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ロルフェリン(灰の乙女)|日本で出会った二人が生み出した、香道系フレグランスの傑作

セルジュ・ルタンス
©Serge Lutens
セルジュ・ルタンス
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ロルフェリン(灰の乙女)

原名:L’orpheline
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2014年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/22,000円、100ml/32,560円
公式ホームページ:セルジュ・ルタンス

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ギリシア神話の美少年オルフェウスからインスパイアされた香り

©Serge Lutens

『オルフェウス』ギュスターヴ・モロー、1865年

フランキンセンスの神秘。「ロルフェリン」において、その多様なグレーの色調は、彼女が過去と決別し、記憶を覆い隠す微細な塵の層を一つずつ剥ぎ取っていく過程を象徴している。

「儚くも完全な存在。その名は「断絶」を暗示しているが、亀裂が現れる前に、その最初の二音節は、石さえも魅了した詩人オルフェウスを想起させる」

セルジュ・ルタンス公式サイトより

その香りは浮遊するベール。 父は木で、母は炎。 星屑のように優美で純粋。 けれどもやがて塵にまみれ、霞んでいく人生の軌跡。 それは記憶。 儚く繊細だが、しかし完全なもの。

日本版セルジュ・ルタンス公式サイトより

セルジュ・ルタンスより発売されていた「ブラック&ベージュ コレクション」が2018年3月21日に「コレクションノワール」に変更され、2014年に生み出された「ロルフェリン」も、このコレクションに組み込まれました。

〝ロルフェリン〟とは、フランス語で〝孤児の少女〟を意味します。ちなみにこのこの男性的な香料でのみ生み出された女性のオリエンタルフゼアの香り(あえてユニセックスではなく女性の香りだと言及したい)は、クリストファー・シェルドレイクにより調香されました。

セルジュ・ルタンス自身も、第二次世界大戦中に幼い頃に捨てられ孤児同然の幼少期を経ているため、自伝的な趣もあるこの香りには、「灰の乙女」という邦題がつけられています(「セルジュ ノワール」から派生した作品だとも言及している)。

伝説の美少年オルフェウス、オルフェからインスパイアされた香りです。オルフェウスとは、ギリシア神話に登場する吟遊詩人であり、アルゴー探検隊にヘラクレスと共に参加し、美しい歌声で船乗りを誘惑し殺害する半人半鳥の怪物セイレーンを、ディオニソスとアポロンの弟子であるオルフェウスは、その竪琴によって撃退し、探検を成功に導いたことでも有名です。

他にも二つ有名な逸話があります。ひとつは、蛇に咬まれて死んだ愛する妻エウリュディケーを取り戻すために冥府に乗り込み、その竪琴の音色で冥界の神々さえ虜にし、冥府の王ハデスを説得し、「冥界から抜け出すまでの間、決して後ろを振り返ってはならない」という条件を付け、妻と共に冥府を去ることを許したが、最後の最後に振り返ってしまい、この瞬間が、妻を見る最後の機会になってしまったというお話。

そしてもうひとつは、妻を失ったオルフェウスは、その後、あらゆる女たちの愛を拒んだため、ディオニュソスの信女たちであるトラーキア女性たちは、侮辱されたと怒り、彼を八つ裂きにして殺し、ヘブロス河に投げ込みました。やがてオルフェウスの首と竪琴はレスボス島のメテュムナに流れ着き、生首が歌いました。

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この香りの長大なプレス・リリース

©Serge Lutens

冷酷な操り人形師が引く運命の糸に操られ、バレリーナのように舞う乙女…と見せかけて、実は彼にされるがままではなく、その妖精のような手指で彼女もまたチャンスを窺っている!

2024年に10周年記念ボトルを発売した時のこの香りに対するルタンスのお言葉

ちなみにこの香りが発売される時、プレスリリースとしてかなり長い文章が配布されました。以下が、その全てです。

1. またしても女の子か!

