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その他の男優たち

『アメリカン・ジゴロ』Vol.3|カルティエのタンク・アメリカンを愛用するジュリアン・ケイ

その他の男優たち
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リチャード・ギアは、世界中のアルマーニ・ストアで、フリーパスの権利を手に入れた。

私は脚本を読み(脚本にはジュリアンはゲイだと書かれていた)、考えた。私が全く知らない世界のキャラクターだった。私は当時一着もスーツを持っていなかった。私は英語以外いかなる言葉も話せなかった。私はゲイ・コミュニティを全く知らず、ゲイの人々の仕草も習慣も全く分からなかった。だからこう考えた。撮影まで2週間しかないんなら、私自身が役柄にのめり込まないといけないなと。そして、私は2週間、それらにどっぷりと浸かったんだ。

リチャード・ギア

リチャード・ギアは本作において、あらゆるアルマーニを身に着けました。フォーマル、セミフォーマル、カジュアル、デイタイム、イブニング、レジャーウェア、アンダーウェア、アイウェアの全てを。そして彼はアルマーニを体現するタイムレス・アイコンになりました。

ジョルジオ・アルマーニは、彼に対して強い感謝の気持ちを示し、リチャード・ギアだけは、世界中のどのアルマーニ・ストアにおいても、好きなものを無料で持ち帰ることが出来るという特権を与えたのでした。

1980年当時、最も高価なアクセサリーだった女性ローレン・ハットン。アルマーニのコートとボッテガ・ヴェネタのクラッチ。

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ジュリアン・ケイのファッション7

シャイニーなライトグレー・ダブルジャケット
  • ライトグレー・フランネルジャケット、ダブル、ピークドラペル、ヨーク・ディテール、パッチポケット、ノーベント
  • ダークグレーのトラウザー
  • グレーのリネンの短い襟のボタンダウンシャツ
  • ライトグレーのボーダーニットタイ
  • ROOTSのブラウンのレザーシューズ
  • グレーの細いレザーベルト

リチャード・ギアによってアルマーニは「パワー・スーツ」になりました。

胸ポケットの位置がもはや胸ではないところが素晴らしい。

ジャケットのヨーク仕立てがよく分かる写真。

アルマーニとの相性がバツグンなアースカラーのレザーシューズ。

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グレージュの洗礼=控えめなエレガンスの提案

ダブル・ジャケットに、オープニングのシャツタイを合わせている宣材写真。

元々はセットアップだったことが分かります。撮影:アニー・リーボヴィッツ

グレージュの革命。1975年に創業し、僅か4年後の1979年に本作のために40着の衣装を準備したジョルジオ・アルマーニ。重要なポイントは、彼がすでにデザインしていたものから選ばれたのではなく、ジョン・トラボルタポール・シュレイダーと打ち合わせした後、アルマーニが映画の舞台がロサンゼルスであることとそのストーリーを熟知した上で、デザインしたということです。

その上で、スター・ウォーズ=UFO時代やスーパーマン時代、コンピューター時代に突入しようとしていた世界に、〝大地に還る喜び〟をワードローブで体現させていくという、血の通った第二の素肌(それも大理石のように磨き上げられたエレガントな素肌)を手に入れる喜びを世に示したのでした。

ジゴロ=男娼でありながら、この青年がどこまでも魅力的に見えるのは、誠実さと協調性を兼ね備えた、血の通った人間であることの安心感を、エレガントなシルエットの上に乗るグレージュによって感じさせてくれるところにあります。

グレージュの凄さは、大いなる大地を感じさせながら、一方で、摩天楼の大都会も感じさせる絶妙な中間色であるところにあるのです。

だからこそ、この〝控えめなエレガンス〟を生み出す色彩を見つけ出したジョルジオ・アルマーニは『色彩の魔術師』と呼ばれるのです。

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最も魅力的なアルマーニ・アンサンブル

映画の中で、わずか数分しか登場しない、魅力的なライトブラウンのスーツ。

僅か数分のみ登場するジュリアン・ケイの赤味の効いたライトブラウン・オン・ライトブラウンのアンサンブル。これこそがアルマーニの真骨頂です。

一言でいえば、火口付近に転がる石のカラーパレットを使用したアンサンブルなのですが、アルマーニの優雅な生地とシルエットが伴って初めて成立するのです。

アースカラーを使用した着こなしの鉄則。それは、生地には必ずこだわること。ただし、耐久性は犠牲にすること。なぜなら自然の優雅さや素朴さを表現するためには、生地に生命を与えなければならないからです。

