セルジュノワール(黒いサージ布)
原名:Serge Noire
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2008年
対象性別:ユニセックス
価格:日本未発売(75ml/€260)

〝黒を愛するものたちへの伝言〟灰の中から蘇える不死鳥の香り

©Serge Lutens

©資生堂
サージ生地は、カソック(カトリック教会の神父が着る衣服)や学校のスモック(制服)を作るのに使われていました。それはツイル織りの一種で、この香りの名は、後に女性らしさのすべてに情熱を注いだ男性にちなんで名付けられました。スモーキーな余韻を伴う、幽玄な木の香り、そこにこそ、この香りの二面性があります。
「私のファーストネームは、ある生地の名前と同じだ。それはこの香りにぴったりの響きです。同じように、この香りの本質を捉えるには、アンティークの椅子に忘れ去られた手袋のように、過去のさりげない『スナップショット』ほどふさわしいものはありません。まるで焦げた木の香りに誘われるお香のように」
セルジュ・ルタンス公式サイトより
この香りは、私自身のプライベート・フレグランスとも言える。私は1968年から1980年までディオールのメイクアップとそのイメージを創造していました。この時期、私は「パリのオートクチュール」と呼ぶものの最後の瞬間を経験しました。それはラグジュアリー、厳格さ、熟練の技、そして女性の身体イメージへの敬意に満ちたものでした。
ショールームやファッション・プレゼンテーションの、あの静謐な空気 ―― ファッションショーよりもずっと儀式的な雰囲気 ―― が、私の中でこの香りを結実させたのです。それはかつて黒のサージ生地のスーツ、淡い肌の色、そしてきっちりとしたストレートヘアを背景に、静寂に包まれた優雅さ、そしてこの世のものとは思えないような雰囲気が漂っていた……
セルジュ・ルタンス
セルジュ・ルタンスの「ブラック&ベージュ コレクション」が、2018年3月21日に「コレクション ノワール」に変更され、2008年7月に販売されていた「セルジュノワール」を含む10種類もの名香が2017年末から一挙に廃盤になりました。
そして「セルジュノワール」は、2018年11月により、限られた店舗でのみ発売されていた「グラットシエル コレクション」に移行することになりました。「グラットシエル」とは、フランス語で「摩天楼」「超高層ビル」の意味です。
その黒のファセットガラスボトルのシルエットは、エンパイアステートビル、クライスラービルなど20世紀初頭から1930年代にかけてニューヨークに出現した世界初の高層ビルをモチーフにしたデザインです。
その後、「グラットシエル」廃止後は、パレ・ロワイヤル本店だけで取り扱われている「レフラコンドターブル」コレクションのひとつとなり現在に至ります。
セルジュ・ルタンスが10年間かけて創造したこの香りは、クローブの香りを極限まで高めた香りとして、クリストファー・シェルドレイクにより調香されました。そのテーマは人々が忌み嫌うものを集め、最上のものを生み出そうという意欲的な試みでした。
自分自身の名前を、教会や学校の制服に使われてきたサージの布にかけているこの香りは、〝黒を愛するものたちへの伝言〟なのですが、それにしては、強烈なまでの個性に満ち溢れています。
この香りに、自分自身の名を冠するということは、誰にでも身に纏える香りなぞハナから作ろうとは考えていなかった心の表れかもしれません。なのでこの作品の真価は、ルタンス自身が身に纏いし時の香りを嗅いでみないことにはなんとも言えません。
日本の松栄堂や薫玉堂や日本香堂から発売されている上質なお香に近いフレグランスであると海外では絶賛されている香りです。
灰とダイヤモンドではなく、灰とフェニックスの香り