そう、もしあなたが彼女が私の捨て去られた部分だと信じるなら。子よ、私は世界を二つに切り裂いたのだ。一方には、女の子――敗者ではなく、打ち負かされた者! より正確に言えば、彼女の中に芽生え、私自身が育て上げたもの。そしてもう一方には、男の子――勝利者。子供にとって、世界は三人に集約される。自分自身、母、そして父だ。誰もが私のように明確な選択をしない限り、誰もが生涯を通じてその選択に依存し続けることになる。

2. あなたの選択は、母親という形で現れたのですか?

母親そのものではなく、彼女の傷。私はそれを背負ったのだ。それは紛れもなく同一化である。私たち一人ひとりと同じように、私は自分の命を偶然に負っている。あの有名なサイコロを振ることは、私にとって模範となる。それは神聖な数字であり、私たちが生まれるべきだった場所、あるいは生まれるべきではなかった場所へと私たちを導く数字なのだ。私は自分の運命における重要な出来事を振り返るつもりはないが、あったことと私が感じたこととの間には、大きな隔たりがあった。しかし、子供こそが千里眼の持ち主だ。彼は予見する。私がその傷に女性的な資質をすべて与えたからこそ、彼女は私に名前を付けたのだ。

3. 今から、あなたの中で男性性が否定されたと理解すべきでしょうか?

私の目には公式に求められていたもの――軍隊、権威、力、秩序、道徳主義――からすれば、そうでしょう。私は「男性性」、すなわち「悪意」と戦っていたのです。この瞬間から、私が一人の女性を創造し、私たちを現代へと導くことは予想されるでしょう。それは血の洗礼なのです。

4. 孤児の少女の話に戻ろう。これはあなたのことですか?

いいえ、もともとそこは未開の地だった。それは私を惹きつけましたが、そこに自分を見出すことはできなかった。私が否定していたその領域は、男たちの領域でした。私の母は怒りそのものであり、私は彼女の息子として、その復讐でした。

5. そして父は、どこにいるのか?

父は公然の敵だ。私はこの地上において、父に対して憎悪を抱いていた。母にとっては私は傀儡であり、父にとっては暗殺者だった。その傷は癒えなかった。私は自らを盲目にすることもできたが、それでも見えた――父は不死身だった。私は父から、彼が裏切った「女性性」を受け継いでいる。

6. この迷宮の中で、どうやって香水への道を取り戻したのですか?

それは記憶であり、許しであり、そしてこうして、今日私たちが持っているものは、塵の中から生き延びることができたのです。それは女性性だけでなく、複数形もありません。それは私の人生の残滓であり、すべてが消え去った後に残るものです。それは、幾重にも重なるヴェールの中で、忘れ去られた場所で、灰色に消えていく、目に見えないものです。

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日本で出会った二人が生み出した、香道系フレグランスの傑作

誕生10周年を記念して2024年に発売された特別ボトル ©Serge Lutens

「ロルフェリン」は一味違う。それはある瞬間なのだ……私が言ったように、それは私たちが自ら手放す内なる領域であり、そこには人生における選択を意味する。私たちは皆、その選択をする。7歳の時、いや7歳になる前から、私たちは選ぶのだ。自分自身の内なる誰かのどちらか一方を選ぶ。それが私たちの「自分」となり、私たちの基盤となり、私たちの糧となるのだ。

7歳になると、女の子はたいてい父親の方に惹かれ……男の子は自然と母親の方へ引き寄せられる。世の中はだいたいそうやって成り立っている。さて、私も同じように、母親を強く選ぶと、もちろんそれは極めて危険なことだ。なぜなら、それは信じがたいほどの不均衡だからだ……不倫をした母親を持つこと、私生児であること、父が私を認めず、最初は認知を拒否し、2年後に母親と結婚したこと――母は当然ながらそれらすべてを経験し、私自身も、完全には自覚していなかったにせよ、それを経験していたのだ。

セルジュ・ルタンス

冷たさと温かさを同時に感じさせるアルデハイドとカシュメランが、銀色の金属と青ざめた生肌の感触を、万華鏡のように素肌の上で、キラキラとまわりまわらせていくような感覚から、ギリシア神話の美少年オルフェオンからインスパイアされた〝孤児〟の香りははじまります。

