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オードリー・ヘプバーン

『シャレード』Vol.4|オードリーとユベール・ド・ジバンシィ

オードリー・ヘプバーン
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オードリー・ヘプバーンとユベール・ド・ジバンシィの関係

私は『ローマの休日』で初めてオードリー・ヘプバーンという女優を見た。初めての出会いであれほど心騒ぐのもめったにないことだ ― 最初にフレッド・アステアやマーロン・ブランドを見たときと同じだ。私にとっては、間違いなく彼女もこうした数少ない芸術家のひとりに数えられる。

スタンリー・ドーネン

1954年の『麗しのサブリナ』から続く、オードリー・ヘプバーン(1929-1993)とユベール・ド・ジバンシィ(1927-2018)の友情が、この作品の中で、よりお互いの価値を高め合う相乗効果を生み出しています。

そんな二人の結びつきの深さを示すある出来事がこの作品の翌年に、オードリーが『マイ・フェア・レディ』の撮影を終えた直後にありました。

オードリーは、ジバンシィの初の香水である「ランテルディ」の広告(1958年)に無償で協力したのでした。ユベールは何度もそれは公平ではないとギャランティーの支払いを希望したのですが、オードリーは「サブリナで示してくれたあなたの寛大な態度にはとても感謝してるの」(『麗しのサブリナ』においてジバンシィのクレジットが出なかった)とだけ答え、受け取りを拒絶するだけでした。そして、常にジバンシィのコレクションに駆けつけ、毎回市場価格で洋服類を購入していたのでした。

そんな2人の関係に疑問を持った、ハリウッドでも有数の力を持つオードリーの広報エージェント、ヘンリー・ロジャースは、当時のオードリーの夫メル・ファーラーの同意のもと、ジバンシィ社に衣装の無償提供を提案したのでした。

しかし、すぐにその経緯を知ったオードリーが、ロジャースに、涙ながらに「私とユベールは兄妹のような関係なのです。余計なことはしないで!」と言い放ち、提案を撤回させたのでした。

一人のファッション・デザイナーと一人のハリウッド女優の利害関係を超越した関係。オードリーのスタイルが不滅なのは、彼女の生き様も含めて、真に〝洗練〟されているからでしょう。真のスタイルとは、ファッションに対する愛よりも、強烈な自己愛だけが感じられるものではないのです。

オードリー・ヘプバーン。1968年、ローマ。

1960年代にローマでパパラッチが撮影。スタンドカラーのウールドレス。バッグはエルメスと思われる。

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レジーナ・ランパートのファッション10

パジャマ
  • ネイビーブルーパジャマ、襟や袖に白いトリム
  • ブルーのイブニングスリッパー

60年代の映画においてインテリアは見逃せないポイントです。

凛としたネイビーブルーのパジャマ。

この角度のオードリーが大好き!

このアップスタイルもとても似合っています。

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コートとコートで会話するロマンティックな追いかけっこ

コート姿の女性が走る姿はいつも美しい。

撮影の後、ケーリー・グラント(1904-1986)の59歳の誕生日ディナーの後、宿泊先のホテルのプールサイドでグラントがジェームズ・コバーンに、オードリーのジバンシィの衣裳に対して「少し当惑している」と打ち明けました。そして、「あの格好はいささか風変わりすぎるよ。あれじゃ極端すぎる。あまりにファッショナブルだよ」と続けたのでした。

コバーンは〝彼は映画が長持ちするためにはあまりにファッショナブルすぎてはいけないことを知っていたので、自分はいつも古すぎもせず新しすぎもしない中間の服装をしていた〟と回想していました。

『シャレード』のオードリーとジバンシィのパートナーシップのすごさは、そういったセオリーを凌駕して、ずっとファッション・シーンに影響を与え続ける〝不滅の最先端〟を生み出したところにあるのです。

特にコート姿のオードリーとグラントの二人が、パリの地下鉄を追いかけっこする姿の心地よさ。これぞファッションの持つ力。コートが喜ぶ設定です。走って、座って、走って、座る。その時に見えるコートのシルエットの美しいこと美しいこと。

