ローズ ポワブレ
原名:Rose Poivree
種類:オード・トワレ
ブランド:ザ・ディファレント・カンパニー
調香師:ジャン=クロード・エレナ
発表年:2000年
対象性別:ユニセックス
価格:90ml/19,000円(日本販売終了)
スパイスの棘に守られる赤いバラのものがたり
世紀末を迎え一人の男が香水業界の救世主伝説を生み出そうとしていました。調香師という存在に光を当てた男、フレデリック・マルの登場です。そして、彼のアイデアを聞き、いの一番に理解を示したのがジャン=クロード・エレナでした。
かくして2000年に、エレナは、マルの最初の香りのうちのひとつ「アンジェリーク スーラ プリュイ」を創造したのでした。
このマルとの出会いが、エレナに与えた影響は絶大でした。それが従兄弟のティエリー・ドゥ・バシュマコフと共に、ハイ・コンテンポラリー・パフューマリー『ザ・ディファレント・カンパニー』を2000年に創立する原動力になりました。
ティエリーは、ブルガリの「オ パフメ オーテヴェール」のボトル・デザインも担当したプロダクト・デザイナーでした。「最高品質の天然香料を駆使して、他にはないユニークでエレガントな香水を創ること」を目的に生み出されたこのニッチ・ブランドの誕生によって、エレナははじめて、自分が本当に生み出したい香りを創造することが出来るようになるのでした。
『ザ・ディファレント・カンパニー』とは、エレナの今までの香りの創造とはまったく違う(ディファレント)環境で生み出される〝芸術として身にまとう香り=21世紀の新しい香水のカタチ〟を世に示した集大成の場でもありました。そして、ブランド誕生と同時に、最初の三作品が発表されました。
そのうちのひとつが「ローズ ポワブレ」です。〝Rose Poivree〟とは、フランス語で〝ピンクペッパー〟を意味する〝poivre rose〟を逆にしたものであり、ローズの香りが強いピンクペッパーというニュアンスの意味となります。
美少年たちの失恋の薔薇の香り
ジャン=クロード・エレナのライフワークのひとつは、バラの棘を如何にして香りの中で表現するかということに対する挑戦でした(その総決算の香りが「ローズ&キュイール」です)。そして、この香りこそが、その〝はじめての挑戦〟でした。
長く鋭いバラの棘は、誕生と同時に茎に備わっています。つまりバラとは生まれた時から、戦う運命を課せられた気高き花なのです。バラの花びらの香りに最も強い影響を与えるのが、生命力溢れる緑の葉です。花と葉と茎が三位一体となり、芳醇な香りを野に放つのです。その香りの指揮者であり、防衛線の前線部隊がこの棘なのです。
その棘の香りを忠実に再現するのではなく、バラになぜ棘が存在するのかということを、〝ペッパーとソルティー〟によって表現しようと試みたこの香りは、フレッシュなピンクペッパーとベルガモットが弾ける中、ブラックペッパーと(カレーを思わせる)コリアンダーが注ぎ込まれ、新鮮に生き生きと咲く赤いバラの気配を感じさせるようにしてはじまります。
すぐに、グリーンベチバー(ベジタブルノート)とシダーウッドが大いなる大地を生み出し、その上に、ダマスクローズとセンティフォリアローズのエッセンスとアブソリュートの二重奏が奏でられてゆくのです。
どこまでもフレッシュスパイシーな朝露に濡れた植物の息吹(どこかメタリック)に包まれているのが、この赤いバラの香りの稀有な点です。
そして、スパイスに守られた赤いバラの背後から、シベットとクミンが襲来し、赤いバラは野生のものがたりを語りはじめるのです。あくまで最初から最後まで甘さを排除した、透き通るようなよろめく(汚れる)赤いペッパーローズがそこにおられるのです。
この香りをひとつの〝美しき十代〟のものがたりに置き換えるなら、男の子2人に女の子1人のものがたりになるでしょう。十代のふたりの男の子が、一人の同い年の女の子を巡り、恋の駆け引きをしているようです。
未知なる性に対する期待感と、純愛に対する理想が複雑に絡み合い、ピュアなアニマリックという珍しい香り立ちを生み出しています。そして、無情にも二人の男の子たちの目の前で、大人の男性が、少女の薔薇の蕾を摘み取ってしまうのです。
2020年にブランド創立20周年を記念し、この香りはジャン=クロード・エレナ自身によって再調香されました。バラの棘で守られた緑の葉の奥深くに潜むもっとも美しい赤いペッパーローズの新しいものがたりが語られることになりました。
タニア・サンチェスは『世界香水ガイド』で、「ローズ ポワブレ」を「フルーティ・ローズ」呼び、「私の記憶が正しければ、かつてのローズ・ポワブレ(ペッパー・ローズ)はまったく人前に出せるような代物ではなかった。シベットのアニマリックな糞の臭いが大量に入っていて、ローズの香りはほとんどしなかった。」
「なぜ覚えているかといえば、香水好きなゲイの友人とのディナーに、その香水を持参したことがあるからだ。そして、2人ともが同じ感想をもった。男性の汚れた下着の臭い。刺激的で不愉快で不適切でこっけいで、そしてすばらしかった。」
「さて同じ名前の、この新しいビンテージに話を戻そう。可愛らしく、フレッシュで高品質なローズの香りにライチとラズベリーのようなフルーツの素敵な香りがする。肌につけるとフルーティな香りが際立ち、紙や布に振りかけるとピンクペッパー(スパイシー・ハーバルともいえる)の香りが強調される。親しみやすくコクのある香りで、私の知っているローズの単一花香の中では、優れた作品だ。だが、あえていわせてもらうならば、私はこのフレグランスに睾丸がついていた頃が忘れられない。」と3つ星(5段階評価)の評価をつけています。
作品データ
香水名:ローズ ポワブレ
原名:Rose Poivree
種類:オード・トワレ
ブランド:ザ・ディファレント・カンパニー
調香師:ジャン=クロード・エレナ
発表年:2000年
対象性別:ユニセックス
価格:90ml/19,000円(日本販売終了)
トップノート:ピンクペッパー、コリアンダー、ブラックペッパー
ミドルノート:ダマスクローズ、センティフォリアローズ
ラストノート:ハイチ産ベチバー、シベット