イン ザ ガーデン オブ グッド アンド イーブル
In the Garden of Good and Evil キリアン・ヘネシーは2012年にキリアンのブランドローンチ5周年記念として、5作品からなる四番目のコレクション「イン ザ ガーデン オブ グッド アンド イーブル —エデンの園で紡がれるアダムとイブの物語(善悪の園の中で)— 」を発表しました。
これは、アダムとイヴのエデンの園の物語(原罪)の現代的なメタファーとして、禁じられた歓びと秘密の欲望を描いたコレクションになります。各香水は、原罪の霧、肉欲の罪、聖書の誘惑を表し、エデンの園の物語を明らかにしていきます。
特に、エデンの園の物語において興味深いことは、誘惑の物が禁断の果実になるという所だったので、キリアンは全てのコレクションを禁断の果実を中心に作ることに決めました。
最終的に2015年までに発表されたこのコレクションの香りは、当初キリアンのメンターであるジャック・キャヴァリエと、ディオールのジャドールを生み出したカリス・ベッカーにより調香される予定でした。
しかし、2012年1月に、キャヴァリエがルイ・ヴィトンの専属調香師に就任することになり、アルベルト・モリヤスが引き継ぐ形でこのコレクションからキリアンの香りに関わることになりました。
私はずっと〝誘惑〟のテーマで作品を作り出したいと考えていました。ただし、テーマが〝誘惑〟だけあり、しっかりした芸術的な基礎を持つものでないと意味がないと考えていました。
だからこそ、私は〝誘惑〟の根源(聖書の誘惑や原罪)を突き詰めてみようと思いました。私が特にこのテーマで惹きつけられたことは、すべての人にとってそのイメージと基準が全く同じであるということでした。
どんな人も〝誘惑〟から、蛇、禁断の果実、ぶどうの葉を想像します。私は、香水の世界の中でこれらのシンボルで遊んでみたかったのです。
キリアン・ヘネシー(以下すべての引用は彼のもの)
このコレクションは、純真と誘惑の究極の物語なのです。
このコレクションは挑戦でした。なぜなら私はフルーティーノートで香水を作ることに慣れていなかったからです。フルーティーで甘い香水はとても大衆的な香りになり、それは私の世界観と相容れなかったためです。
このコレクションは、5つのチャプターから構成され、各香水を暗示するテーマがあります。
このコレクションは、純真と誘惑の究極の物語なのです。
- フォービドゥン ゲームズ(禁じられた遊び) – 禁断の果実をめぐって、悪魔と戯れているとき(2012年)
- グッド ガール ゴーン バッド(良い娘が悪い娘へと) – リンゴをかじり、悪い子になってしまったイヴ(2012年)
- イン ザ シティ オブ シン(罪の都市の中で) – 誘惑が生じる場所(2012年)
- プレイング ウィズ ザ デビル(悪魔との戯れ) – 悪魔が禁断の果実を唆す瞬間(2013年)
- ヴレヴ クシュ アヴェク モワ(私と寝ない?) – 肉欲の罪(2015年)
黄金の蛇が這う、独特なクラッチケース
私が魅力的に思ったのは、今日の誘惑の形は何か?今日の世界では誘惑は何を意味するか?という考えでした。私は全ての種類の誘惑に立ち戻り、ついには聖書の誘惑、原罪の誘惑に行きつきました。
この考えの面白いところは、全ての人が心に同じイメージを抱くというところです。私たちは、アダムとイヴだけでなく、イヴを誘惑した蛇、禁断の果実であり心を惹きつけるリンゴについても考えました。
また、肉欲についても考えています。なぜなら、それは『彼ら(アダムとイヴ)が(神に)従わなかったから、私はとても幸せ』なはずだからです。それが無い人生を想像してください。
このコレクションのクラッチケースは、アールデコに影響を受けており、キリアンが個人的に集めている1920年代から1930年代のヴィンテージのシガレットケースと1933年に発売されたヴァン・クリーフ&アーペルのミノディエール(化粧品バッグとハンドバッグを融合した伝説の箱)にインスパイアされています。
キリアン自身はタバコを吸いませんが、そのシガレットケースは男性や女性が持ち運ぶ間違いなくゴージャスなアイテムだとキリアンは思っており、非常に愛していたのです。そしてそのシガレットケースの上にデザインされた黄金の蛇を置き、クラッチが生まれたのでした。
クラッチに選ばれた白は純粋と無垢の象徴、ゴールドは贅沢と豊かさの象徴であります。蛇は24金でできており、その目にスワロフスキークリスタルが輝いています。
旧約聖書『創世記』アダムとイヴと蛇の誘惑
2012年から2015年にかけて発売されたキリアンの四番目のコレクション「イン ザ ガーデン オブ グッド アンド イーブル —エデンの園で紡がれるアダムとイブの物語(善悪の園の中で)— 」をより深く楽しむための参考資料として、旧約聖書『創世記』より抜粋した文章を掲載させて頂きます。
天地創造
主なる神は、土(アダマ)の塵で人(アダム)を形づくり、その鼻に命の息を吹き入れられた。人はこうして生きる者となった。主なる神は、東の方のエデンに園を設け、自ら形づくった人をそこに置かれた。主なる神は、見るからに好ましく、食べるに良いものをもたらすあらゆる木を地に生えいでさせ、また園の中央には、命の木と善悪の知識の木を生えいでさせられた。
