ルペルスヴァン|ギリギリ人間の状態を保つ、最もうつくしい絶対美女の香り

セルジュ・ルタンス
©Serge Lutens
セルジュ・ルタンス
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ルペルスヴァン

原名:Le perce-vent
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2025年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/22,000円、100ml/32,560円
公式ホームページ:セルジュ・ルタンス

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『コレクションノワール』初のムスクが主役のフレグランス

©Serge Lutens

頭に浮かぶのは、息を呑むほど美しいサイクロン=台風の「目」だ。その静寂に包まれた中心部は、怪物じみた巨大な吸引力が生み出す恐ろしい風から身を隠すことのできる場所だ。この巻きつくボアコンストリクターの激しいワルツに吞み込まれた者たちとは異なり、「ルペルスヴァン」は風と共に消え去ることはないだろう!

セルジュ・ルタンス公式サイトより

セルジュ・ルタンスの『コレクションノワール』より、2025年7月1日に発売された「ルペルスヴァン」は、フランス語の意味は邦題と同じく「風を突き抜けるもの」です。ムスクの香りは、クリストファー・シェルドレイクにより調香されました。

〝『コレクションノワール』初のムスクが主役のフレグランス〟と公式アナウンスされていますが、これは正確ではありません。正確には、今は廃盤になっている「クレールドゥムスク」というムスクの香りが発売されていました。

驚くほど多くのムスクが存在し、その中には卓越した品質の分子構造を持つものもあります。私が手掛けた中で最も際立ったもののひとつが「ムスククビライカーン」です。これは官能性そのものを体現しています。この香りを世に送り出すためには、自らを奮い立たせ、堂々と「誘惑」の域を超えていく必要がありました。この場合、嫌われること(他人を不快にさせること)は一種の装飾であり、自分自身との対決です。1998年に私がこの香りを創り出した当時は、それは非常に大胆な作品と見なされましたが、今日ではクラシックとなっています。この香りによって、その意味を理解する一部の人々からは崇拝される一方で、他の人々からは嫌悪されることもあるでしょう。

好かれるということは、自分が近づきがたい存在の頂点、まさに崖っぷちに立たされているということです。この香りは、侮辱という選択であり、公然と示された挑発です。一方「ルペルスヴァン」は、ドリルのように突き抜けていく、深く浸透するムスクです。それは深く掘り進み、あなたはそれに引き込まれていくのです。

セルジュ・ルタンス(以下すべての引用は彼のお言葉)

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嵐を起こしてすべてを壊していくような、爽快感。

©Serge Lutens

『修道女ヘロニマ・デ・ラ・フエンテ』ディエゴ・ベラスケス、1620年。

「ルペルスヴァン」とは、サイクロンの目、つまり周囲の狂乱に巻き込まれることのない唯一の場所、 唯一、無傷でいられる場所……ただし、その目の中心にいられるという条件付きで! これは世界から身を守る方法であり、一歩引いて物事を見る方法です。なぜなら、どこにいようとも、私たちは不安を感じるからです。

なぜこのような状況に陥ってしまったのか、そしてどのように行動し、何かを表現すればよいのか? 深く掘り下げ、自分の内面へと潜り込むことはもはや不可能です。あらゆる分析能力はすべて失われてしまったのです。サイクロンの中心こそが、最後の秘められた王国なのです。

実際、その安息の地とは場所ではなく、私たち自身なのです。私の中には常にこの矛盾、氷の中に封じ込められた官能性があります。放棄こそが快楽なのです。ベラスケスの絵画『修道女ヘロニマ・デ・ラ・フエンテ』の力強さを眺めてみてほしい!美は不遇な者によって与えられ、それは別の場所、厳格な世界からやって来ます。それゆえに崇高なものとなるのです!これは私がぜひ手に入れたい一枚の絵です。

スノードロップほど魅惑的な花はありません。この花が私に呼び起こす思いを「ルペルスヴァン」という作品に綴りました。冬を乗り越え、氷を突き破り、再生する春の最初の陽光の下でようやく外の世界へと姿を現すこの花。こんなにも繊細な花に、どれほどの強さと意志の力があるのでしょう!

クリーンなホワイトムスクと花咲くハーブであるクラリセージが、アルデハイドの閃光を浴び、シュワっシュワっと泡立ちながら、ひとまとめになり、光のシャワーを浴びせるような感覚で、最初から最後まで満たされてゆく、シンプルな香りです。

それはスプレーを吹きかけた後、まるで目に見えない刃のように、心の中の澱みを吹き飛ばすように、心の疲れを取り、心の汚れを、ほのかな苦みのあるクラリセージ(とラベンダー、ミント)の鋭い爽快感が洗い流してくれるようです。

心とからだを解放する、すっきり甘いハーブのサイクロンが素肌に上陸し、心を通過して、ホワイトアンバーとパチョリを解き放ち、去っていくように…まさに嵐を起こしてすべてを壊していくような、爽快感に満たされていくようです。

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ギリギリ人間の状態を保つ、最もうつくしい絶対美女の香り

©Serge Lutens

まるでシャングリ・ラ ホテルの語源である、ヒマラヤ山脈の西の果ての白い霧の中にある地上の楽園シャングリラに到達するような、どこまでもピュアな、圧倒的に幻想性で包み込んでくれるのです。

