ルーズシルエットなぞ存在しない。
服はその人に調和していなければならない。私は過敏な女性らしさの演出ほど女性を老けて見せるものはないと思っている。
カール・ラガーフェルド
ファッションにおいて、ルーズシルエットというものは、存在しません。それはあくまでも全体的にルーズに見えると言うことであり、全てがルーズなファッションに身を包むと間違いなくその人からは、やぼったさがにじみ出てきます。世に言うハイセンスなルーズシルエットには、どこかで計算されたシルエットのバランスが存在するのです。
次に登場するアニー・ホール・ルックこそがその好例でしょう。このルーズシルエットのポイントは、細いボーダーのサンローラン風細マフラーと、アームの細さです。そして、ロールアップして、レザーブーツからパンツを出しています。頭上のサングラスは、まさに現代のヘッドドレスです。
アニーホール スタイル12
ルーズシルエット
- 黒地に白ボーダーの細身マフラー
- ラフな黒のカットソー。ロングスリーブ
- ベージュのチノパン。ロールアップ
- ベージュのレザーブーツ
- 頭にボストンタイプのサングラス
有名な独白シーン
アニーがブラックスーツルックで登場するこのシーンが実はこういうセットで撮影されていると知れば、驚きではないでしょうか?
アニーホール スタイル13
アニー・ホール・ルック5
- 白地にサイケデリックな赤柄のブラウス
- 黒のベスト(スタイル3と同じもの)
- 黒のパンツ
アニーホール スタイル14
パンツスーツ・ルック
- ベージュの2ピースパンツスーツ。大きなピークドラペル、ベントレス
- ペールブルーのストライプシャツ。ボタンつき小さなフラップポケット
- ベージュのレザーシューズ
女を忘れ始めた女性たち=パンツスーツスタイルではない!
この作品の中で、シークレット・アイコンとも言われるのが、ベージュのパンツスーツです。
ジブリ映画にはパート2が存在しないように、女性の人生にもパート2はいらない。常に感性を磨き自分の中の女性をアップデイトしていく。そういう意味においては、アパレル業界に多く存在する、枯れ果て男性化した熟女たちに比べると、たとえ勘違いが過ぎたとしても美魔女たちは、とても魅力的なのです。
ただ美魔女が哀れに見えるのは、誰かのパート2を目指しているかのような量産型になる人が多いからです。
パンツスーツの妙は、マスキュリンとフェミニンのバランスを自分自身の感性と天性でコントロールする所にあります。そういう意味においては、トム・フォードコスメとサンローラン・ブティックの女性販売員の制服は、パンツスーツの女性の美学を伝える一つの視覚体験としては必見です。パンツスーツを経て、女性は更に女性らしさに磨きをかけることが出来るのです。
アニーホール スタイル15
ミリタリー・ルック
- ダークグレーのミリタリーテイストのジャケット
- ダークグレーのハイネックニット
- 微生物柄のマフラー。フリンジ付き(スタイル8でも登場)
- 頭にボストンタイプのサングラス
アニーホール スタイル16
アイビー・ルック
- 白のストライプ・メンズライクシャツ。襟はとがっている
- ウールのグレーベスト
- 赤のタータンチェックマフラー
- グレーのパンツ
- 黒ベルト
機械との対話はファッションではない
集団で見ると奇抜だけど、ひとりひとりはみな同じに見えてしまう。西洋の表面的な真似をしているだけにも見えるし 、個性がないのは残念。
ヨージ・ヤマモト(2000年代の原宿ファッションに対して)
個性とは何か?それは知性です。知性なきものから個性は生まれません。たとえば、あるセレクトショップに行くとします。それぞれのファッション・アイテムはあなたに話しかけてきます。「あなたは何色が好き?」「あなたはどんな風に見られたいの?」「今までどんなものが好きだったの?」「なぜここに来たの?」。
実際のところ、個性的な人と、そうでない人の違いは、ショップに来店したときに聞こえてくる声によります。個性的な人には、さまざまな声が聞こえてきます。一方、個性がなく真似をしている人は、ひたすらに写メを撮り、同じくスマホ上にアップされた物真似写真を見て、どっちがいいかなと機械との対話に勤しみます。
個性は、人との対話を恐れず、物真似は、人との対話を拒みます。彼らは第一声にこう言います。毎日自分の感性に従えばいいじゃん?と。しかし、ここでこの一言を引用すれば十分でしょう。
次から次へと新しいアイデアに飛びつく学生がよくいたのです。私はがっかりしました。まるで、課題をルーレットの上で 転がしているみたいだったからです。もう一度ルーレットを回せばうまくいくなんて保証はどこにもないのに。何かを学ぶには、問題としっかり向き合って分析し、診断を下して、処方箋を考える必要があります。そして、処方した薬を飲むのです。
ティム・ガン 元パーソンズ・ファッション・デザイン学部長
アニーホール スタイル17
カリフォルニア・スタイル
- ヒッピー風白のマキシワンピ。白地にサンドベージュのVライン。
- サンドベージュのマフラー半そで
- 鼈甲のボストンタイプのサングラス
愛とサメは似ている常に前進していないと死んでしまう。
ダイアン・キートンの実名はダイアン・ホール。そして、友人内でのニックネームはアニーです。つまり、アニー・ホールとは、ダイアン自身のことなのです。
チャールズ・チャップリン(ウディ・アレンのフェイバリット・ムービーはチャップリンの『街の灯』です。他にウディは、イングマール・ベルイマンとフェデリコ・フェリーニを敬愛。)が絶賛した新しい感覚のコメディを牽引したのは、間違いなく独立した女性像を示したダイアン・キートンの存在感でした。
それは登場人物がカメラに向かい話しかけることよりも、回想シーンの時間軸を壊した演出よりも、結局のところ、その視点が、極めて女性目線であったことから生まれた新しきコメディの形だったのです。
アニー・ホールとは、誰かに創造された者ではなく、ほぼダイアン・キートン自身によって作り上げられたキャラクターでした。もうこれ以上の言葉はいりません。彼女がファッション・アイコンである理由は、ラルフ・ローレンを自分の意思で好んで着て見せたところにあるのです。
アニーホール スタイル18
ジーンズルック
- 黒のタートルネックのロングスリーブニット(スタイル1より)
- タータンチェックシャツ。腕をロールアップ
- ハイウエストジーンズ。ロールアップ
- ブラックロングブーツ
- ロングの黒コート
- ブラウンのタータンチェックマフラー
あなたが着たいメンズシャツはどっち?
白のスーツにストライプシャツに、映画の中で使用したメンズタイを着用したダイアン・キートン。もう決まりすぎています。アンドロギュヌスの極致。
女性が洗練の一つの形を生み出したとき、最後に行き着くのは、ボーイフレンドルックです。それは、ココ・シャネルがそうであったように、女性が恋人から借りた服を着ている姿ほどセクシーなものはないのです。
そして、今、あなたの恋人が持つ白いシャツは、ディオールのドレスシャツですか?それともユニクロのビジネスシャツですか?あなたは恋人のどんなシャツを着てみたいですか?
作品データ
作品名:アニー・ホール Annie Hall (1977)
監督:ウディ・アレン
衣装:ルース・モーリー
出演者:ウディ・アレン/ダイアン・キートン/クリストファー・ウォーケン