バニラ ディオラマ
原名:Vanilla Diorama
種類:オード・パルファム
ブランド:クリスチャン・ディオール
調香師:フランソワ・ドゥマシー
発表年:2021年
対象性別:ユニセックス
価格:125ml/39,600円、250ml/55,880円
公式ホームページ:ディオール
ディオールとパリの老舗レストラン『マキシム』
ディオールの「ラ コレクシオン プリヴェ クリスチャン ディオール」は、2004年に「コローニュ ブランシュ」「オー ノワール」「ボア ダルジャン」という3種類の香りからはじまりました。そして、2009年に「アンブル ニュイ」が発売され2017年までコンスタントに新作がリリースされていました。
このコレクションが、2018年に「メゾン クリスチャン ディオール」として一新されました。そして2021年9月17日に「バニラ ディオラマ」が発売されました。ディオールの初代専属調香師フランソワ・ドゥマシーにより調香されました。
クリスチャン・ディオール(1905-1957)は、自分で食材を丹念に育てるほどの食通でした。そして、彼は、オードリー・ヘプバーンやブリジット・バルドーも愛したパリの老舗レストラン「マキシム」を愛していました。その愛の深さは彼の最初の「ニュールック」コレクションにおいて〝マキシムズ〟の名をひとつのドレスに付けたことからも窺い知ることが出来ます。
そんな彼のために「マキシム」のパティシエが作り出したスイーツが〝ディオラマ グルマン〟でした。このスイーツにはバニラポッドとオレンジシロップ、ビターチョコレートが入っているという情報以外は詳しいレシピも姿形が分かる写真も残っていません。
その幻のスイーツ〝ディオラマ グルマン〟にオマージュを捧げ、フランソワ・ドゥマシーが生み出した香りがこの「バニラ ディオラマ」なのです。
ちなみに1893年に創業された「マキシム」は1981年に、ピエール・カルダンに買収されました。カルダンは、1947年から1950年にかけてディオールの下で働いていました。
有名パティシエが再現した〝ディオラマ グルマン〟
ちなみにこの香りの創造とあわせて、ミシュランガイドの2つ星レストランである「ラ・シェーヴル・ドール(黄金の山羊)」のチーフ・パティシエであるジュリアン・デュグールにより、幻のスイーツ〝ディオラマ グルマン〟が再現されました。
このレストランはコートダジュールの鷲ノ巣村エズにある38室しかない5つ星ホテルの中にあります。
ディオールの二回目のコレクション「ディオラマ」
1947年2月12日、「ニュールック」が誕生しました。そして、同年8月6日、二回目のコレクションにおいてクリスチャン・ディオールは、「ニュールック」の最終形態とも言える「ディオラマ」を発表したのでした。このドレスは、40メートルのウールの生地を使用した非常に贅沢なものでした。
そして、ディオールがこの時に言い放った以下の言葉は、今でもディオールというブランドにとって最も重要なブランド・フォロソフィーになっています。「服とは、女性の身体の均整美を高めるためにデザインされた、瞬時の建築物である」。
みなが息を呑むほどに、しかも最高に優雅なシルエットだった。
リュシー・ノエル「ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン」
ディオールの〝真の正統派バニラ・フレグランス〟
バニラは五感に訴えかけるものであり、その香りを嗅ぐと、かつて喜びを感じた記憶を一瞬で呼び覚ましてくれます。バニラ ディオラマは、この喚起力と、希少性の高いマダガスカル産バニラの素晴らしさを同時に讃えた香りです。
バニラの魅力を忠実に描き出すために、様々な側面を照らし出すように調香しています。それは喜びに満ちたシトラスノートの際立つまろやかさが、バニラの本質的な魅力を導き出すことにより、私が求めていた〝真の正統派バニラ・フレグランス〟を生み出させたのでした。
フランソワ・ドゥマシー
40年代から50年代にかけてクリスチャン・ディオールが「マキシム」で食べていたであろう幻のスイーツ〝ディオラマ グルマン〟がどのような形で、どのような味がするかは創造の域を出ません。
しかし、バニラポッドとオレンジシロップ、ビターチョコレートが入っていることだけは記録に残されています。そんなディオールが愛した幻のスイートを香水として蘇らせようとしたこの香りは、オレンジがピンクペッパーによって煌くようにしてはじまります。
