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ナルシソ・ロドリゲス

【ナルシソ ロドリゲス】ナルシソ ロドリゲス フォーハー(フランシス・クルジャン/クリスティーヌ・ナジェル)

ナルシソ・ロドリゲス
©Narciso Rodriguez
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ナルシソ ロドリゲス フォーハー

原名:Narciso Rodriguez for Her
種類:オード・トワレ
ブランド:ナルシソ・ロドリゲス
調香師:フランシス・クルジャンクリスティーヌ・ナジェル
発表年:2003年
対象性別:女性
価格:50ml/13,750円、100ml/18,810円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム

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ナルシソとキャロリン・ベセット=ケネディの友情

2003年のナルシソ・ロドリゲス ©Narciso Rodriguez

2003年のナルシソ・ロドリゲス ©Narciso Rodriguez

ナルシソ・ロドリゲス(1961-)は、 ニュージャージー育ちのキューバ系のファッション・デザイナーです。名門パーソンズ・スクール・オブ・デザインを卒業し、セルッティ、ダナ・キャラン、カルバン・クラインでキャリアを積みました。

ジョン・F・ケネディ・ジュニアとキャロリン・ベセット=ケネディ

マレーネ・ディートリッヒ、彼女はこの世のものと思えぬほどグラマラスな存在でした。そして、グレタ・ガルボも信じられないほどグラマラスで、二人とも、男性らしさと女性らしさを同時に持ち合わせていました。それが私がスタイルとは何かということを初めて認識した瞬間でした。

そして、私が今考えるグラマラスとは、そうでありながらピュアで気取らないものなのです。

ナルシソ・ロドリゲス

ナルシソの人生の転機は、カルバン・クラインのアシスタント・デザイナーを務めていた頃の親友であり、元カルバン・クラインの広報であったキャロリン・ベセット=ケネディ(1966-1999)から、結婚式で着るウエディングドレスのデザインを依頼されたことからはじまりました。

1996年9月21日のジョン・F・ケネディ・ジュニアとの結婚式で着たこのドレスは、ユリのブーケとマノロ・ブラニクのサテンサンダルと見事に調和しており、話題を呼びました(しかし、1999年7月に自家用機の事故で二人とも死去しました。このとき、キャロリンは僅か33歳でした)。

この当時、キャロライナ・ヘレラやヴェラ・ウォンがウエディングドレスをミニマルなデザインに導こうとしていました。そんな流れの中、突如、無名のデザイナーがその遥か先を行く、ラインストーンやスパンコール、刺繍などの装飾が一切ないバイアスカットのスリップドレスにより、革命を起こしたのでした。

それは〝究極のミニマル〟であり、コルセットを着用せずともスタイルに自信のある女性にしか着こなすことができない〝選ばれしもののドレス〟でした。ランジェリーとイブニングの狭間をゆくドレスの誕生は、ブライダルのルールをことごとく突き破っていったのでした。

豪華なフルコースではなく、そのあとの爽やかなシャーベットのような洗練された美しさをウエディングドレスで表現する。その控えめなスタイルが、その場で最も大きな主張となることを理解している〝真に洗練された女性〟のためのファッションが開花していくことになるのでした。

そして、1997年にナルシソは、この成功をきっかけに自身のブランドを創業するのでした(1997年から2001年にかけてロエベのクリエイティヴ・ディレクターもつとめた)。

キャロリンのドレスは、時代が経つごとに古くなるのではなく、より新しい感覚として〝不滅のドレス〟の地位を確立していきました。そんな精神をフレグランスに投影するべく、ナルシソは資生堂(BTI)と手を結んだのでした。

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アブドゥル・カリームのエジプシャンムスク

90年代のナルシソとキャロリン

ナルシソとキャロリン

ナルシソ・ロドリゲスがカルバン・クラインのデザイナーをしていた時に、広報として本社勤務になったキャロリンと出会いました。

元々キャロリンは、幼い頃に両親が離婚し、整形外科医と再婚した母の下で裕福な家庭に育ち、ボストン大学教育学部卒業後、マサチューセッツ州ニュートンのチェスナットヒルモールのカルバン・クラインのブティックで販売員として働いていました。

その時に、本社から視察にきたスーザン・ソコル(現在、ニューヨークのファッション・コンサルタントの重鎮の一人)の目に留まり、マンハッタンの旗艦店の広報部長となったのでした。

最終的には、アネット・ベニング等の有名人の顧客を担当する責任者として活躍していました。そんな中、1994年に、キャロリンは、ケネディ・ジュニアと出会い、交際をはじめました(彼女がCKを退職したのは1996年の春でした)。

ナルシソは、キャロリンとすぐに親友のように仲良くなり、彼女の唯一無二な魅力のひとつとして、香りが与える力を知りました。そして、彼女が愛用している香りを教えてもらい、自分も肌や髪につけ、他の香りと重ね付けして愛用するようになりました。

この香りこそアブドゥル・カリーム(Abdul Kareem)エジプシャンムスクだったのでした。そして、1999年にキャロリンが死去した後、彼女の想い出を永遠のものにしたいと考えたのでした。

