ノータイに徹するジェームズ・ボンドの違和感
ジェームズ・ボンドの美学。それはノータイで済ますことが出来るシーンでもネクタイを着用するところにあります。ネクタイとは、女性にとってのコルセットであり、男性の男性らしさがより突出するアイテムなのです。
日本のサラリーマン達がノータイで闊歩するようになったことにより生まれたものは何でしょうか?それは、元々お洒落なスーツの着こなしが出来なかった平均的日本人のメンズファッションの完全なる崩壊です。
ファスト・ファッションの興隆とは、元々サイズ感やファッションの美学に無縁だった人々の間で交わされる片言の英会話のようなものなのです。(ファッションIQの高い)本物に対峙した時の効力はゼロに等しいが、(本物と遭遇することのない)偽者の間では満足出来る次元の着こなしが成立しているということなのです。
この作品のボンド・スタイルは、そういった偽者のボンド・スタイルがてんこ盛りです。まさにそういう意味においても、この作品は、「消された(メンズ・アイコンの)ライセンス」なのです。
ジェームズ・ボンド・スタイル2
チャコールグレー・スーツ
- テーラー:ステファノ・ リッチ
- トロピカルウールのチャコールグレースーツ、パワーショルダー、低い位置の2つボタン、ノーベント
- 黒のレザーベルト
- 胸ポケットのある水色のピンポイントシャツ
- 黒のスリッポン
ジェームズ・ボンド・スタイル3
アンコンジャケット
- 袖が長いネイビーのシャツジャケット、コットン、4つボタン、ヨーク、シングルボタンの袖口
- ホワイトカジュアルシャツ、両胸にフラップポケット
- カーキのチノパン
- ブラウン・レザーベルト
- ネイビーのキャンバス地のエスパドリーユ
ジェームズ・ボンド・スタイル4
麻薬ディーラー・ルック
- ゆったりしたシルエットのネイビーシャツ、ヨークとつながっている二つのフラップポケット
- ネイビーパンツ
- ブラックレザーベルト
- ブラックスリッポン
- ロレックスのサブマリーナーRef.16800/168000
この作品のジェームズ・ボンドのファッションが軽いのは当時人気TVドラマだった『マイアミ・バイス』(1984-1989)のファーストシーズンの衣裳を担当したジョディ・リン・ティレンが衣裳デザインを担当しているからでしょう。このファッションなど、そのまんま『マイアミバイス』の世界観そのものです。
作品データ
作品名:007 消されたライセンス Licence to Kill(1989)
監督:ジョン・グレン
衣装:ジョディ・リン・ティレン
出演者:ティモシー・ダルトン/キャリー・ローウェル/タリサ・ソト/ベニチオ・デル・トロ/ロバート・デヴィ
- 【007 消されたライセンス】復讐のために戦うジェームズ・ボンド
- 『007 消されたライセンス』Vol.1|ティモシー・ダルトンの冴えないボンドスーツ
- 『007 消されたライセンス』Vol.2|ネクタイを締めないボンド=ティモシー・ダルトン
- 『007 消されたライセンス』Vol.3|傷だらけのティモシー・ダルトン
- 『007 消されたライセンス』Vol.4|ディオールオムの象徴=ベニチオ・デル・トロ
- 『007 消されたライセンス』Vol.5|キャリー・ローウェルと80年代スカートスーツ
- 『007 消されたライセンス』Vol.6|ヴェリーショートが美しいキャリー・ローウェル
- 『007 消されたライセンス』Vol.7|キャリー・ローウェルとジョディ・リン・ティレン
- 『007 消されたライセンス』Vol.8|タリサ・ソトとオスカー・デ・ラ・レンタ
- 『007 消されたライセンス』Vol.9|タリサ・ソト、ボンドムービー史上初のラテン系ボンドガール