アズディン・アライア=ボディコンを発明した男
本作のグレイス・ジョーンズの衣裳はかなり個性的でした。とはいっても、角刈りにドラァグクイーンのような濃いメイクで登場する彼女の存在自体が個性的なのですが、全ての衣裳は、アズディン・アライアによってデザインされたものでした。
アズディン・アライア(1940-2017)とは、1980年代にボディコンシャス・ドレス、通称ボディコンを爆発的に流行させたファッション・デザイナーでした。そして、彼は、1957年にクリスチャン・ディオールに雇われたが、5日後に解雇された経験も持つ人でした(「私は、イヴ・サンローランだけは許せない」と後に言い放っています。ちなみに2011年のジョン・ガリアーノ解任後のディオールのデザイナーのオファーも断っています)。
彼はそのパーフェクトなテーラード技術とライクラストレッチ素材を融合させ、今までどのファッションデザイナーもデザインすることがなかった「選ばれし女性のためのドレス」を生み出しました。生地から女性のボディラインを浮かび上がらせるテーラード技術により〝ファッションの彫刻家〟とも呼ばれます。
41歳になるまで世間の注目を浴びることのなかったこの天才児は、若い頃はとてつもない美貌を持った、今は体型が崩れてきた女性のためのオートクチュールを手がけることにより、こつこつと腕を磨き上げてきたのでした。
裸体よりもグラマラスな服を作る人
アズディン・アライアの発想は、今までのファッションの概念とは明らかに逆の発想でした。今までのファッションの概念は、まず服があり、そこに女性のボディを落とし込み、理想のシルエットを生み出すことでした。それに対して、彼の概念は、まず理想的な女性のボディラインがあり、そこに裸体を裸体以上に際立たせるために服は存在するということでした。
ボディコンシャスの概念。それは、男性が女性に対して抱くセクシャルな願望の具現化であり、女性の潜在的なグラマラス願望を捉えた理想の具現化でもあったのです。だからこそ、彼の哲学は、「ボディこそ第一の衣服である」であり、余計な装飾のないシンプルさこそが女性を最も魅力的に魅せるという考えだったのです。
コンプレックスを隠すためのファッションではなく、長所をより伸ばすというアライア。そんな彼のミューズの一人こそが、グレイス・ジョーンズだったのです。
メイ・デイ スタイル1
レッドドレス
- デザイナー:アズディン・アライア
- レッドフードドレス
- 黒のパテントレザー太ベルト
- 黒のトーク帽
- 黒のレザー・ロンググローブ
- 黒のハイヒールパンプス
メイ・デイ スタイル2
ステルスモード
- デザイナー:アズディン・アライア
- ブラックマスク付きハット
- ブラックウールジャンプスーツ
- ブラックロングマント
- 黒のパテントレザー・ベルト
- 黒のショートグローブ
この何気ない黒子(ステルス)ファッションの中にこそ、1980年代に世界を震撼させたアズディン・アライアの本懐を見ることが出来るのです。
ウエストを絞りに絞り、肩パッドと脇の下をウイングのように見せる幅広のパットウイングスリーブにより逆三角形のシルエットを構築。そして、ヒップラインは、女性の丸みを廃した男性的な鋭角のカッティングを施し、女性らしさの中の少年っぽさを強調し、単色によって、全てを際立たせる。
この三重奏ともいえる様々な要素のコントラストが、アライア・ファッションの本質ともいえる「グラマラス」を生み出しているのです。
アズディン・アライアの革命。それは女性に翼を与える革命だったのです。
メイ・デイ スタイル3
ボディコンドレス
- デザイナー:アズディン・アライア
- 黒のボディコンドレス
- ブラックレザーガウン
- 黒のハイヒールパンプス、アンクルストラップつき
メイ・デイ スタイル4
フードドレス
- デザイナー:アズディン・アライア
- パープル・フードドレス
- 同色のレザーブルゾン
- ブラウンのベルベット地
なぜかブルース・リーを思い出す
『燃えよドラゴン』(1973)のオープニングで、ブルース・リーが、サモ・ハン・キンポーとオープンフィンガーグローブで対戦するシーンをご存知でしょうか?私はこの作品のグレイス・ジョーンズを見て、なぜかそのブルース・リーを思い出したのでした。
メイ・デイ スタイル5
レオタードスタイル
- ブラックレオタード
- ブラック・アームサポーター
- ブラックレッグサポーターとレガース
作品データ
作品名:007 美しき獲物たち A View to a Kill (1985)
監督:ジョン・グレン
衣装:エマ・ ポーテウス
出演者:ロジャー・ムーア/クリストファー・ウォーケン/グレイス・ジョーンズ/タニア・ロバーツ/アリソン・ドゥーディ
- 【007 美しき獲物たち】三代目ボンド=ロジャー・ムーアの最終作
- 『007 美しき獲物たち』Vol.1|ロジャー・ムーアとデュラン・デュラン
- 『007 美しき獲物たち』Vol.2|ロジャー・ムーアとルイ・ヴィトン
- 『007 美しき獲物たち』Vol.3|ロジャー・ムーアとレザーブルゾン
- 『007 美しき獲物たち』Vol.4|クリストファー・ウォーケンとカルティエ
- 『007 美しき獲物たち』Vol.5|クリストファー・ウォーケンとドルフ・ラングレン
- 『007 美しき獲物たち』Vol.6|グレイス・ジョーンズとアズディン・アライア
- 『007 美しき獲物たち』Vol.7|グレイス・ジョーンズとジャン=ポール・グード
- 『007 美しき獲物たち』Vol.8|タニア・ロバーツという悲劇のボンドガール
- 『007 美しき獲物たち』Vol.9|タニア・ロバーツの80年代プレイメイトルック
- 『007 美しき獲物たち』Vol.10|アリソン・ドゥーディと取貝麻也子