主なる神は人に命じて言われた。
「園のすべての木から取って食べなさい。ただし善悪の知識の木からは、決して食べてはならない。食べると必ず死んでしまう。」
人と妻は2人とも裸であったが、恥ずかしがりはしなかった。
蛇の誘惑
主なる神が造られた野の生き物のうちで、最も賢いのは蛇であった。蛇は女に言った。
「園のどの木からも食べてはいけない、などと神は言われたのか。」
女は蛇に答えた。
「わたしたちは園の木の果実を食べてもよいのです。でも、園の中央に生えている木の果実だけは、食べてはいけない、触れてもいけない、死んではいけないから、と神様はおっしゃいました。」
蛇は女に言った。
「決して死ぬことはない。それを食べると、目が開け、神のように善悪を知るものとなることを神はご存知なのだ。」
女が見ると、その木はいかにもおいしそうで、目を引き付け、賢くなるように唆していた。女は実を取って食べ、一緒にいた男にも渡していたので、彼も食べた。2人の目は開け、自分たちが裸であることを知り、2人はいちじくの葉をつづり合わせ、腰を覆うものとした。
神は女に向かって言われた。
「お前のはらみの苦しみを大きなものにする。お前は、苦しんで子を産む。お前は男を求め、彼はお前を支配する。」
神はアダムに向かって言われた。
「お前は、生涯食べ物を得ようと苦しむ。…塵にすぎないお前は塵に返る。」
アダムは女をエバ(命)と名付けた。彼女がすべて命あるものの母となったからである。
主なる神は言われた。
「人は我々の1人のように、善悪を知るものとなった。今は、手を伸ばして命の木からも取って食べ、永遠に生きる者となるおそれがある。」
主なる神は、彼をエデンの園から追い出し…。
コレクション全五種類+二種類
私の仕事は、人々が望む香水を提供することではありません。人々が想像もできないような香水を作ることなのです。
本コレクションで、サブタイトルが無いのは、このコレクションには必要なかったからです。
以下、実際にキリアンの接客をしておられた監修者によるかなり貴重な説明を追記しておきます。話やすいように、少し拡大解釈しているとのことですが、かなり参考になるはずです。
2012年
イン ザ シティ オブ シン(カリス・ベッカー)
フォービドゥン ゲームズ(カリス・ベッカー)
グッド ガール ゴーン バッド(アルベルト・モリヤス)
悪魔の蛇にそそのかされて、ついに禁断の果実をかじってしまったアダムとイヴ。対価に得たものは知恵でした。それまで裸で過ごしていたのに、さっと葉っぱで体を隠し、善悪と恥を知ったのです。
この香水は、そんなGood Girl(良い子)がGone Bad Girl(悪い子になる)様子を香りで表現しています。最初はオスマンサス(金木犀)とジャスミンサンバックの清楚な香りから始まり、次第にメイローズ、ナルシス(水仙)、チュベローズの小悪魔的な官能性を持つ香りが広がっていきます。最後は、アンバーとシダーウッドが、果実に酔いしれた後の罪悪感を持つが如く、快楽を終焉へと導いていきます。
この香りは、普段は真面目に、清楚に過ごしている人でも、心のどこかには誰にも言えない欲望が潜んでいるという人間の隠れた二面性を表しています。さぁ、この香りで、あなたの言えない欲望を解放させましょう!!
2013年
プレイング ウィズ ザ デビル(カリス・ベッカー)
裸で性を知らずに無邪気に遊んでいるアダムとイヴに、禁断の果実を悪魔の蛇がそそのかす瞬間を描いた作品です。「悪魔との戯れ」という名前の通り、禁断の果実ピーチを中心に、ブラッドオレンジやブラックカラント、ライチが食べたくなるようなジューシーさを描く一方で、サンダルウッドやパチュリ、バニラが囁く悪魔のアニマリックさを表現します。「フォービドゥン ゲームズ」より少し大人に近づいた香りであり、さらにジューシーになったピーチ(禁断の果実)が囁いてきます。
2015年
ヴレヴ クシュ アヴェク モワ(アルベルト・モリヤス)
ついに禁断の果実を食べてしまったアダムとイヴ。計らずも得てしまった知恵によって、男女という性を理解し、善悪を知り、神にエデンの園から追放されます。そんな大人になって、性に目覚めた二人が描く夜の物語、エデンの園の新章がこの香りです。
爽やかなネロリと明るく誘惑するイランイラン、チューベローズ、ブルガリアンローズのハートノートが二人の終わらない初夜を描き出し、バニラとシダーのセンシュアルなベースノートが溢れ出る欲望を反映させています。しかし、そんな妖艶さを上品にまとめあげているのは、輝くガーデニアと落ち着いたサンダルウッドが性を知ったばかりの二人のイノセンスさを表現しているからなのかもしれません。
50mlボトルにつくクラッチケースは他の3つとは異なり、黒地に二匹の蛇が這っているケースになります。それはまるで純粋だったアダムとイヴが悪魔の蛇になってしまったかのようであり、二人の夜の姿を描いているとしか思えません。
番外編
グッド ガール ゴーン バッド エクストリーム(アルベルト・モリヤス)
グッド ガール ゴーン バッド オー フレッシュ(アルベルト・モリヤス)