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【キャロン】ニュイ ド ノエル(エルネスト・ダルトロフ)

キャロン
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ニュイ ド ノエル

原名:Nuit de Noel
種類:パルファン
ブランド:キャロン
調香師:エルネスト・ダルトロフ
発表年:1922年
対象性別:女性
価格:28ml/26,250円

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〝クリスマスの夜、聖夜〟の香り

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あなたは劇場にいます。世界で最も美しい女性たちが、右の方から「オピウム」の香り、左の方から「ミツコ」の香りを漂わせ、さらには目の前の女性は「エスティ」をまとっています。そして「ニュイ ド ノエル」をまとった女性が現れます。するとすぐに、他の女性たちは忘れ去られます!

ギ・ロベール

1903年にキャロンを創業したエルネスト・ダルトロフが、1922年に生み出した「ニュイ ド ノエル」は、1911年に彼が「ナルシスノワール」を生み出した時、調香師としての経験を積み重ね、ついに悪魔と出会うことに成功し、魂と引き換えに〝悪魔の処方箋〟を手に入れ、病める花々に捧げられた香りの11年後に、ついに天使との遭遇を果たし生み出された〝素肌に天使が舞い降りる香り〟です。

〝ニュイ ド ノエル〟とは、フランス語で〝クリスマスの夜、聖夜〟の意味です。恋人であり、キャロンの香りの外観(香水名、ボトルデザイン、箱、広告)の創造主であるフェリシエ・ヴァンピールがクリスマス・イブが好きだという事もあり、彼女へ捧げる形で生み出された香りです。

「ナルシスノワール」の成功を経て、喫煙する女性に捧げられた、1919年の「タバブロン」の成功により、勢いに乗る中、ガブリエル・ココ・シャネルが「No.5」を生み出したすぐ一年後に、第一次世界大戦が終わり訪れたクリスマスの平和の喜びとして生み出された、神聖さと神秘性を伴わせた豊かな祝祭の雰囲気と、毛皮やお香が入り混じった官能的な香りがひとまとめになった幻想的な香りが誕生しました。

20年代において、キャロンは、コティと共にアメリカ市場で成功を収めていた、アメリカ人女性にとって〝フランスの香水〟の典型でした。

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たくさんの魔性の香りの中に存在する〝ムース ド サックス〟

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この香りの中心に存在するのは、独創的なローズ・アコードです。それは科学者のマリー=テレーズ・ド・レール(1872-1954)が1912年頃に作り上げたベース〝ムース ド サックス〟と、ムスキーなメイローズ・アブソリュートの野性的な動物の香りのハーモニーで成り立っています。

〝ムース ド サックス〟は、1926年の「ボワ デ ジル」、1960年の「マダム ロシャス」、1961年の「カレーシュ」、1971年の「No.19」、1977年の「オピウム」でも使用されています。

ちなみにこの〝ムース ド サックス〟とは、リコリス、レザー、ヨードチンキが合わさったような強烈な異様な匂いのため長らく誰も飼い馴らせなかった合成香料イソブチルキノリンに、イオノン、バニリン、ゼラニウム油、アニス油、ネロリ油などを混ぜ合わせて作られパウダリーな質感です。

このメイローズと〝ムース ド サックス〟に、25%のサンダルウッドを加え、アイリス、スズラン、ヴァイオレットのアクセントを加えました。その結果、最も格別でバランスのとれたオリエンタルの花の香りが生まれました。

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フェルネット ブランカとマロングラッセを素肌で味わう。

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クリスマスの夜がやって来ました。家族みんなが集まる居間の暖炉で火がパチパチと音を立てています。蠟燭に灯がともされ、モミのクリスマスツリーの上にある星が厳かに光っています。そして温かい食事とケーキが食卓に運ばれてきました。窓の外では、しんしんと雪が降り続いております。完璧なクリスマスの夜です。

さてドアが開き、サンタクロース=アンバーと共に、スパイシーなローズを中心に、ジャスミン、イランイラン、チューベローズ、アイリスといった華やかなインドール全開のフローラルブーケが、ピリっとスパイシークリーミーなサンダルウッドの木の香りと共に冷気に乗って到来します。

すぐに温かい空気の中で、湿った緑と野生の動物たちの讃美歌のような〝ムース ド サックス〟と、オークモスやベチバーといった大地の息吹が、静かにフェルネット ブランカの苦みを輝かせてゆきます。サイレント・ナイトのはじまりです。

それらの香りと、赤ワインの雫を湛えたフローラルブーケがひとまとめに素肌に贅沢に溶け込んでいく中、マロングラッセのようなのまろやかなマロンの風味と芳醇なブランデーの芳香に包み込まれてゆきます。

まるでクリスマスキャロルが聴こえてくるようです。そして窓の外の雪が、清らかな心地よいパウダリーさを心に積もらせてゆきます。

毛皮のコートを着た、申し分のない身嗜みの幽美たる女性が、古い教会から、クリスマスのミサが終わり、出てきました。そして彼女は、雪が積もる舗道を、お香の香りを漂わせながら闇夜に消えてゆきます、そんな情景が感じられる、すこし謎めいた聖夜の香りです。

ちなみにカール・ラガーフェルド(1933-2019)は生前、クリスマスイブからクリスマスにかけて、聖夜の気分を盛り上げるために、家中にこの香りを振りまいていると言っていました。

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漆黒の闇の中を横切る、黄金のソリに乗るサンタクロース

エリザベス・テイラーと「ニュイ ド ノエル」

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フェリシエ・ヴァンピールがデザインしたアールデコ調ボトルが素晴らしく、漆黒のバカラボトルの周りのゴールド・バンドは、狂騒の20年代のフラッパーが額に巻いていたヘッドバンドを様式化したものでした。さらに印籠型のボックスもシャグリーン(鮫皮柄)でタッセルが付いています。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「ニュイ ド ノエル」を「マロングラッセ」と呼び、「調香師たちの間で、ニュイドノエルが手に入れた高い評価を私はずっと理解できずにいた。もちろん、キャロンはそのクリーミーなマロングラッセのベースを、ここでもっともピュアに表現している。その点はゲランの「ゲルリナーデ」に比せられる。」

「とはいえ、これはどこか、キャロンの中でもいちばんキャロンらしからぬ香水だ。 肉づきはいいが、識別できる骨格がないのだ。」と4つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:ニュイ ド ノエル
原名:Nuit de Noel
種類:パルファン
ブランド:キャロン
調香師:エルネスト・ダルトロフ
発表年:1922年
対象性別:女性
価格:28ml/26,250円


トップノート:イランイラン、メイローズ、ジャスミン
ミドルノート:スズラン、チューベローズ、ヴァイオレット・リーフ
ラストノート:アンバー、ムスク、オークモス、サンダルウッド、ベチバー