すぐにジューシーなオレンジの柑橘の側面をより際立たせるために、甘酸っぱいシャキッとしたシトロンが加えられます。
この香りの最初に現れるオレンジは、バニラのはじまりを予告させるために使われています。だからフレッシュでフルーティでありながらある種の丸みがあるのです。
嗅覚の冴えを呼び覚ますために、軽く刺激して趣を添えるために、僅かなシトロンで引き立てています。
フランソワ・ドゥマシー
やがてだんだんとバーボンバニラ(ブルボンバニラ)が温かくもドライな甘さをちらつかせます。そこに注ぎ込まれる(秋の訪れを予感させる)カルダモンの効いたラム酒が、オレンジバニラと溶け込みキューバン・スクリューのような蕩けるようなほろ苦い甘さに包まれてゆきます(つまりラムはそれ程主張しない)。
ポイントは、エルメスの「ヴァニーユ ガラント」でジャン=クロード・エレナが表現し、ジャック・キャヴァリエがルイ・ヴィトンの「コントロモワ」で同じく表現した〝甘くないバニラ〟をドゥマシーがディオールで表現したということです。
だんだんとこの香りを特徴付けるカカオがその存在を明らかにしてゆきます。カカオはアーシィーなパチョリにより発火し、コートダジュールの夜に打ち上げられた花火のように、スモーキーレザーな香りを隅々にまで広がらせてゆきます。
そして、地中海の海原を白く照らし出すサンダルウッドのクリーミーな余韻と、渾然一体となり、全身を甘すぎない生肌を演出する至上のグルマン・スキンへと変えてくれるのです。
まさに〝真夏の夜の夢のようなバニラ〟の香りです。残念ながら、「ディオラマ」という1949年に生み出されたディオールの伝説の香りと、この香りの関連性は全くないようです。もし、この香りの中に、その関連性まで加えたならば、クリスチャン・ディオールの偉大なる栄光を想起させる、とんでもない香りが生み出された可能性があります。
ゲランの「ドゥーブル ヴァニーユ」「キュイル ベルーガ」やトム・フォードの「タバコ バニラ」、メゾン・フランシス・クルジャンの「グラン ソワール」と比較してみても面白い香りです。
バニラ・アブソリュートについて
天然のバニラ・アブソリュートは、格式のある甘さに、濃密で温かみのあるココアのように、ウッディ、アンバー、スパイシーでまろやかなアクセントがきいた、奥行きのある香りを放ちます。
「バニラ ディオラマ」には、マダガスカル産バーボンバニラのアブソリュートが使用されているのですが、この香料が抽出されるまでのプロセスを知ると、よりこの香りの魅力に酔いしれることが出来るでしょう。
まず最初に押さえておかないといけない事実、それはバニラの寿命は10年ということです。そして、3~7年目にしてようやく花を咲かせます。しかし、バニラ・アブソリュートは花からは抽出されません。バニラポッド(バニラのさや)から抽出されます。
そのため、まず一年のうち一日しか咲かないバニラの花を人工受粉させなければなりません。そして、約6ヶ月の歳月を経て、バニラポッドは育ち、成熟してしまう寸前に収穫するのです。この時点でバニラのさやはまだ緑色です。
収穫後、3日以内に、60度前後の熱湯に30秒~3分ほど浸されます。この過程により、さやの中のバニラビーンズは、その中にある配糖体であるグルコバニリンが、加水分解されバニリンが遊離します。
その後、すぐにコットンとウールで作った布に包まれて24時間寝かされた後、バニラポッドは、毎日数時間の天日干しを2週間から最大2ヶ月間に渡り繰り返されます。この作業をキュアリングと呼びます。こうして完成したバニラポッドは焦げ茶色になります。
最後に、バニラポッドの水分を30%程度に保ちながら2~3ヶ月にかけて乾燥させ、さらに1ヶ月グラシン紙で包み込んだ箱で保管され完了です。
その後、バニラポッドは粉砕加工され有機溶剤(エチルアルコール)によりバニラ・アブソリュートが抽出されるのです。
香水データ
香水名:バニラ ディオラマ
原名:Vanilla Diorama
種類:オード・パルファム
ブランド:クリスチャン・ディオール
調香師:フランソワ・ドゥマシー
発表年:2021年
対象性別:ユニセックス
価格:125ml/39,600円、250ml/55,880円
公式ホームページ:ディオール
トップノート:オレンジ、ピンクペッパー、シトロン
ミドルノート:ラム、カカオ、カルダモン
ラストノート:バーボン・バニラ、サンダルウッド、パチョリ