すぐにしずやかにラベンダーとミントが注ぎ込まれ、いろいろなグレーに包まれる、つまりは〝静〟〝サイレント〟な世界に全身は満たされてゆきます。この香りのテーマである〝幻想的で孤独で親密な〟という世界を、シンプルに贅沢に素肌で味わっていくようです。

傷ついた心を持つ美しい人が、ひとりで佇んでいると、そこから独特の美学が滲み出てくるように、この香りは、シダーウッドとブラックペッパーの静かな響きと共に、その人の中に潜む、クールビューティを、圧倒的な〝静けさ〟によって引き立ててくれます。さらに伴奏するようにゼラニウムとカーネーションが、グリーンローズとクローブの感触と共に、悲しみがとまらなくなる、軽やかで繊細な鎮魂歌を奏でてゆきます。

そしてあいつはやって来るのです。実に幽玄なる儚くも甘いフランキンセンスの到来です。ボトルの中からやって来たというよりは、黄泉の国からふいにやって来たような、香水感をまったく感じさせないフランキンセンスに、素肌を透かして心が洗われてゆきます。

このフレンキンセンスを素肌に引き寄せたのは、パチョリとクマリンいう地上の吟遊詩人たちです。この大地の温かい歌により、すべての香りはひとまとめになり、最後にカストリウムが魔性のひと吹きを追加し、クリーミーでスモーキーな〝グレー〟の余韻に満たされていくのです。

グレーの種類が多く、向き合う日によってその見え方が変わるように、身に纏う日によって、香り方と感じ方ががらっと変わる〝グレーの不思議さと豊かさ〟を体感することが出来る香りです。

アンデルセンの『マッチ売りの少女』の、燃え尽きかけたマッチの灰の下でゆっくりと温まっていくイメージを連想させる香りですが、セルジュ・ルタンスと彼の調香師がはじめて出会った国・日本の『お香文化』を、その点を誇示することなく、しっかりと感じさせてくれる、香道系フレグランスの傑作とも言えます。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイドⅢ』で、「カシュメランのお香」と呼び、「これがセルジュ・ルタンスの香水とは驚きだ。彼が見放したものだとすれば、私たちも手を出すべきではない」と1つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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彼女はオトコだった。だから、とても美しいんだ。

キャンディ・ダーリング(1944-1974)

1971年のキャンディ

ちなみにここでセルジュ・ルタンス自身のこの香りに対する説明について言及すると、どうやら自分の中に潜む女性と、それを求める心を投影した香りでもあるらしい。

ルタンス自身、70年代から80年代にかけて一世風靡したメイクアップアーティストでしたので、ドラァグクイーンの魅力を知り尽くしていたのでしょう。この香りの真の意味は、あまり声高に言及すべきではないのですが、子供を生めず、子孫を残すことの出来ない女=ドラァグクイーンもしくはトランスセクシャルの香りなのかもしれません。

突出して美しいが、ある肉体のパーツが、女性よりも大きく出来ており、それがコンプレックスでもあり、最大の魅力になるそんな〝選ばれし美の創造者〟たちのための挽歌=香りなのです。

真に優れしものは、香りに関しても、その緩急の使い分けが素晴らしいということの生きる証明が、まさに彼女達の存在なのです(ただし、ここには、セックスを売りにするトランスジェンダーは含まない)。

彼女達はどれほど美しく、女性のように見えようとも、絶えず灰色のヴェールを身に纏い生きているのだ!それがこの香りの魅力の全てです。だからこそ、クールな女性が身に纏うと、その瞬間だけ宝塚の男役のようなオーラ(ヴェール)に自分を包み込むことが出来る香りなのです。

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香水データ

香水名:ロルフェリン(灰の乙女)
原名:L’orpheline
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2014年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/22,000円、100ml/32,560円
公式ホームページ:セルジュ・ルタンス


シングルノート:インセンス、ムスク、パチョリ、カストリウム