究極のフレグランスガイド!各ブランドの聖典ページ一覧にすすむ
カイエデモード香水図鑑を応援する|2025年5月30日~6月1日終日

2025年夏に9年目を迎えるカイエデモード香水図鑑。このたび聖地調査が完了し、5月より東京・横浜・名古屋・大阪・京都・神戸の約100か所の『香水超聖地ガイド』の更新を行っております(6月中に完成予定)。さらに、4月末より、これからの日本の香水業界を動かしていく25人のキーパーソンのインタビュー記事『フレグランス・アイコン・インタビューズ』を公開させて頂いております。

この大いなる活動にあたり、2025年5月30日~6月1日終日にあたりご寄付を募らせて頂きます(エックスのDMが半日不調であったため1日延期させて頂きます)

詳細ページへ

【シャネル】ミシア(オリヴィエ・ポルジュ)

シャネル
©CHANEL
シャネル
この記事は約6分で読めます。

ミシア

原名:Misia
種類:オード・パルファム
ブランド:シャネル
調香師:オリヴィエ・ポルジュ
発表年:2015年
対象性別:女性
価格:75ml/37,400円、200ml/66,000円
公式ホームページ:シャネル

スポンサーリンク

バレリーナたちのメイクアップの香り

©CHANEL

©CHANEL

この香りは、私のはじめてのシャネルです。

ガブリエル・シャネルにとって、ミシア・セールという女性との出会いは、彼女の人生のターニング・ポイントでした。ミシアによって、シャネルには、たくさんの新しい道が開けました。「ミシア」は、そんな彼女の名から付けられた香水です。しかし、私は、ミシア・セールという女性そのものを香りとして捉えようとはしませんでした。

シャネルがミシアによってもたらされた匂いを捉えることによって、成功の香りを生み出そうと考えたのです。だから私は、シャネルが衣裳デザインをしたバレエ・リュス(ミシアがスポンサーであり、このバレエ団に芸術性と、過度なメイクアップと、衣裳センスを持ち込んだ)の舞台裏の空気とバレリーナたちのメイクアップの香りを選びました。

オリヴィエ・ポルジュ

2007年にシャネルのプレステージ・コレクションとして「レ ゼクスクルジフ ドゥ シャネル」がスタートしました。そして、2015年3月に、ココ・シャネルの親友ミシア・セールの名をとった15番目の香り「ミシア」が発売されました。

「ラグジュアリーな心地よさと謎めいた魅力に満たされる香り」というフレーズと共に発表されたローズ×バイオレット(スミレ)の香りは、1978年からシャネルの3代目専属調香師を務めたジャック・ポルジュの息子であり、4代目専属調香師に就任したオリヴィエ・ポルジュによる〝はじめてのシャネル〟です。

私の愛して止まないフレグランスの一つにシャネルの「n°19」があります。ニオイ・イリスの根茎は、フローラル、パウダリー、ウッディーの三つの香りを同時に表現できます。「ミシア」にはイリスのパウダリー・ローズな一面が含まれています。

オリヴィエ・ポルジュ

スポンサーリンク

オリヴィエ・ポルジュのはじめてのシャネル

ヴェニスのミシア・セール。

1901年のミシア・セール。残された写真にろくなものが存在しないので、実体がイマイチ掴めない女性。

ミシア・セール(1872-1950)は、ピアニストであり、20世紀初頭の芸術家のパトロンでした。フランツ・リストを友人に持つ一家という恵まれた環境の中で、音楽の英才教育を受け、10代にはガブリエル・フォーレからピアノ・レッスンを定期的に受けました。

そして、マルセル・プルースト、クロード・モネ、ルノワール、ドビュッシー、アンドレ・ジッドらとも親交を深めました。

1905年にフランスの新聞王の妻となり、芸術家のパトロンとなります。20世紀前半のフランスの芸術家の多くは、彼女の庇護を受けました。1917年からココ・シャネルとも深い親交関係を持ち、1919年12月22日にボーイ カペルが事故死した時に、生きる屍となったシャネルを励ましたのも、彼女でした。

ミシアはシャネルの「天才、致命的な機知、皮肉、狂気の破壊性がすべての人々の興味をそそり、驚かせる」部分を大変評価していたのです。そして、支援していたバレエ・リュスの主催者であるセルゲイ・ディアギレフを彼女に紹介したのでした。

1924年には、『青汽車』の衣裳をシャネルが担当することになります(脚本:ジャン・コクトー、カーテン・デザイン:パブロ・ピカソ)。

香りの全てに、20世紀初頭にガルニエ宮で公演されていた、ある日のバレエ・リュスの公演風景が投影されています。真紅の口紅と真珠と羽飾りで飾り立て高揚する観客たち、楽器をチューニングする奏者たち、全身くまなくメイクアップされたバレリーナたち、赤のベルベットのカーテンの裏でウォーミングアップするその姿。そういったものから生み出される匂いのすべてです。

メイローズ(グラース産のローズ)とターキッシュ・ローズを包み込むバイオレット(スミレ)が口紅を連想させ、ベンゾインがメイクアップのパウダーを連想させます。

オリヴィエ・ポルジュ

スポンサーリンク

シャネルとゲランの境界線を歩く香り

©CHANEL

ココ・シャネルが衣裳デザインを担当したバレエ・リュスの『ミューズを率いるアポロ』。1928年。

香水瓶から跳びだすようにアルデハイドに押し出されたライチの香りが現れ、彗星のように消えていきます。いいえ、正確にはバイオレットに溶け込みながら消えてゆきます。まるで「アンソレンス」を連想させるオープニングです。

そして、ピーチとラズベリーの甘さを含んだローズが、バイオレットと結びつきリップスティックの香りを運び、すぐに現れるアイリスがこれまたバイオレットと結びつきパウダーの香りを生み出していきます。

このゲランとシャネルの香りの境界線を歩くような、とても気品のあるミドルノートがこの香りの本懐と言えます。

そして、その背景で燻るベンゾインとトンカビーンにより構成されたスエードレザーの香りが、サンダルウッドと遭遇し、クリーミーアイリスの優しさと温かさで肌の上で休息するように溶け込んでゆきます。

「ミシア」は、男性が、女性のようにコスメの世界を堪能できる香りであり、女性にとって、コスメには踏み込めない領域をフォローするコスメの先にある「美を創造する」香り、つまりは、芸術的な創造意欲を掻き立ててくれる香りなのです。

それはモイラ・シアラーの『赤い靴』(1948)を見ているような躍動感と、現代にはない華やかさをも感じさせる香りです。

まさにこの香りは、天然香料と合成香料と調香師の情熱とシャネルの遺産が、バレエという芸術に憧れた末に生み出された〝しずかに、実にしずかに渦巻くエレガントな情熱の香り〟なのです。

ルカ・トゥリンはこの香りについて、「上流階級のスミレの香り。笑顔を失った「リップスティック ローズ」、驚異的なパワーを失った「パリ」のような香りです」と分析しています。

スポンサーリンク

香水データ

香水名:ミシア
原名:Misia
種類:オード・パルファム
ブランド:シャネル
調香師:オリヴィエ・ポルジュ
発表年:2015年
対象性別:女性
価格:75ml/37,400円、200ml/66,000円
公式ホームページ:シャネル


トップノート:アルデハイド、ライチ
ミドルノート:ターキッシュ・ローズ、グラース・ローズ、ラズベリー、ピーチ
ラストノート:レザー、トンカビーン、ニオイ・イリスの根茎、バイオレット、ラオス産ベンゾイン、バニラ