンタル・アンバーではなく、ティーにされたのでしょうか?
A.それは「ジスモンダ」の演劇の内容が、女性が一人の男性から注がれる愛によって心情が変化する様子が茶葉の変化とリンクしているところからインスピレーションを得て、私からグラースの調香師にティー・フレグランスとして依頼をしました。
ドライな茶葉にお湯を注ぐと(愛を注ぐと)なんとも言えない豊潤で穏やかな湯気に包まれるような心地よい香りに変わる様子は物語・アートとリンクしており、その気品溢れる香りはこのアートの重厚感や緻密さをも表現しています。
私自身、鼻はききますが、調香師ではないので最初はなかなか意図が伝わらず、実際にイメージに近い茶葉を探し回り、お湯を入れて何分がベスト香りか、何度もテストして、飲んだりしながら探し当ててグラースに送ったこともありました(笑)。
闇を愛で燃やしていくように〝光る紅茶〟の香り

© Mucha Trust 2026

© Mucha Trust 2026
マーキスカットのようなダイヤカットが印象的なキャップ。それはどこか黄道十二宮(ゾディアック)が記された円盤の上に乗っかかっているようでもあります。そんなキャップを外し、スプレーをプッシュするととても柔らかいミストが広がってゆきます。
まず最初にびっくりさせられるのは、このミストの広がりです。シュワっと弾け出すのではなく、ふんわりと柔らかく広がっていくところに、作り手(デザインチーム)の深いこだわりを感じさせます。
と同時に、温かいアールグレイと冷たいレモンティーの間ですりおろしたばかりのジンジャー(天然香料)が鼓動するような、言葉では言い表しがたい、ピリッとした爽やかなティーの感触で全身があっという間に満たされてゆきます。プチグレンがアールグレイに馥郁とした気品あふれる柑橘の苦みを付け加えてゆきます。
とても印象的なのは、ミルクがすべてをひとまとめに紅茶にミルクを注ぎ込むような感じではなく、この類い稀なるアールグレイとレモンジンジャーティーのスペシャルブレンドに、ふんわりと優しく添えられていく甘さで、深みを与えてくれているところにあります。
それはハイジュエラーのブティックで、展示されているダイヤモンドに、当てられている照明のような効果を発揮してくれており、ティーの輝きで素肌が満たされていくようです。
しかしきらきらとおもむろに輝かないのがこの香りの素晴らしいところです(さらに言うと日常使い出来るところ)。強い意志を感じさせる、うっとりするようなブラックティーとマテによるスモーキーさと共に、威風堂々としたジャスミンの花が開花してゆきます。パウダリーなアイリスがさらにジャスミンの魅力を引き立ててゆきます。
壮麗にかがやくスポットライトと幽玄たるスモークの中から、大女優が現れるように、ジャスミンは素肌を透かして、心にまで届いてゆきます。やがて到来するムスクの風に乗って、パームツリー、サンダルウッド、ケードといった木々の香りが温かくすべてをひとまとめにしてゆきます。
それはまるであなたの守護神となって、新しい一日を祝福するような、いつも心に太陽を与えてくれる、闇を愛で燃やしていくように〝光る紅茶〟で心のカップが満たされていくようです。
『MUCHA』の他の香りに対しても、強い興味が抱かされました。ティー・フレグランスの傑作です。
香水データ
香水名:ジスモンダ 1894
原名:Gismonda
種類:オード・トワレ
ブランド:MUCHA(ミュシャ)
調香師:非公表
発表年:2025年
対象性別:ユニセックス
価格:13ml/6,930円、40ml/14,960円
公式ホームページ:ミュシャ

トップノート:ベルガモット、プチグレン、レモン、ミルク
ミドルノート:ブラックティー、マテ、ジャスミン、アイリス
ラストノート:パームツリー、ケード、ムスク、サンダルウッド
