ランソンディエール|香りの名は「放火魔」。あなたの中のルタンスを焼き尽くせ!

セルジュ・ルタンス
©Serge Lutens
セルジュ・ルタンス
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ランソンディエール

原名:L’Incendiaire
種類:パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2014年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/55,000円

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香りの名は「放火魔」。あなたの中のルタンスを焼き尽くせ!

©Serge Lutens

2014年10月1日にセルジュ・ルタンスが、50ml/600ドルする最高級コレクションを発表しました。その名も『セクションドール』です。フランス語で〝黄金比率〟を意味するこのコレクションから第一弾の香りとして発売されたのが「ランソンディエール」でした。

フランス語で〝放火魔、焼夷弾〟を意味するこの煮込んだ果実(プラム)と動物性香料とクローブ、クミンなどのスパイスがブレンドされたスモーキーなオリエンタルウードの香りは、クリストファー・シェルドレイクにより調香されました。

2018年2月にかつて存在したセルジュ・ルタンス銀座と資生堂 ザ ストアの二店舗でのみ「セクションドール」が上陸した時、「炎の宣告」という邦題がつけられました。

セルジュ・ルタンスがはじめてウードの世界に飛び込んでいった〝記念碑的な香り〟なのですが、西洋の香水市場に、アラブと中東という概念を持ってきた存在とも言えるこのブランドからしてみると、遅すぎる、ウードとの瓦解の瞬間と言えます。

2022年にこのコレクションは廃盤となりました。

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ジョルジュ・メリエスの1906年のサイレント映画『放火魔たち』

私は「セクション」という言葉を使って、離脱や分離を表現している。この黒い世界からの離脱は、輝かしい新たな分裂をもたらします。

このように分断された私は、人生の最初の瞬間にあった、忘れ去られながらも時代を超越したイメージを呼び覚ます。私の右側、影の端に触れるように、別の光の中で、それは王冠を照らし出す。それは、もう一人の私のものであるかもしれない王冠だ。

この物語の主人公は私だ。怒りを情熱へと昇華させる。私の攻撃性は恐怖を隠し、勇気を奮い立たせる。「ランソンディエール」は私に必要な火花を与えてくれる。そして自らの炎を宣言することで、内なる燃え盛る炎に火がつき、我を忘れる。私のヒロインは、私の臆病さの深淵から湧き上がり、私の欠点は彼女の美徳の黄金の輝きを浮き彫りにする。それは、たとえその喪失を嘆き悲しむ時でさえ、私の最も暗い時間に私を支えてくれる愛なのだ。

お前の罪は私の罪であり、私はそれをギロチン台まで持っていく。そこでは死刑執行人が、この無法者――すなわち私――の物語を断ち切るために待っているのだ。

しかし、私の運命は完全にあなたの手に委ねられている!

セルジュ・ルタンス公式プレスリリースより

この公式プレスリリースを読んでいると『セクションドール』というコレクションの成り立ちが、奇術師から、映画監督に転身し、映画創成期において〝映画の魔術師〟と呼ばれたジョルジュ・メリエス(1861-1938)の影響を強く感じます。

1906年には『Les Incendiaires(放火魔たち)』というサイレント映画を作っており、ギロチン台も登場します。奇術師が映像の世界に進出したのと同じように、メイクアップの魔術師が、香水の世界に進出した総決算として『セクションドール』は誕生したのでしょう。

だからこそ、この最初の香りは「放火魔」と名付けられ、一切の香料を明かさず、ルタンスの過去の香りの全ての要素をぎっしり詰め込み、ギロチン台に上げないといけなかったのでしょう。

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魂に火をつけるように「ルタンスの過去の香りの迷宮」を彷徨う。

〝燃えるような砂漠と炎〟からインスパイアされているという、ルタンスの〝はじめてのウードの香り〟は「セルジュ・ルタンスの過去の香りで作られた迷宮」を彷徨うように、過去のルタンスのなじみ深い数々の香りの中に、ゲストスターのようにウードが登場します。

すべての木材を燃やし尽くす放火犯は、感覚の新たな歴史のページをめくる。

そんな「さぁ、あなたの中のルタンスを焼き尽くせ!」と耳元で囁かれるようなこの香りは、水というよりも、冷たい炎を我が身に吹きかけるように、スプレーのひと吹きと共に、(塩味の効いたミネラル感のあるぼんやりとした)ウードとフランキンセンスを中心にアンバー、ラブダナム、ミルラ、ベンゾインといった樹脂と砂糖漬けされたプラムワインの香りが広がってゆきます。

まるで〝魂に火をつけるように〟広がるスモーキーな樹脂の香りに、陰鬱に燻る木々の香りが遭遇し、香り豊かなムスキーローズとバニラにより、ひとまとめになり、チョコレートとキャラメルのニュアンスを感じさせてくれます。あくまでも穏やかに肌を透かして心に届いてゆくので、知らず知らずのうちに魂が奪われていきそうな、とても危険で残酷な魅力があります。

そしてスパイス(ゼラニウムとカーネーション=クローブ、そしてサフランとナツメグ)の閃光がどこからともなくやって来るのです。もしかしたら、それは最初から存在していたのかもしれません。あまりにも穏やかでうつくしい樹脂と燻る木とレザーの香りのハーモニーにうっとりしてしまい感じられなかったのかもしれません。

この〝香る煙〟は、まるで古い魔法の本のページをめくるようなエキゾチックな匂いで、魂のコリをほぐしてくれるように、静やかに控えめな〝エレガントなスモーキーさ〟で全身を満たしてくれるのです。

香水名から連想させる、激しく燃え盛る炎を連想させる香りでは全くないところが、奇術師セルジュ・ルタンスの面目躍如です。

最初から最後まではっきりと感じられるアンバーグリスとウードから感じられるアニマリックな官能的な温かみが、全体に穏やかな深みを与えてくれています。

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香水データ

香水名:ランソンディエール
原名:L’Incendiaire
種類:パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2014年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/55,000円


シングルノート:樹脂、インセンス、燃やした木