©資生堂
灰のエーテル … 伝説の神鳥フェニックスは、その輝きの絶頂で燃え尽き、炎の舞踏の中で灰の舞の中から生まれ変わり、勝利を収めて舞い上がる。
オリエンタルな灰色の渦が、夕暮れに深みと力強さを与え、風に吹かれた記憶は、変容の美しさを暗示する。夜の豊かな羽衣に包まれた、永遠の美への頌歌。
セルジュ・ルタンス公式サイトより(2008年)
「セルジュノワール」には、過去を転写し、再訪し、新たな解釈を加えたものとして描き出す、より文学的な雰囲気と現代性が漂っています。この香水は灰のような、ウッディでドライな香りです。それは記憶の調味料であり、繊細な香りです。そこからは、粉っぽく、官能的で、透き通ったボディの雰囲気が漂ってきます。一言で言えば、私のお気に入りです!
それは限りなく透明にちかいクリスタルで、まさに黒を連想させます。
セルジュ・ルタンス
灰とダイヤモンドではなく、灰とフェニックスの香りである「セルジュノワール」は、燃え上がるインセンスの中に注ぎ込まれる、樟脳のようなクローブと塩辛いクミンの爆発からはじまります。それはとても神秘的で官能的な、ほのかにタバコの紫煙も感じさせる神聖なる体臭の匂いが広がっていくようです。
まるでけものみちのようなインセンスとエレミが入り混じる道を進んだ先に、まったりと甘くて温かい、善悪の彼岸に引きずり込まれてゆくように、灰のようなシナモンとしなびた古寺のようなパチョリを浴びた魔性のアンバーに包みこまれてゆきます。
セルジュ・ルタンスらしい、善と悪を素肌の上の天秤に委ねていくような憂鬱な香りに翻弄されていくようです。
何よりも素晴らしいのは、ダークな灰の中からフェニックスが蘇り、太陽に向かって飛翔するような、閃光の如くきらめくパウダリーなインセンスに満たされる、汚れた魂が清められていくような、どこか謎めいた最後の瞬間です。
圧倒的な何かが、何か決定的な秘密が隠されているような、不思議な魅力に包まれた香りです。身に纏うたびにそのミステリアスな余韻が、どこからやって来るのか確かめたくて、もっともっと魅了されてしまう、そんな進んで天国か地獄か分からない〝けものみち〟を進んでいきたくなる、中毒性のある香りです。
どこか近寄りがたくて掴みどころがない、瞑想や思索へと導く香り
どこか資生堂のコマーシャルで和服を着た、日本人形のようなメイクをした山口小夜子様が、茶室で佇んでいるような、幽玄なる美しさに恐れを抱きながらも魅了される、鵺の鳴く夜は恐ろしい、死者をお見送りするような香りの世界も感じさせます。
しずけさ、静の美学、京都の古寺、金田一耕助の昭和の和服美女に襲い掛かる悲劇、モノクロームヴィーナス、1960年代の白黒のゲゲゲの鬼太郎とカラーのリボンの騎士がひとつになった世界観、黒い安息日、ズビグニェフ・ツィブルスキの死にざま、そんな空気がひとまとめに感じられる、どこか近寄りがたくて掴みどころがない、瞑想や思索へと導く香りです。
タニア・サンチェスは『世界香水ガイド』で、「カンファー・クローブ」と呼び、「セルジュはルタンスの名であると同時に、織地の一種(フランスでは、一般に絹)のことだから、セルジュノワールはざっくりいって黒の綾織のこと」「ルタンスの名を冠している以上、香水はこうあるべきという彼の理念を反映した最高のオリエンタルかと思いきや、最低のオリエンタル。まるでルタンスの欠点をすべて集約したみたい」
「歯医者を思い出すほどクローブが大量に入っている。中国の咳止めシロップに似たいいようのない臭気を放つ」と1つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:セルジュノワール(黒いサージ布)
原名:Serge Noire
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2008年
対象性別:ユニセックス
価格:日本未発売(75ml/€260)


シングルノート:パチョリ、シナモン、アンバー、インセンス、クローブ、香辛料、エボニーウッド

