『007』が最も『007』らしかった時代の最高傑作。
『007/ゴールドフィンガー』で頂点に達したかのように見えたボンド・ムービーの快進撃は実はほんの始まりに過ぎませんでした。本作は前3作品を超える大ヒットとなりました。
そして、作品の1/4が水中で撮影されたというこの作品のオープニングは、グレーのスーツを着たジェームズ・ボンドが空を飛び始まるのでした。
スーツにジェットパックを背負うボンドとダイビングスーツに水中銃を背負うボンド。この作品の強烈な二つのジェームズ・ボンド像が、ビジネスもヴァカンスも極限まで楽しむという「人生を楽しむ男性」を象徴する存在へとボンドを昇華させたのでした。
空を飛んでも、水中に潜っても、ボンドは常にイイ女を見逃さないアンテナを張り、微笑を忘れず、そして、ユーモアのセンスも忘れないのです。
ジェームズ・ボンドの魅力の本質とは、どこか無責任男を髣髴とさせる所にあるのです。彼に最も似合わない言葉は「一生懸命」であり、それは男のエレガンスとは、やせ我慢の美学でもあるということを教えてくれるのです。
史上初めてスーツを着て空を飛んだ男。
ジェームズ・ボンドがオープニングで空を飛んだ瞬間に、世界中の男たちは、この男に一生ついていこうと決めたはずです。
それほど今見てもカッコ良く、現在アパレル及びファッション関係の仕事に従事する20代から40代の(リアルタイムでは見ていない)男性に対しても、影響を与えている「男のダンディズム」を体現するシーンです。
スーツを着るときは完璧にパリッと決め、ヴァカンスに出かけるときは、見るからにリラックスしたリゾートウェアを着ることを信条とすることによって、ファッションのふり幅が広がり、その感度が研ぎ澄まされていくのです。
ボンド・ムービーが現代に至るまで「メンズ・ファッション」を先導している理由は、スーツやタキシードだけでなく、リゾートウェアのお披露目の場としても機能しているからなのです。
ジェームズ・ボンド・スタイル1
ジェットパック・グレースーツ
- テーラー:アンソニー・シンクレア
- ダークグレー、フランネル、3ピーススーツ、シングル、2ボタン。スリムノッチラペル、6ボタンベスト、ノーベント
- ターンブル&アッサーのスカイブルー・ポプリンドレスシャツ
- ブラック・シルクタイ
- ブラックレザー・スリッポンロウブーツ
英国ポップス界のジェームズ・ボンド=トム・ジョーンズ
元は、前作の主題歌を歌っていたシャーリー・バッシーにより歌われた「Mr. Kiss-Kiss Bang-Bang」という曲が主題歌だったのですが、急遽、タイトル名の入った主題歌であるべきというユナイテッドアーティストの主張により、トム・ジョーンズが起用されることになりました。
ジョン・バリーにより急遽作詞作曲されたこの曲は、あまりに高いキーで作られていたため、トム・ジョーンズはレコーディング終了と同時に卒倒したと言われています。
とにかくパワフルかつ、脂汁が飛んできそうな、フェロモン全開の、まさにジェームズ・ボンドの主題歌に相応しい情熱的な曲です。
それにしても、主題歌の候補だったジョニー・キャッシュの曲はどう考えても西部劇の主題歌です。
ボンドムービーに重要な魅力的な悪党
ボンドムービーに必要不可欠なのは、魅力的な悪党の存在です。ここでひとつ間違いを犯してしまいがちなのが、30代の見栄えの良い俳優を起用すると言うことなのですが、そうすると貫禄が失われてしまいます。
ボンドムービーの悪党に最も必要な要素は、ボンドと対等に戦うことが出来るよりも、莫大な財力と組織力と鉄の精神で、「壮大なる悪」を徹底する組織力なのです。だからこそそれだけの組織を率いている説得力=貫禄が必要なのです。
本作で、世界的な犯罪組織スペクターのNo.2であるラルゴを演じたアドルフォ・チェリ(1922-1987)にはその貫禄がありました。ロマンスグレーと日焼けした肌になぜか眼帯という外見に、ファッションセンスも歴代の悪党の中でずば抜けた存在でした。
ラルゴ・スタイル1
キャメルコート&ダークグレースーツ
- キャメルコート、3つボタン、ノッチラペル、シングルベント
- ダークグレーのスリーピーススーツ、ウーレンフランネル、ナローラペル、段返り3つボタン、ノーベント、コンチネンタル・スーツ
- クリーム色のドレスシャツ
- 白い水玉模様のブラックタイ
- ブラックレザーシューズ
- ダークグレーのソフト帽
- クリーム色のレザーグローブ
- ブラックレザーの書類バッグ
男なら「ブロンド美女」にミンク・マッサージの優しさを。
ミンク・グローブで女性をマッサージするジェームズ・ボンド(=JB)。男ならこうありたいと思わせる瞬間。ちなみに、この女性(モーリー・ピータース。老けて見えるが1942年生まれの当時20代前半)は、JBが療養中の療養所の女性看護士であり、JBが全身マッサージ器で殺されかけた時に、ピンチをチャンスに転じさせてセックスに持ち込んだのでした。
こういった展開の安易さが、男性にとっては(微笑ましく)魅力的に移り、ある種の女性にとっては嫌悪感に結びつくわけなのです。
そんな女性には、もちろんミンクのマッサージも効かないことでしょう。私はどうせならJBにミンク・マッサージを受けて喜ぶオンナでありたいと望みます。
作品データ
作品名:007/サンダーボール作戦 Thunderball(1965)
監督:テレンス・ヤング
衣装:ジョン・ブレイディ
出演者:ショーン・コネリー/クローディーヌ・オージェ/アドルフォ・チェリ/ルチアナ・パルッツィ/マルティーヌ・ベズウィック
- 【007/サンダーボール作戦】最初から最後まで空飛ぶジェームズ・ボンド
- 『007/サンダーボール作戦』Vol.1|空を飛ぶショーン・コネリー
- 『007/サンダーボール作戦』Vol.2|ショーン・コネリーとケン・アダム
- 『007/サンダーボール作戦』Vol.3|ショーン・コネリーとダイビングウェットスーツ
- 『007/サンダーボール作戦』Vol.4|ショーン・コネリーとラグジュアリー・リゾート
- 『007/サンダーボール作戦』Vol.5|クローディーヌ・オージェという絶世の美女
- 『007/サンダーボール作戦』Vol.6|クローディーヌ・オージェ=水中銃を持つ女
- 『007/サンダーボール作戦』Vol.7|クローディーヌ・オージェとウェットスーツ
- 『007/サンダーボール作戦』Vol.8|元祖・峰不二子 ルチアナ・パルッツィ
- 『007/サンダーボール作戦』Vol.9|ルチアナ・パルッツィとレーシングスーツ