ファスト・ファッションのアースカラー・アイテムを使用したスタイリングが、とかく与えがちな印象は、野暮ったさです。黒や白やカラフルな色よりも、アースカラーとは、自然と同化するカラーであり、誤魔化しの利かないカラーです。だから生地に生命が与えられていないアースカラー・アイテムは、ゾンビの布切れのような死臭を放つのです。

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ジュリアン・ケイのファッション8

魔性のライトブラウン
  • ライトブラウンのスーツ、ナローなノッチラペル、シングル、ノーベント
  • 赤茶色のリネンシャツ
  • ブラウンタイ
  • グレーのトラウザー
  • ROOTSのブラウンのレザーシューズ

ゲイっぽい仕草で応じるジュリアン。

アルマーニの真骨頂とも言えるカラーパレットです。

メンズファッションにおける新章がめくられた瞬間。

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アルマーニ定番のリネン・シャツ

ジュリアンの住む「Westwood Hotel Apartments」のプールサイド。

カルティエのタンク・アメリカンをつけています。

アパートメントのプールサイドで新聞を読みながら日光浴するジュリアン。この時に羽織っているシャツは、白のリネン・シャツです。

アルマーニが、世界中の男性の支持を得た理由が、女性が観ても美しい男性服を生み出したことと、派手な装飾を一切使用せずに男性服に優雅さを生み出したことにあります。そんなアルマーニの精神が、後に定番アイテムとなる僅か一枚のリネン・シャツから見て取れます。

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ジュリアン・ケイのファッション9

リゾート・ルック
  • 白のリネン・シャツ
  • ブルーデニムのショートパンツ、フロントにパッチポケット
  • カルティエのタンク・アメリカン

このシーンのローレン・ハットンはとんでもなくクールです。

アルマーニの不滅のアイコン=リネン・シャツ。

このショートパンツもとてもステキ。

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ジュリアン・ケイのファッション10

ヌードカラー・ジャケット
  • ヌードカラーのジャケット、ノッチラペル、ダブル、1×1ボタン
  • 白のリネンシャツ
  • グレーのトラウザー
  • ROOTSのブラウンのレザーシューズ

アパートメントのリセプションの女性と談笑するジュリアン。

ヌードカラーのジャケットを見事に着こなしています。

生地感がよく分かる写真。

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ジュリアン・ケイのファッション11

タキシード
  • タキシード、シルクのピークラペル、シングル
  • 白のポプリンシャツ、ウイングカラー
  • クラッシュト・ベルベットのブラックボウタイ

タキシードもパシッと着こなすリチャード・ギア。

ジェームズ・ボンドの基準から見るとボウタイの形が野暮ったい感じがします。

ローレン・ハットンの独特なポージング。この人は、全てにおいて反則です。

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アルマーニのデザイナーズ・ジーンズ

本作において象徴的なジャケットを人差し指だけで引っ掛け、肩掛けにして歩く〝ジゴロ・スタイル〟。

デニムがファッションの主流になったのは1970年代からでした。それは、1977年にカルバン・クラインが紹介したデザイナーズ・ジーンズが大流行したことにより決定的になりました。

更に数年後には、グロリア・ヴァンダービルトも〝スワン(白鳥)〟ロゴの女性用ジーンズを発売し、当時最もタイトフィットなジーンズとして人気を誇りました。

しかし、本作のスタイリングが何よりも斬新なのは、21世紀においては主流になっているカジュアル・ダウンという概念をフォーマルシャツとジーンズの組み合わせによって提示したところにあります。

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ジュリアン・ケイのファッション12

ブルージーンズ
  • ペールブルーのコットンシャツ、両胸にフラップポケット、丁寧にロールアップして二の腕まで
  • アルマーニのウェイファーラー風サングラス、鼈甲
  • プレスされた70年代スタイルのアルマーニ・ジーンズ、ハイウエスト
  • ウェブベルト
  • ROOTSのブラウンのレザーブーツ
  • カルティエのタンク・アメリカン

アルマーニの鼈甲のサングラス

ウェブベルトで一気にカジュアルダウン。

リチャード・ギアのスタイルの良さがあればこそ、この嫌味たっぷりな歩き方も様になるのです。

清潔感溢れる丁寧なロールアップ。

今見てもうっとりするほど素敵なスタイリング。

作品データ

作品名:アメリカン・ジゴロ American Gigolo (1980)
監督:ポール・シュレイダー
衣装:ジョルジオ・アルマーニ
出演者:リチャード・ギア/ローレン・ハットン/ニーナ・ヴァン・パラント