赤い車両の中で映えるマスタードイエロー。階段の赤と青の連続する広告の中を駆け上がるオードリーのコート。〝不滅のスタイル〟は映像のファンタジーの中に女優がパズルの最後のピースとしてはまった瞬間にのみ生み出されるのです。

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レジーナ・ランパートのファッション11

マスタードイエローのウールコート
  • デザイナー:ユベール・ド・ジバンシィ
  • マスタードイエローのブークル・ソフトウールコート。シングル。4つの黒ボタン。クリストバル・バレンシアガの影響を受けているスタンド・カラー。曲線的なショルダーラインを生むラグランスリーブ。ウエストをシェイプ。ポケットの縫い目は隠されミニマルなイメージを。バストとウエスト上にボーダーステッチ。縦のステッチは両サイドに2本だけ。膝丈。裏地はシルクタフタ。ジバンシィ62/63AW
  • 黒のレザー手袋
  • エルメスのバッグ
  • レネ・マンシーニのシューズ。ボウ付き黒レザーキトゥンヒール
この作品において、オードリーがユベール・ド・ジバンシィを愛した理由のひとつでもある「あらゆる色に、エレガンスの魔法をかけていく」才能を如何なく発揮しています。その代表的な例がこのウールコートなのです。

ケーリー・グラントのステンカラーコートもタイムレスです。

ウールコートとレザーグローブの絶妙なバランス。

上から見るとこのコートのシルエットの素晴らしさがより分かります。

ショルダーラインの丸みに注目。

現存していたこのマスタードイエローコート。

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レジーナ・ランパートのファッション12

マスタードイエローのシースドレス
  • デザイナー:ユベール・ド・ジバンシィ
  • マスタードイエローのウールシースドレス。半袖、ファネルネック。ジバンシィ62/63AW
  • ジバンシィの黒いスエードの太ベルト。バックルもスエード。62/63AW
  • レネ・マンシーニのシューズ。ボウ付き黒レザーキトゥンヒール
  • パールのイヤリング

コートの下は常に半袖かノースリーブ。

マスタードイエローとブラックのツートーンコーデ。

まるでジェームズ・ボンドのようなケーリー・グラント。

ケーリー・グラントは、男性にとって美しく年を取る理想像です。

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繊細なカラーセンスが、美人を作り上げる。

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オードリーが並はずれて神秘的なところは、「オードリーは薔薇の花びらのなかで暮らしていて、モーツァルトしか聴いたことがない」とみんなに思わせているのに、実際はそうじゃないということだ。

アンドレ・プレヴィン(指揮者。『マイ・フェア・レディ』(1964年)の音楽も担当)

「私のクローゼットは何色?」。女性の人生を支配するのは、カラーです。そして、もし男性が女性を理解したければ、その女性のクローゼットを見る機会があればほぼその女性の全てが見えてくることでしょう。そこに存在するカラーが、彼女の全てなのです。

愛着のあるものがいくつかあるクローゼットには、研ぎ澄まされた精神が宿ります。カラー順に並べられているクローゼットには、リズムがあります。乱雑に散らばるクローゼットには、ノイズがあります。

繊細なカラーセンス=カラーの調和を、自分に生かすことに喜びを感じている女性はただちに同性の〝憧れ〟を勝ち取ることになるのです。そして、それはカラーの邪魔をする文字が並び、いかに自分が〝高級であるかをひけらかすスタイル〟とは対極に位置するのです。

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レジーナ・ランパートのファッション13

ダークネイビーのスカートスーツ
  • デザイナー:ユベール・ド・ジバンシィ
  • ダークネイビーのスカートスーツ。くるみボタン。クロップドジャケット
  • 白のピルボックスハット
  • エルメスの白の手袋
  • エルメスの黒パテントのクロコダイルレザーのハンドバッグ(ヘプバーンが61年に購入した私物)
  • パールのイヤリング
  • レネ・マンシーニのシューズ。ボウ付き黒レザーキトゥンヒール

ダークネイビーとホワイトのコントラスト。

柔らかな毛皮のピルボックスハット。




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作品データ

作品名:シャレード Charade(1963)
監督:スタンリー・ドーネン
衣装:ユベール・ド・ジバンシィ
出演者:オードリー・ヘプバーン/ケーリー・グラント/ウォルター・マッソー/ジェームズ・コバーン/ジョージ・ケネディ