作品データ
作品名:バターフィールド8 BUtterfield 8 (1960)
監督:ダニエル・マン
衣装:ヘレン・ローズ
出演者:エリザベス・テイラー/ローレンス・ハーヴェイ/ダイナ・メリル/エディ・フィッシャー/スーザン・オリバー
リズがはじめて職業を持つ女性を演じる。職業=「コールガール」
1931年6月8日早朝、ニューヨーク・ロングビーチの海岸で、一人の若い女性の溺死死体が発見されました。その女性の名をスター・フェイスフルといいます。25歳のこの女性の死体は波止場の浮浪者によって発見されました。ロード・アンド・テイラーで購入した高価なシルクのサマードレスの下には、ただガードルとシルク・ストッキングだけをつけており、死ぬ前に酷く殴打された跡が残っていました。しかし、検視の結果、死の寸前に性交してはいたが、レイプされた形跡はなかったことが分かりました。
そんな彼女の生前の自由奔放なフラッパーライフが明らかになると同時に、彼女が11歳で性的虐待を受けていたことも明らかになり、その相手がどうやら大物政治家らしいという憶測が生まれ、一大スキャンダルとなりました。そして、1935年、新進気鋭の作家ジョン・オハラが入手した彼女の日記をもとに『バターフィールド8』を執筆したのでした。
1958年3月、エリザベス・テイラー(1932-2011)は、3人目の夫マイク・トッドを飛行機事故で失いました。失意に嘆くリズを励ましたのが、共通の友人だったエディ・フィッシャーでした。当時彼にはデビー・レイノルズ(『雨に唄えば』の主人公の一人)という妻がいたのですが、そうしているうちに二人は恋愛関係になり、1959年に一大スキャンダルになったのです。そして、エディーは妻子を捨て(次女は後のレイア姫であるキャリー・フィッシャー)、二人は結婚し、リズは『クレオパトラ』に史上初の100万ドルのギャランティで出演することが決定したのでした。
そんな中、最後のMGM映画としてオファーされたのが、本作だったのです。「主人公の女はまるで娼婦だわ。何から何までまったく不愉快な映画。どんな条件でもやるつもりはありませんからね、絶対に!」と台本を読んで言い放ったリズ・テイラーの反応に対して、MGM首脳陣は、「他人の家庭を平気で壊したあなたにこそ相応しい役柄だ」と考えていたのでした。
グレース王妃コンビじゃないとダメ!
本作出演に関してリズ・テイラーが出した条件は、撮影をロサンゼルスではなくニューヨークで行うこと。そして、衣装デザインをヘレン・ローズと、ヘアスタイルをシドニー・ギラロフという1956年にグレース・ケリーのロイヤル・ウエディングを演出したコンビに行わせることと。脇役に当時の夫エディ・フィッシャーを出演させることでした。
かくしてリズ夫妻は、1959年10月19日にロサンゼルスからニューヨークへ大陸横断列車で三日間かけて、ロバート・ワグナーと妻ナタリー・ウッドと共に移動したのでした。そして、ニューヨークに到着すると、早速モンゴメリー・クリフトに会い、役作りの協力をしてもらうのでした。
ヘレン・ローズがリズのために最後にデザインした作品
グロリア・ルック1 サテン・スリップ
- ベージュのサテン・スリップ、胸元と裾にアイボリーのレース
- サーモンピンク色のラメ入りハイヒール・パンプス
オープニング・シーンを見ているだけで、リズ・テイラーがなぜスターなのかという意味がよく理解できます。スターの絶対的条件は、その仕草を真似したくなる存在感にあります。ベッドの中で寝返りを打つ仕草。起き上がり髪を搔き揚げる仕草。煙草を探し、空箱を投げ捨てる仕草。強い煙草を吸い咳き込む姿。バーボンを飲み身体を震わせる仕草。スリップ一枚でハイヒールパンプスを履き颯爽と歩む姿。バーボンで歯を磨く姿。そして、香水を選び腕に擦り付ける姿・・・彼女は、どこかチャールズ・チャップリンに似ています。
ヘレン・ローズのデザインしたこのスリップは、70年代のスリップドレスを経て、現在ではタイムレスなファッション・アイテムとなっています。
「私は売り物なんかじゃない!」
グロリア・ルック2 ファーコート
- ワイドスリーブファーコート、生地はクリーム・カシミア
- 黄金のボックス型クラッチ
この作品においてリズは多くのファーを着用します。そして、それはファーコート=リズの象徴となり、60年代以降の彼女のイメージとなります。