6代目ジェームズ・ボンド=ダニエル・クレイグ、三作目。
男性が鑑賞後にスーツでバシッと決めたくなる21世紀の映画シリーズを3つ挙げよと言われたならば、「オーシャンズ」シリーズと、「トランスポーター」シリーズ、そして「007」シリーズを挙げることができるでしょう。
スーツを通して演出するダンディズムの真髄とは何か?それを教えてくれる映画。かつて、秘密兵器と美女たちにより男性の乾いた心に、少年時代の無邪気さと、青年時代の青い欲望を呼び覚ましてきた007シリーズは、21世紀に入り、真にエレガントな男のリアルな秘密兵器を教えてくれる教科書へと変わってゆきました。
その流れを推し進めた人こそ、6代目ジェームズ・ボンドであるダニエル・クレイグ(1969-)でした。そして彼はそのピークを2012年 のロンドン五輪の開会式に持ってくることによって、21世紀最高の男性のファッション・アイコンの位置に駆け上ったのでした。
今では、ジェームズ・ボンドは、本物志向の20代~30代の男性の憧れの存在=タイムレス・アイコンです。日本においても、スーツを販売する者にとって、必ず熟知していなければならない唯一無二の映画、それが007シリーズなのです。特に、ブリオーニ、エルメネジルド・ゼニア、ドルチェ&ガッバーナ、ヒューゴ・ボス、そして、もちろん、トム・フォードで働く販売員達にとっては、聖書の領域にまで引き上げられています。
そんな全てのきっかけは、どうやら、ジャニー・ティマイムとダニエル・クレイグのこの会話から始まったらしい。
「私はもっとスリム・フィットなスーツを着たいんだ。着ていることさえ忘れることができるスーツ、つまり体の上に着るのではなく、体と一緒に動くスーツを望んでいます」。野暮ったいスーツのイメージを完全に消し去る、最適なシルエットを見つけ出すためにトム・フォードとティマイムは一週間を費やしたのでした。
私たちは、運動能力が高く、強くて、スポーティな男性を求めていました。 スーツがタイトであるという事実は、美的な理由だけではなく、彼の身体能力を示す肉体の動きを見せたかったからです。 ダニエル・クレイグのボンドには走ることが出来る脚があることがわかります。 クールに見えて若々しい印象のスーツを着ることもできるほど、丹念にボディメイクしているということをファンに示すことができて良かったです。 彼はバーでマティーニを飲みながら、戦うために着飾った人だ。 彼は常に臨戦態勢であり、スーツのシルエットがそれを示しています。
ジャニー・ティマイム
トム・フォードを愛したスパイ
『スカイフォール』のトム・フォードのスーツは、60年代のショーン・コネリーのボンドスーツの伝統に戻りつつも、前作よりもさらに肉体美が強調されたボディコンシャスなものになっています。でありながらタイムレスなクラシック感と、21世紀的なトレンド感が見事に融合されています。
そして、戦闘服のようなテーラードスーツのシルエットが、40男でありながら、鍛え上げた肉体を駆使して戦う説得力を生み出し、男たちの憧れと女性たちのときめきを生み出していくのです。
スーツが肉体を覆い隠すのではなく、スーツが肉体をより輝かせるという発想の転換を、ジェームズ・ボンドというキャラクターの力を借りて、トム・フォードは見事に表現しています。
そして、このスーパースーツを着て、車、バイク、列車、ショベルカーとクライマックスのようなオープニングアクションをトルコ・イスタンブール(当初インドで撮影予定だった)で繰り広げた後に、やって来るアデル(1988-)による主題歌。
77人編成のオーケストラの豊かな伴奏とともに、当時妊娠中だったアデルの低音が妖しく艶やかに震えるヴォーカルにより、21世紀のニューボンドのエレガンスは世に解き放たれたのでした(第85回アカデミー賞で、歌曲賞を受賞)。
ジェームズ・ボンドのファッション1
オープニングのイスタンブール・スーツ
- トム・フォードのグレーのシャークスキン・ウールスーツ(スーパー110)、スリムノッチラペル、丈が短めのジャケットは、シングルベントで、段返りの三つボタン、真ん中のボタンだけをとめているのがポイント。サイドアジャスターの股上が浅めのトラウザー
- トム・フォードのシルバー×ブラックのバスケット織りのナロータイ、フォアインハンドノット
- トム・フォードのホワイトドレスシャツ、表前立て、タブカラー
- トム・フォードのホワイトゴールドのシルバーシリンダー・カフリンクス
- 白のポケットチーフ
- オメガのシーマスター「プラネットオーシャン」
- クロケット&ジョーンズの黒のカーフレザーのチャッカブーツ「テットベリー」
アレキサンダー・マックイーン×プーマのシューズを履く敵。
ダニエル・クレイグは、疾走する列車の屋上での肉弾戦など、出来る限り自分自身で演じることにこだわりました。 その列車の格闘シーンでパトリスが、アレキサンダー・マックイーン×プーマの「ストリート・クライム・ミッド」を履いています(2005年からコラボしている)。
ジェームズ・ボンドのプチプラ・コーデ
なんとボンドムービーでプチプラ・コーデが見られようとは、このシーンのコンセプトは、クレイグ曰く「アル中になって落ちぶれた感じ」を出したかったということです。
しかし、プチプラ・コーデにリーバイスのヴィンテージ・レザージャケットを着ているのですが、はっきり言って、全然みすぼらしくないです。むしろボンドの男臭さがコッテリしていて中年男の色気でムンムンしています。
プチプライス・アイテムの魅力とは、こういう避暑地において、リラックスしたテイストを出す時に、実に効果的です。そして、何よりも、ボンドの肉体美が、プチプラ・コーデを10倍増しにする役割を果たしています。
結局のところ男性にとってファッションとは肉体から始まり、肉体で終わるものなのです(撮影当時43歳だったダニエル・クレイグは6ヶ月前からボディメイク開始していました)。
さらに言うと、この作品で散りばめられているスーツ以外のファッション=ジーンズとスポーツウェアは、今ではスーツの位置と取って代わり、単調な制服のようなものになってしまいました。だからこそ、テーラリングされたスーツを着てボンドが現れるたびに、ある意味、新鮮な男性のダンディズムを感じることが出来るのです。
ジェームズ・ボンドのファッション2
プチプラ・コーデ
- ダークブラウンのシープスキンの革ジャン、リーバイス・ヴィンテージ「メンロ」(1930年代のリーバイスのライン)、フロントジップ
- ライトカーキーのトップマンのチノパンツ、股上が浅くタイトフィット、コットン100%
- ザラ・ユースのライト・ブルーの小花柄のシャツ
- ベージュスエードのZARAのデザートブーツ
作品データ
作品名:007 スカイフォール Skyfall (2012)
監督:サム・メンデス
衣装:ジャニー・ティマイム
出演者:ダニエル・クレイグ/ハビエル・バルデム/ベン・ウィショー/ベレニス・マーロウ/ナオミ・ハリス