ウーマン イン ゴールド
原名:Woman in Gold
種類:オード・パルファム
ブランド:キリアン
調香師:カリス・ベッカー
発表年:2017年
対象性別:女性
価格:50ml/36,850円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム

クリムトの黄金美女の〝謎めいた微笑と忍びよる恍惚〟の香り

©KILIAN PARIS
クリムトが1903年の旅行中にラヴェンナで見た、ビザンティン時代の金のモザイク画が「黄金様式」の確立に大きな影響を与えました。とても興味深いのは、それ以降の彼の作品において、黒の存在がより重要なものとなり、金がより輝くのを手伝うようになった点です。
これと同じ方法で香りを作るのは面白く、私はある意味、金のように輝く原料を選ぶことにしました。それはベルガモットやハニー、アニス、イエローローズといったものです。さらに反対に、ダークなタッチは、ブラックペッパー、(ブラック)パチョリ、(ブラック)バニラ、レザーを使い表現しました。
その結果、同じ構造を持つにも関わらず、全く正反対の感情を生み出す香り「ウーマン イン ゴールド」「ゴールド ナイト」を生み出しました。コレクションごとに私のクリエイティブのプロセスは全く変わっていくのです。
キリアン・ヘネシー
キリアンのブランド誕生10周年を記念し、2017年9月に『フロム ダスク ティル ドーン—ゴールドに輝くアートの世界に魅せられて—』コレクションとして二つの香水が発表されました。
〝夕暮れから夜明けまで〟の意味を持つこのコレクションは、ハプスブルク帝国だったオーストリアの画家グスタフ・クリムト(1862-1918)を讃えたものであり、彼の黄金時代にインスピレーションを受けたものでした。
キリアン・ヘネシーは、クリムトこそが金色をメインに据えた芸術作品の大家だと考えていました。コレクションの二作品のうちのひとつである「ウーマン イン ゴールド」は、クリムトが3年の歳月をかけて完成させた絵画『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I』(1907年)からインスパイアされた香りです。
その絵画は、「オーストリアのモナリザ」「黄金のアデーレ(The Woman in Gold)」としても知られています。彼女の纏う黄金に香りがしたら、一体どのような香りなんだろうか、そこからこの香水の創造は始まっていったのでした。
〝それを身につける女性と同じくらい複雑で魅惑的な香水〟と形容されるオリエンタルシプレ・フローラルの香りは、カリス・ベッカーによって調香されました。
黄金のバニラが生み出す『21世紀のシャリマー伝説』

©KILIAN PARIS
私にとって「ウーマン イン ゴールド」は、21世紀のオーバーラグジュアリーバージョンの「シャリマー」です。
キリアン・ヘネシー
「あの素晴らしいシャリマーを現代版にしてみよう」というキリアンの宿願。ゲランの「シャリマー」がこの作品の創作のスタートラインとなりました。「シャリマー」にはバニラが欠かせません(といってもバニラの香りがする合成のバニリン)。
今の時代にバニラをオーバードーズしたらどうなるだろうとキリアンが思案していた時に、たまたま、ジボダン社の持つサステナブルな環境で育てられたマダガスカル産の天然のバニラアブソリュートの存在を知りました。
非常に高価なものでしたが、上質であり、早速キリアンはこのアブソリュートを手に入れ、カリス・ベッカーに使用してもらう事にしました。
ユニークなトップノートがあらわにするのは、スポンジベルガモットオイルです。それは昔からある技術によって抽出された美しい品質のものなのです。
カリス・ベッカー
そしてここに大量のベルガモットを加えることにしました。それは昔ながらのスポンジを使った圧搾法によって抽出したエッセンスで、新鮮なベルガモットの香りがするものでした(熱を使わないためデリケートな香りが壊されない)。
さらに、この煌めく明るさを強調するために入れたのがイエローローズでした。イエローローズは、フルーティでヴァイオレット調の香りがするローズです。ローズを入れているというのが「シャリマー」と違う点でした。
『フロム ダスク ティル ドーン』コレクションの香水ケース

©KILIAN PARIS

『接吻』グスタフ・クリムト(1907-1908)
私は、単に刺激するために刺激を与えるということには興味が湧きません。必要なのは芸術的な理由なのです。
私のアイデアは、光と影のコントラストを巧みに利用し、私たち人間は皆、善と悪の両方から成り立っているということを表現することでした。しかし、光と闇の内には、無数の側面が存在するのです。私はこの二面性をこのコレクションで表現したかったのです。
キリアン・ヘネシー
アールヌーヴォーの豪華な香水のケースは、ゴールドで装飾され、クリムトの『接吻』を再解釈したものになります。また、イタリアのラヴェンナにあるサン・ヴィターレ聖堂で、クリムトが衝撃を受けたモザイク画からもインスパイアされています。
クリムトの<黄金の女>は二重映像としての<闇>をはらんでいる。クリムトの女性像は、黄金と闇の両極の間を揺れ動いているのだ。
黄金と闇は、表と裏でもある。黄金の光は表面で反射する。表面は表皮であり、皮膚であり、エロスであり、女性であり、装飾である。(中略)闇は表面の下の内部であり、内臓である。内面的なもの、隠されたもの、ミステリー、意味、異形、そして死を表している。
『グスタフ・クリムトの世界 女たちの黄金迷宮』海野弘 監修、p34
アデーレ・ブロッホ=バウアーの生涯

アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I

アデーレ・ブロッホ=バウアー(1907)
私がクリムトの大好きなところは、彼が破壊的な性格だというところです。彼は新しいスタイルの絵画を考案したクラシカルな画家なのです。また、彼の絵画の背後には、たくさんの神話や歴史があります。私は彼の作品が単純に魅力的だと考えています。
クリムトの黄金様式の2つの絵画に心が打たれました。特にそのうちのひとつである『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I』には、彼女の伝記を読んだこともあり引き込まれてゆきました。彼女の人生はとても悲劇的で、それ故に、クリムトがどのように彼女を悲哀の様相で描いたかを想像し、心が動かされました。
キリアン・ヘネシー
グスタフ・クリムトが生涯でたった一人、二度描いた女性(もう1つは1912年に金ではなく色彩で描いている)であるアデーレ・ブロッホ=バウアー(1881-1925)は、砂糖で財をなした実業家フェルディナント・ブロッホ=バウアーの夫人でした。
彼女は、19歳の時に結婚した17歳上の夫に甘やかされ、自由奔放に生きた女性でした。特に性について比較的自由な考えを持っており、グスタフ・マーラーやリヒャルト・シュトラウス、シュテファン・ツヴァイクといった著名な芸術家たちをサロンに招いていました。
彼女がクリムトと出会ったのもこのサロンでした。1903年に夫フェルディナントが妻アデーレの肖像画をクリムトに依頼しました。4年の歳月をかけてそれは1907年に完成しました。『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I』は、アールヌーヴォーの曲線とアールデコの直線を巧みに使い分けた見事な作品でした。
アデーレの顔と手以外は黄金を貼り巡らせ、はっきりしない体勢をとっており、彼女が立っているのか、曲がりくねった渦巻き模様に覆われた肘掛け椅子に座っているのかはよくわかりません。背景やガウンには三角形、卵、目の形、アーモンドなどが描かれており、どこかエロティックな意味合いを感じさせます。
アデーレは、2度の流産と赤ちゃんの死を経て、子供に恵まれませんでした。病がちで、特に偏頭痛に苦しめられており、ヘビースモーカーで、非常に華奢で、憂鬱症でした。その顔立ちは理知的で、細長く、洗練されていましたが、傲岸不遜な性格の持ち主でした。姪のマリアの回想によると、彼女の笑顔を見たことがない程だったそうです。
しかしクリムトの絵画では、微笑か恍惚の表情か、わずかに笑みがあるのです。一方で、澄んだ暗い瞳の奥で何が起こっていたのかを読み取るのはとても難しいです。彼女は明らかに深みと謎に満ちた女性なのです。
それを身につける女性と同じくらい複雑で魅惑的な香水

©KILIAN PARIS
弾ける黄金の眩しさに満ちたベルガモットとマンダリン・オレンジが、ピンクペッパーとアルデハイドにより、もっともっと黄金の輝きに満ち満ちるようなシュワシュワっとした感覚から〝黄金の貴婦人〟という名の香りははじまります。ベルガモットが、形容しがたい程、ミステリアスな憂いのある美しさを解き放っています。
すぐにローズとバニラとアキガラウッドの〝官能の三重奏〟が、黄金のシトラスと溶け合いながら、素肌の上に引き伸ばされてゆきます。ローズのあらゆる側面が回転木馬のように、素肌の上でよろめきながらまわりまわって満ち広がってゆきます。
ちなみにアキガラウッドとは、2011年にジボダンによって、パチョリの精油から生み出されたキャプティブ分子です。スパイシーでありながら清潔でフレッシュなウッディな香りが特徴であり、しかもあらゆる香りの要素を兼ね備えた素材の一つで、まるでケチャップのように、舌のあらゆる部分に同時に刺激を与えるような感覚をもたらしてくれます。
やがてトンカビーンとムスクとパチョリがすべてをひとまとめにし、クリムトのあの絵画のように〝黄金のシンフォニー〟を奏でることになります。そしてパウダリーで、甘くメランコリックなゴールデンローズシャワーを全身で浴びていくような、エレガントかつスタイリッシュな、類い稀なるクリーミーな高級石鹸の余韻に満たされてゆきます。
この香りがキリアン版「ポートレイト オブ ア レディー」と呼びたくなるのは、こちらは、素肌が黄金の輝きに満ちるような〝とんでもなくロマンティックで、ゴージャスな女性〟を生み出してくれるからです。『華麗なる一族』や『ダイナスティ』という言葉がぴったりなクラシーな女性のための香りと言えます。
まさに「ラブ ドント ビー シャイ」の姉妹フレグランスとも言えます。イブニングドレスと最も相性の良い香りです。
香水データ
香水名:ウーマンインゴールド
原名:Woman in Gold
種類:オード・パルファム
ブランド:キリアン
調香師:カリス・ベッカー
発表年:2017年
対象性別:女性
価格:50ml/36,850円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム

トップノート:ベルガモット、マンダリン・オレンジ、アルデハイド、ピンクペッパー
ミドルノート:ローズ、バニラ・アブソリュート、フリージア、ゼラニウム、マシュマロ
ラストノート:パチョリ、アキガラウッド、トンカビーン、バニラ、ムスク