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本物よりも本物らしい肌の匂いを生み出す〝究極のムスク〟

ナルシソ・ロドリゲスを着るアンジェリーナ・ジョリー。VOGUE 2002年4月号 ©VOGUE

2003年9月に発売されたナルシソ・ロドリゲスのファースト・フレグランス「ナルシソ ロドリゲス フォーハー」は、フランシス・クルジャンと、クリスティーヌ・ナジェルにより調香されました。

キャロリンが愛したエジプシャンムスクをベースに、ナルシソ自身が愛する3つの花の香り=オレンジブロッサム、ハニーサックル、ジャスミンからひとつメイン香料を選び出し〝rich simplicity(贅沢なシンプルさ)〟を追求したスタイルで「ナルシソ ロドリゲス フォーハー」は生み出されました。

伝説のキャロリンのウエディングドレスにより示した〝究極のミニマル〟をさらにフレグランスによって達成しようとしたこの香りは、すべて小文字が並べられたリトルブラックドレスのようなボトルから解き放たれてゆきます。

シャープなベルガモットと、みずみずしいオレンジフラワー、アプリコットのようなオスマンサスが軽やかなムスクに導かれ、きらめきよろめきながら肌に到達します。シャープさと優しさ、甘さと苦さが柔らかな音色のように心の隙間を穏やかに満たしてゆくのです。

やがて温かなアンバー(アンブロックス)とバニラ、ラブダナムも加わり二つの花々は甘く輝きを増してゆきます。そして、ベチバーとパチョリによりうっとりするようなフローラルシプレ×ムスクの甘く熟したクリーミーでパウダリーな匂いをまとわりつかせるように肌に溶け込んでゆくのです。

漆黒のボトルから解き放たれる、究極のホワイトムスク。それは素肌をファンデーションによりカバーし輝かせるように、唇をヌーディなリップにより自然な艶で覆うように、香りが生み出す透明のドレスにより〝本物よりも本物らしいあなたの肌の匂い〟を生み出す香りなのです。

つまりは、獣のように肉と肉が貪る愛ではなく、心と心が結びつき合いゆっくりと交わす愛の香りでもあるのです。ムスキーでありながらジューシーに弾ける感覚がする、石鹸とはほど遠い世界のムスクです。

ちなみにこの香りの開発段階で、最もナルシソに対して影響力のあるアドバイスをくれたのは、サラ・ジェシカ・パーカーでした。そして、彼女ものちに自身のムスク香水「ラブリー」(2005)を誕生させるのでした。

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キャロリンへの想いを胸に秘め、生み出された〝永遠のムスク〟

©Narciso Rodriguez

そして、ジョン・F・ケネディ・ジュニアと二人。

このキャンペーンを撮影した当時は、広告業界ではモデルが両腕にバングルやバッグなど、商品を満載していた時代でした。しかし、私はシンプルでピュアなものを求めていました。

ナルシソ・ロドリゲス

キャンペーン・モデルとしてスーパーモデル、カルマン・キャス(1978-)が起用され、現代のアフロディーテをイメージし、幼さと大人っぽさ、洗練と妖艶さといった女性の多面性を象徴するポーズを取っています。イネス・ヴァン・ラムスウィールド&ヴィノード・マタディンが1000枚以上撮影して、ようやくこの写真が誕生しました。

ボトルの内側から黒く塗りつぶされたボトル・デザインは、ナタリー・エロワン・キャメルによるものです。2003年にまずこのオード・トワレ(ブラック・ボトル)が発売され、2006年にオード・パルファム(ピンク・ボトル)が発売されました。

ちなみに、ナルシソ自身、この香りとキャロリン・ベセット=ケネディの関係性をおもむろにPRしませんでした。それだけカルバン・クラインからはじまり、キャロリンとの出会いと別れが生み出したこの〝永遠のムスク〟は彼にとって特別なものであるという気持ちの裏返しだったのでしょう。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「香水をまじめに芸術品として捉えることの危険性は、ときおり焦点がぼやけてしまうことにある。香水によっては、芸術性を追求しなくても、指示どおりに使えばそういった効果が得られることもある。たとえば、魅力的な女性にスプレーすること。」

「ジバンシィの「オルガンザ」などは、あらゆるバニラの平凡な焼き直しだが、控えめで屈託がないうえに、相手を悩殺する効果がある。それに「タリスマン」(バレンシアガ)は野暮ったいのに、贅沢な休暇を過ごしているような気分にさせてくれる。」

「こうした香水の最新版がナルシソ・ロドリゲス・フォーハー。眼識のある批評家が、試香紙にスプレーした香りを丹念に調べると、なおいっそうのウッディ・オリエンタルが香る。理屈ではなく、人を惹きつける引力を備えてくる香りがある。」と4つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:ナルシソ ロドリゲス フォーハー
原名:Narciso Rodriguez for Her
種類:オード・トワレ
ブランド:ナルシソ・ロドリゲス
調香師:フランシス・クルジャンクリスティーヌ・ナジェル
発表年:2003年
対象性別:女性
価格:50ml/13,750円、100ml/18,810円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム


トップノート:オスマンサス、アフリカン・オレンジフラワー、ベルガモット
ミドルノート:ムスク、アンバー
ラストノート:ベチバー、バニラ、パチョリ