しかしこの香りのシンプルさの奥にある不思議な魅力は、その中に、都会的なメタリックな感触が感じ取れるところにあります。つまりは、シャングリラだけでなく、シャングリ・ラ ホテルの部屋のドアを開けた瞬間のような、大都会の中の空中楽園に身を委ねるような、洗練された安らぎも感じることが出来るのです。

自然の空気の心地良さではなく〝作り上げられた楽園の隙の無い香り〟の完全犯罪と一体になっていくような、全身整形とボディメイクとエステで、ギリギリのラインまで磨き上げ、これ以上いじると破滅が待っている、そんなもっともうつくしい絶対美女のムードを漂わせてくれる香りと言えます。今が、最高に輝いている香りです。あらゆるラグジュアリー・ブランドのアイテムとの相性が最高な〝マネーシャワーを浴びる香り〟です。

シャネルの調香師でもあるシェルドレイクだからこそ生み出すことが出来る、更には、女性の人工美を追求してきたルタンスだからこそ到達することの出来る、潔く、自分の信じる美だけを追求する女性の勇気を称える〝守護神のような香り〟とも言えます。

私は常に、不安定さを創造的なものだと考えてきました。安定していることは心地よいですが、個人的にはすぐに飽きてしまうのです。現在、世界が経験している激動は恐ろしいものですが、おそらくここ数年で私たちが経験してきたどんなことよりも創造的かもしれません。この予期せぬ事態に直面して、新たな局面が現れつつあり、そこから何かが明らかになるでしょう。それは常に興味深いことです。私にとって確実性など考えられません。私たちは狂った世界の中で無に等しい存在ですが、それでもまだ私を驚かせるほど十分に狂っているわけではありません。

「ルペルスヴァン」とは、まさにそのようなものです。あなたはサイクロンの中心にいますが、そここそが、あなたを守ってくれる場所であり、あなた自身の危険の中心なのです。それはまた、アーティストの使命でもあります。美術館の中ではなく、自らの危険に身をさらすこと…死んでいない限りは!

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セルジュ・ルタンスのお言葉

オテル・リッツ・パリにて ©Francesco Brigida

©Francesco Brigida

以下、すべての文章は、セルジュ・ルタンス氏のインタビュー記事のお答えの抜粋となります。


Q.「ルペルスヴァン」はどのようにして生まれたのでしょうか?その創作のきっかけとなったイメージや思い出は何ですか?

A.孤独を通じてのみ、自分自身を取り戻し、再構築できるという感覚。周囲ではすべてが回り続け、ますます速く動いていく一方で、私との隔たりはますます明白になっていく。もはや私生活に関わる事柄以外には、何にも共感できない。

Q.「ルペルスヴァン」は目に見えない何かと対話しているかのようです。風のように、目には見えないが、その存在を感じることができる。それは慈愛に満ちた精霊なのでしょうか?

A.むしろ、不信感の精霊だと言いたい。そこは自由に出入りできる場所ではなく、むしろ非常口のようなものです!

Q.風はしばしば「自由」という概念と結びつけられます。これはあなた自身の比喩なのでしょうか?

A.いいえ、ここでは、社会を象徴する「風の牢獄」という概念です。私はその中心にいる。つまり、私の嫌悪感の中心にいます。そこで一人きりになれば、もしかしたら自分の好みを取り戻せるかもしれません。それはしかめっ面から始まり、最終的には自分自身との和解に至るのかもしれません。

Q.あなたの香水は、それぞれが自伝の新たな一章のようです。今回の香水は何を語っているのでしょうか?

A.どんな誘惑があろうとも、何も私を魅了することはできません。これはすべてがひっくり返る瞬間です。それは非常に内面的で、矛盾に深く結びついています。

Q.では、それはあなたの香りの壮大な物語の中でどのような位置づけにあるのでしょうか?

A.「ルペルスヴァン」は、対立状態にある時だけ姿を現す透明人間のようなものです。それは、内なる葛藤の中でしか生き生きと輝かないのです。10代の頃、ある夢を見たことを覚えています。私は落下していた。それはノートに付いた黒いインクの染みから始まりました。それは、インクを十分に含ませるために筆圧をかけすぎた、折れたペン先によって生じたものでした。ペンを強く押しすぎて、一筆書ききれずにインクが抜けてしまったのです。最初は小さかったその染みは、次第に大きくなり、やがて私が落ちていく、巨大で空洞の黒い穴へと変わっていった。それはとても息苦しい感覚だった!

数年後、私はその夢をある精神分析医に話したところ、彼はこう言った。「それはあなた自身です!あなたが見ているもの、それになるのです。あなたの中には、他者に溶け込んで消え去りたいという願望、一種の変容を望んでいるのです」。そう、私が見つめ、愛するとき、私はそのものになる。それは吸収であり、それこそが香水なのです!

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香水データ

香水名:ルペルスヴァン
原名:Le perce-vent
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2025年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/22,000円、100ml/32,560円
公式ホームページ:セルジュ・ルタンス


シングルノート:ムスクノート、クラリセージエッセンス、ホワイトアンバー