作品名:007 私を愛したスパイ The Spy Who Loved Me(1977)
監督:ルイス・ギルバート
衣装:ロナルド・パターソン
出演者:ロジャー・ムーア/バーバラ・バック/キャロライン・マンロー/クルト・ユルゲンス/リチャード・キール
ボンド・ムービー史上初の『相棒』としてのボンドガール
歴代ボンド・ガールの中で、最も日本人ウケの悪いルックスで過小評価されている人の名を挙げよと言われたならば、必ず出てくる名が、ソ連のKGB諜報部員トリプルX(トリプルHではなく、ザンダー・ケイジでもなく、これぞ本家)を演じたバーバラ・バック(1947-)です。
彼女の代表作は、本作と、『おかしなおかしな石器人』(1981)であり、この『石器人』で共演したリンゴ・スター(1940-)と再婚し、現在に至ります。
元々トリプルXことアニヤ・アマソワ少佐役は、カトリーヌ・ドヌーヴ(1943-)でほぼ決定していました(当時、ドヌーヴ自身が出演を望んでおり、通常貰っていた40万ドルではなく、25万ドルで出演しても良いと答えていたほどでした。しかし、アルバート・ブロッコリは、8万ドル以上は払う意思がなかったのでご破算になった)。しかし、ギャランティの話が纏まらず、マイナーな役柄でオーディションを受けていたバーバラ・バックが、撮影4日前に、急遽トリプルX役に抜擢されたのでした。
彼女自身は、ニューヨーク生まれの生粋のアメリカ人なのですが、20歳でイタリア人と結婚し、以後イタリアで生活しており、ヨーロッパでモデル活動と、B級映画出演していたので、ヨーロッパ人女性がロシア人を演じているという認識を与えることになりました。
もし、カトリーヌ・ドヌーヴがトリプルXを演じていたならば、それはそれで素晴らしいことになっていたことは間違いないでしょう。
しかし、ファッション・モデルあがりのB級女優のバーバラ・バックが、あまり台詞を吐かず、ファッション・モデルとして培った綺麗な姿勢で、無表情かつ無言でじっと見つめるその姿は、実にエキセントリックであり、ソ連の凄腕の女性諜報部員という役柄に妙にマッチしていたのです。
カッコ良すぎるKGBスタイル
アニヤ・アマソワ・ルック1 KGB制服
- オリーブ色のKGB制服、肩にゴールドの階級章、ゴールドボタン、赤のスタンドカラー
- キャメル色のロングレザーブーツ
- トークハット
「私を騙す気?」「考えもしないよ」という台詞の応酬が象徴的な、本作のボンドとボンドガールの関係性。それは21世紀では実現し得ない、冷戦時代だったからこそ実現した、英国諜報部員とソ連諜報部員の禁断の恋の駆け引きなのです。
「私を愛したスパイ」というタイトルが、双方を意味するように、このスリリングな関係性が、本作のすべての要素に対する潤滑油として、シリーズ屈指の面白さを生み出したのでした。そして、その冷戦時代の背景を明確に感じさせるのが、KGBの制服に身を包んだ凛々しいアニヤの姿によってなのです。