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【シャネル】キュイール ドゥ ルシー(エルネスト・ボー/ジャック・ポルジュ)

シャネル
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キュイール ドゥ ルシー

原名:Cuir de Russie
種類:オード・パルファム
ブランド:シャネル
調香師:エルネスト・ボー、ジャック・ポルジュ
発表年:2016年(1924年)
対象性別:ユニセックス
価格:75ml/33,000円、200ml/57,200円
公式ホームページ:シャネル

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ココ・シャネルとロマノフ王朝

1921年のココ・シャネルとドミトリー・パヴロヴィチ。©CHANEL

2007年にシャネルのプレステージ・コレクションとして「レ ゼクスクルジフ ドゥ シャネル」がスタートしました。最初の10種類の香りのひとつとして、「キュイール ドゥ ルシー」(オード・トワレ)が、シャネルの3代目専属調香師ジャック・ポルジュにより調香されました。

それは1920年代に発売されたシャネルの4種類の人気フレグランスを現代風に復刻させた香りのひとつでした。特に「キュイール ドゥ ルシー」ほど、伝説に包まれた香りはありません。

ドミトリー・パヴロヴィチ大公。

1930年代のココ・シャネルとドミトリー・パヴロヴィチ。

別名〝皇帝の香り〟。この香りの由来に登場するのはドミトリー・パヴロヴィチ(1891-1941)というロシアのラスト・エンペラー・ニコライ2世の従弟にあたる没落貴族です。

怪僧ラスプーチンを暗殺し、激怒したアレクサンドラ皇后により、ロシアから追放され、1918年にイギリスに亡命し、1920年にパリに移住。そして、生活のためにシャンパンのセールスマンをしていました。

1920年から22年にかけてドミトリー大公は、ココ・シャネルと交際していました。そして、シャネルは、亡命ロシア貴族の生活を支援するようになり、ロシアの宮廷文化を吸収することになります(毛皮を見せびらかすために表に張るのではなく、裏打ちのために使うべきという思想もここから得る)。

ロシア文化が、ココ・シャネルに与えた最も大きなものは、ロマノフ王朝において盛んだった香水文化でした。ある日、大公とシャネルはグラースに行き、そこで、ロシアのアルフォン・ラレー社のスター調香師だったエルネスト・ボーを紹介しました。ドミトリー大公が二人を結びつけたことにより、1921年に、シャネルN°5は誕生したと言っても過言ではありません。

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スモーキング・ウーマンのための香り

©CHANEL

©CHANEL


シャネルの初代専属調香師となったエルネスト・ボーが1924年(1927年説もある)に調香したものが「キュイール ドゥ ルシー」=ロシアの皮のオリジナル・ヴァージョンです。

その香りは、実際に皮革を含むのではなく、1885年に開発されたキノリンという合成香料を使用しています。そして、宮廷において貴重な宝石類を包むために使用された、バーチタールが香る高級なトナカイの革の香りを再現したのでした。

1920年代に、女性が公衆の面前で煙草を吸うようになったことから、メンズのフレグランスの香調だった、スモーキー及びレザーを、新時代の女性に向けて新解釈したスキャンダラスな香りでした。

このオリジナル版は、アルデハイドが多分に含まれたスモーキーな(バーチでなめされた)アニマリックレザーの香りでした。

1983年に、シャネル復興にあたり、ブティック販売のためにジャック・ポルジュが再調香し、さらに2007年に「レ ゼクスクルジフ ドゥ シャネル」のコレクションのために、最終調香しました。オリジナルに存在したアニマルとスパイシーさは、抑えられています。2016年9月には、オード・パルファム・ヴァージョンが発売され、これが現行品となっています。

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エレガントな女性のためのシャネルレザーの香り


贅沢に何種類ものシトラスが混ざり合うカクテルシャワーに、ハーバルなクラリセージを加え、アルデハイドを注入されていく、(煌きながらもドライかつ)ソーピィーなシトラスの香りからこの香りははじまります。

すぐにアーシィーかつフレッシュなベチバーと甘くスパイシーなカーネーションに導かれ、ジャスミンを中心としたローズ、イランイランのフローラルブーケに包み込まれていきます。

アイリスとヘリオトロープが白い霧のように全体にパウダリーさを与えていく中、バーチが香るスモーキーレザーの風が、その白い霧と、想定外の調和を見せてくれます。それはどこかバターのような柔らかさを感じさせます。

大人の女性のエレガンスをスモーキーに燻り出したようなレザー・フレグランスの傑作です。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「香水のレザーの香調は主に2つの原料から得られる。スモーク風に調整されたバーチタールとイソキノリンで、前者は天然の、後者は合成の素材である。同時に使われるとは限らず、キュイール ドゥ ルシーにはバーチタールしか入っていない。」

「ロシアやカナダのような樺(バーチ)が豊富にある地域では今でも、香りのある黒い液体になるまで樹液を大鍋で煮詰める。得られるものはまちまちだが、炙られたものは数分もするとさまざまな化学反応を起こすため、常に心地よい複雑な香りがする。」

「残念なことにバーチタールの使用は現在EUで規制されてしまい、これがキュイール ドゥ ルシーにどう影響してくるのか心配だ。」「すばらしいのは、この贅沢な革の香りを、なめした動物の皮とはまったく無関係なものを合わせて生み出しているところだ。イランイラン、ジャスミン、アイリスがすべてトップノートから感じ取れる。」

「キュイール ドゥ ルシーと名づけられた香水はほかにもたくさんあったが、どれも甘過ぎるかスモーク調が強過ぎた。これは真に優れたもので、クラシックな香水の金字塔として損なわれることなく残っている。ボトルに込められた、もっとも贅沢で純粋な香気。」と5つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:キュイール ドゥ ルシー
原名:Cuir de Russie
種類:オード・パルファム
ブランド:シャネル
調香師:エルネスト・ボー、ジャック・ポルジュ
発表年:2016年(1924年)
対象性別:ユニセックス
価格:75ml/33,000円、200ml/57,200円
公式ホームページ:シャネル


トップノート:アルデハイド、クラリセージ、カラブリア産ベルガモット、シチリア産マンダリンオレンジ、チュニジア産オレンジブロッサム、レモン
ミドルノート:ジャスミン、ローズ、イランイラン、アイリス、ベチバー、カーネーション、シダー
ラストノート:アルバニア産バーチ(カバノキ)、アンバー、ヘリオトロープ、レザー、タバコ、ムスク、バニラ